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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 田甫 啓
起承転結の「しょー」だな!

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 あくる日曜。朝起きてからずっとパソコンと向き合っている。


 少し前では考えられないくらい一つの物語に向き合えている。気がする。

 油断すると文字数を稼ぐ為に行を増やしている自分がいる。気がする。

 それでも自分が書くこの物語は語るに値するという自信がある。気がする。


 駄目だ。気がするばっかりだ。

 いや、大抵のことはそんな気がする。で成り立っていると思う。

 大体こうだろう、という経験則だったり常識で計るだけで、おおよそきっとこうという確度が高いだけだ。


 それを自分の事に当て嵌めりゃーね、そりゃーね、全部気がするになりますよ。

 合ってんのかい、合ってないのかい! どっちなんだい! とか叫んだりしますよ。

 心の中でね!


「駄目だ。凄い全然何一つ集中出来てないぞ僕」


 昨日見掛けた野枝小道のせいだ。

 今思うと、急いでいるにしては何処か鬼気迫るような雰囲気があったような気がする。

 全くもって気のせいな可能性もある。


 そう、ここでも気がする、だ。

 訊いたわけじゃないし。

 僕は分からないことは決めつけない男。なにせ分からないから。

 誤魔化したり、有耶無耶にすることはある。明確な意思表明をしないことで世渡りをしてこの年になった高校一年生。それが僕である……。

 よくないね。あんまりね。


 ちらりとスマホを見る。

 可哀想な事に忘れられて本分を果たせなかったスマホだ。

 でも仕方ないのだ。

 彼の中にある連絡先なんて数えるほどなのだから。


 その数少ない中に野枝小道の連絡先が登録されたのは記憶に新しく、昨日の様子をおかしいと思うなら訊くことはできる。


 訊いたことによって『なんて、あなたに言わなければならないのですか?』とか『作家は諦めて、目指すはストーカーですか? 警察をお呼びしますね』とか『明日になれば顔を見合わせるのに、そんなくだらないことで連絡しないでください。不快です。筆を折るといいですよ』ぐらい言われるかもしれない。こわい。


 そんなふわっふわの気持ちでキレのある文章が書けるだろうか。

 ふわふわしてようが、真面目に向き合っていようが出る時は出るだろうと思っちゃいるから、まあ書くか。少しでも向き合う時間が増えれば否応なく指を動かそうと思えてくる。


 一時間に仮に二、三行しか書けずとも書いたことには変わりがない。

 一週間そんな調子だったとしても、いづれは完結できるのだから一歩ずつ弛まず書けよ僕。


 ……まあ、そのペースだと野枝小道をあっと言わせたり、ぐうの音も出させることが出来ないだろうし。それどころか、『一週間も書けて、半分も書けなかったんですか? 仮に商業作家になったとして、その様子では締切なんて守れやしませんね』とか言われるかもしれない。


 まあ、それは僕も思うしいつか作家になった時の訓練と思って一週間ほどで完結まで書き切ってやる。そーいう意気込みを持ち続けよう。

 何度だってその意思を握りしめないと僕は早足じゃ書いていけないから何度だって決意を新たにしなきゃいけない。決意を固めなきゃいけない。

 僕の決意はやわらか素材で出来ているから握りしめて満足してしまいがちなのだ。


 そういえば、昨日受け取った連絡先入れてないな。

 帰り際に押し付けられた謎の大学生もといだいがくせーの連絡先。

 いやー、流石にねえ? 知らん人だよ。追加するかっていうとねえ。

 ほんの数時間、いや五、六時間同じテーブルで小説を書いていただけだぞ。


 そもとして小説を書くなんていうのは、個人競技なのだ。

 それもどれだけ早く走れていても壁で仕切られているからお互いがどれほど早いのか──出来栄えさえ分からない。自分のが一番だと信じて、これ以上に面白いものはないぞと言い続け書き続ける孤独な作業だ。


 仲間意識なんて湧くだろうか?

 少なくとも僕には湧きそうもない。なんたってライバルだ。

 同じ賞を目指すなら蹴落とす相手だ。目指すは大賞と目指すうちは譲れない。がんばったで賞で満足できたのは小学校までだ。


 孤独な作業の果てが、おい読者読めよ! 僕の書いた小説はめちゃくちゃ面白いんだぞ本当だぞ! と言い張るものなんだから、なんというかどうなの? と思ってしまう。


 色々思うところはあるけど、その個人競技は他人の介在するものではないとはいえ、同じ競技に出ている人がどこに居るかも分からないもので。

 小説投稿サイトを見るに、そりゃあ沢山居るわけで。

 それこそ、すれ違った人の中に小説家志望なんてもしかすると山ほどいるに違いない。

 作家志望なんてどこにでもいるはずだ。

 遍在するといっても過言じゃない。


「なーに考えてんだ僕は」

 やれやれと頭を振って、金髪頭から受け取った連絡先を持て余す。


 リテラシー的にね? 良くないよ。良くないんだけど、まあほら。

 名前も知らないのにどんな小説を書くかは知ってしまったから。

 少なくとも小説に向き合う姿勢はもしかすると僕なんかよりも立派なものかもしれないし──や、それはない。僕だって本気で目指してる。同じくらいだ──認めるべきだ。


 ということで登録しましょう、そーしましょ。

 うっかりファミレスで出会した時にウザ絡みされても困るし。


 ぽちぽちっと、とか言わないか。スマホだし。ガラケーの頃の小説だとそう書くかなーと思うけどスマホだととんとんとタッチしてーとか言うのかね? まあなんでもいいけども。

 広く使われているコミュニケーションアプリくんに新しい連絡先が追加される。一応とスタンプを一個貼り付けてアプリを閉じる。


 そっとスマホを裏向きに机に置いて、腕を組む。


「別にいいけどね。僕も名前教えてないし」


 表示名『未来の大作家』て。凄いな大学生。

 ちょっと流石に真似できない。しないけど。

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