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なりたいなら書くしかないですよって言われた話  作者: 由甫啓
起承転結の「しょー」だな!

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 土曜日の昼下がり、僕はファミレスに居た。

 ……小説に書く時ってこういったファミレスとかの単語を正確に、ファミリーレストランって書くのかファミレスとするのか悩むんだけど皆んなどうしてるんだろう。

 小さなことではあるけど、作中で何度も書くとなると悩みどころってやつだと思うんだよね。携帯とかスマホみたいなやつもそうだ。最初にスパッと決めておくのがいいに違いない。そんなとこで表記揺れして読者の気を散らすなんて以ての外ってやつだ。僕は気の使える男なのだ。


 とまあ、こんなことを言うと野枝小道あたりは悩む暇があるなら書きなさい。名称一つで面白さが変わるとでも? ぐらい言いそうだ。

 それはさておき、朝方のことを思い出す。


 柚子姉の用意した朝ごはんを食べながら寝る前に書いていた小説のことを想う。

 布団に入ってからのほうがなんで話の流れが思いつくんだろうとか、あそこ齟齬がある気がする、とか。なんなんだろうねあれ。


「悩んでるねえ。小説?」


 コーヒーを啜りながら柚子姉が食卓につく。母が居たならはしたないと言ったことだろう。厳しい母君なのだ。


「そうとも言えるかもだけど、文芸部廃部の危機とかそういうイベントがさ」

「へー、部活が廃部って穏やかじゃないねえ」


 あっそうだ。部活といえば、

「来週帰り遅くなるかも」

「なにかい廃部とかの関係?」

「なんか友達……いや、ライバル? うーん? とまあ暫く一緒に帰ることに」


 今思えばどういう関係だ? 僕は隣のクラスの人間に友達を作るほどのフレンドリー力はないのだ。

 遠藤先輩曰く、こういった時に出る『力』という単語は『ちから』と呼ぶのがお作法らしい。守っていると大きくなるらしい。確かにでかいから多分合ってる。


「お姉ちゃん、ちょっと嬉しい。中学の時、あんたずっと小説書いてて友達と遊ぶとかしてなかったから……」


 微妙に言い返しにくいことを言うんじゃない。即帰宅して小説を書き続けるのは傍目に、なんなら自分でも中学生らしさが欠如してるように思うし。

 ま、まあ? クラスメイトの名前も片手に収まるくらいしか覚えてないのは良くなかったなとは。


「ま、お姉ちゃんも大概アレだったけどねー。友達は大切にしなよ。創作で狂ってる時にそっとしてくれる理解ある友達は貴重で」

「柚子姉」

「ん、どうした?」


 小首を傾げる柚子姉は我が姉ながら美人と言わざるを得ない。彼氏とか居ないんだろうか聞いたことないな。

  テーブルの隅っこに置かれたスマホに目を向ける。画面上に浮かぶのは柚子姉の友達の名前で、


「その大切な理解ある友達からのメッセ、沢山来てない?」


 柚子姉のスマホ、音もなくさっきから画面のポップが凄いんだよね……。


「うっそ、あれ? 今日って土曜?」

「土曜だよ」


 だん、と両手をテーブルについて立ち上がる。ゆるい服着てるんだからやめて欲しい。そっと胸元から目を離す。


「お姉ちゃん、今から家出るからお昼は」

「大丈夫、高校生だよ僕。洗い物もやっとくから、ささっと行って来なよ」

「ありがとー!」

 コップを流しに置くと柚子姉が頭をぽんぽん叩いて、ばたばたと部屋から出ていった。

 

 玄関の閉まる音を聞きながら洗い物を済まして自室に戻る。

 昨日は三千文字書いた。休みだからね。それ相応に時間が掛かってしまっている。それでもパソコンに向かえばまだまだ全然手は進む。


 時間は午前の十時。お昼前まで書くとしてあと二時間ある。お昼はファミレスにでも行こう。土曜だし、混んでいても嫌だから執筆の時間を十三時までとする。


 決して軽やかにとは言えないけど、こうしようと決めた流れはあるしそこに肉付けしていくだけだ。書き始めもあって書くのが楽しい。


 書く。書き進めながら思いついた小ネタをスマホのメモ帳に書き込む。忘れない程度に、あくまでメモの範囲に留めておく。そうしないと、早くそこまで書きたい欲が出て勇足になってしまうのは経験上よくあることだ。


 寝る前に思いついた言葉や展開を書きながら、書いた部分と齟齬がないか改めて確認する。

 自分の小説を一番読むのは自分だ。何度も向き合うことになる。可能なら時間をおいて、忘れたくらいに確認するといいと言うけど、そこまで離れてしまうと興味が無くなりそうで怖い。何にしても書き終えてからの話だ。考えが離れてる。まだ三十分しか経ってない。トイレ行こ。


 柚子姉を真似てホットコーヒーを入れてきた。まだ眠気があるのかイマイチ頭が回っていない気がする。カフェインを特別信仰していないが頼れるものには頼ってみる。


 十行くらい書いては、ちょっと戻って書き直す。何日か前に書いた部分がなんとなく気になっていけない。

 ある程度書き直しが効く部分はあとでもいいと思うものの、ついもっと良く仕上げてしまいたくなる。こんなことばかりするから、筆が遅いんだぞ僕。作品全体の出来が最初の方ばかり良くなってしまう一因な気がする。

 ブラッシュアップの前にまず、もうちょい書け、せめて一章は終わらせたい。


 ……。

 ……へー、あれアニメ化するんだ。

「バッカ! ばーか!」

 ベッドにスマホを投げ捨てる。

 スマホは悪魔の道具だ。なんで掴んだんだ? メモ開いて、それで……流れるようにSNS開いたな。


「はあ、今は──まだ十一時半か」


 うーん、このまま書いてても同じことを繰り返す気がする。ちょっと早いけど、もう行くか?

 悪循環に陥りそうな気配があるし、気分転換は必要だ。場所を変えれば意識も変わる。


 ノートパソコンをそのまま閉じて鞄にしまう。スマホは置いてく。あれは手元にあれば時間だけを消耗してしまう。


 ということで、地元のファミレスで僕は一人ノートパソコンに指を這わせていた。

 昼ごはんはとうに食べ終わり、のたりのたりと重い指を懸命に動かして書けたのは僅か二十行である。食前食後合わせておおよそ一時間の成果である。情けねえなー、ちくしょう。


 でもいつだってリーズナブルな価格で美味しいドリアやらを提供してくれるこのファミレスにはドリンクバーがある。少し疲れたな、とか。気持ちを切り替えようと思えばいつだってそれを叶えてくれるのだ。その瞬間飲みたい物が飲めるって凄いぜ。


 コーラをおおよそ六割、メロンソーダを三、四割入れるオリジナルブレンドを嗜めるのもならではだ。この配分は正に完璧なもので、その味わい深さたるや僕にバオバブを思い出させてくれる。……バオバブフレーバーってなんだったんだろう。バオバブに風味もなにもあるかよ、いや好きだったけど。


 ドリンクバーから戻ると、知らない男が僕の席にいた。あろうことかノートパソコンの前に。顎に手を当て、おそらくスクロールしている。読んでいる。


 は?

 いやいやいやいや!

 ダメだろそれは! やっちゃあいけませんよ!


「ちょーっと!? あんた、なにやってるんですか!」


 男が顔を上げる。派手に染めた金髪は根本から黒に負けて半端さを感じさせる。若い、大学生だろうか? その顔は整っているのに纏う雰囲気が台無しにしている。なんというか胡散臭いことこのうえない。


「これ、お前か?」

 とパソコンを指差してくる。


「関係ないでしょ。どいてください!」


 ぼかぁね! 普段ならビビりますけど、こと小説こればかりはちょっと強気に出ますよ。店員さんもちらちら見てるし! 来いよ馬鹿!


 立ち上がった推定大学生の金髪男はひょろりと背が高い。百八十とかあるんじゃないか? えっちょっと、怖いじゃん。


 パソコン前をすかさず陣取り、モニターを見る。

 ……特に、なにも変わってないみたいだ。良かった。いや、よくねえよなんだこいつは。……なーんで対面に座っているのか。


「俺も書いてんだよ。しょーせつってやつをさ」

「さいですか」


 仮にそれが本当だとして人の小説を勝手に読むようなやつは馬に蹴り飛ばされたうえで豆腐の角に頭を打ち据え、ランニング中の学生の群れにでも踏んだり蹴ったりされればいい。


 許可なく読むなんてのは到底許されるものではないのはお分かりいただけるだろう。かつ開口一番許される言葉は「へー、面白いじゃん」「これ絶対書籍になるよ」ぐらいのものだ。


「お前高校生? 俺、大学生」

 なんか馬鹿みたいな自己紹介されてる。答える気が全く起きない。年上感が薄いんだよこいつ。


「勝手に読んだこと何も言わないんで、お帰りいただけます?」

「まあまあ、怒んなって。小説なんてのは読まれてなんぼだぜぇ?」


 金髪男はよいしょと立ち上がると「ちょい待ってろ」とか言いながら席を離れていく。待たないが? と思うが来てからそんなに経ってないので退店するのは負けた気がする。


「待たせたなー、高校生」


 ノーパソ片手にどかりと座る。対面に並ぶノーパソ二台と僕と金髪。いや、帰れ。伝票を置くな、店員さん困るだろそれ。


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