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巫女オーラに纏わる話

龍神の国の巫女

作者: アーク

龍王歴365年7月のはじめ。


龍の国のアルケイデス国王夫妻に第2子となる女子が生まれた。

陽光を集めた様なプラチナブロンドの髪と深緑の双眸を持つ王女は、生誕の祝いに訪れた龍の国の守護神である龍神様から直々に、古代語で黄金を意味する「オーラ」と言う名前を授かった。


聖地リュミエールの巫女スザンナは高齢で、長く見積もってもオーラが魔法学園に入学する頃には帰天してしまう事は誰の目から見ても明らかで、龍神様が直々の名付けは、次代の巫女を指名したものだとアルケイデス王は理解した。


アルケイデス王の友人である帝国の皇帝ゾハールは次代の巫女であるオーラに邪な考えを持つ者に対する防波堤として、名目上だけの婚約者として皇太子ミハイルの名を挙げた。


皇太子ミハイルとオーラは顔合わせの時から仲は良好であり、ミハイルはいずれ龍神の巫女として辺境の地で一生を終える事となるオーラの為に旧い文明にあった技術(オーバーテクノロジー)や今では廃れてしまった地方の伝統等の話をした。


『ミハイル様は、物知りなのですね』


オーラは従者が頭上にクエスチョンマークを浮かべる様な話題でも自力で調べたり、時にはミハイルに教えを請いながら知識を吸収していった。

その結果か、ロザリア男爵令嬢に異世界人の魂が入り込んでいる事に気が付くと国の為、世界の為にも龍神の巫女になる事は必要な事であると理解し、先代の巫女スザンナから業務を引き継ぎ、彼女が帰天すると同時に聖地入りを果たした。


龍神様は、ロザリア男爵令嬢の動向を知る必要がある、と特例としてオーラを聖地リュミエールから魔法学園に通学させる事を決めた。



アレッサンドロ王太子は、ロザリア男爵令嬢の奔放な振る舞いに頭を抱えていた。


過去の異世界人の様に違法薬物に手を出す事は無いが、生徒会の一員であるキリル、マルス、エドワードに対してその手の商売の経験でもあるのかと言わんばかりの距離で近付いてくるロザリア嬢に困惑していた。


「龍神様に近付く為には、わたくしと一定の仲にならなくてはならないのだ、と口にしていたと同室のアルマダ公爵令嬢が仰っていましたわ」


過去にも、ギャルゲー、乙女ゲームの世界だと言って国内を引っ掻き回した異世界人はいる。


妹の話を聞くと、ロザリア嬢の中にいる異世界人の記憶にある乙女ゲームによると本来同室である筈のオーラと20回以上の恋愛相談をする必要があるのだと言う。

その過程で、オーラが龍神様の巫女として聖地リュミエールに赴く事になる事を知るのだと言っていたそうだ。


「ミハイル様と親しくなる必要があるそうですが、ミハイル様はわたくしからロザリア嬢の肉体に異世界人の魂が入っている事を知っていらっしゃいます。彼女の記憶において学園内でいる筈のミハイル様と出会う機会が無いとあれば、わたくしとの恋愛相談の為にお兄様やキリル様、マルス様、エドワード様に声を掛けているのでしょうね」


ミハイル×オーラのカップリングしか勝たん!と謎の単語を発していたらしい。


「友人でも無い上に、わたくしの愛しい龍神様を横取りする計画にわたくしが関わる必要もありませんわ」


聖地リュミエールで龍神様から寵愛を受けているオーラは大きく溜息をはきながらそう言った。

兄として、妹が幸せそうで何よりだとアレッサンドロ王太子は思った。



ロザリア嬢は、この世界を俯瞰的に見る事の出来るゲームと言う媒体で所謂『攻略対象』と呼ばれる人材がどういった場所を好んで過ごしているのかを知っている。


宰相の息子であるキリルはそれをミシェル伯爵令嬢を通してオーラから伝えられた時、理事長から許可を貰い、敬愛する父の元に通いその仕事を見学する様にした。


『親の七光りの、未来の宰相』


そう呼ばれる事を嫌い、敢えて父から離れて生活を送る事の出来る魔法学園に進学したのだが異世界人に国を引っ掻き回されるかもしれない、とあれば学園にいる方が危険だと判断した。


父は優しいが、仕事においては厳しい。


城から学園に戻る際、「お前ならばこう言った案件が飛び込んで来た場合にはどうするか?」と必ず質問される。

今のところは、キリルがどんな解答を述べても


『まだ青いな』


と言われてしまうが、それはつまり伸び代があると言う事、学園に戻っても父からの質問に対して真摯に向き合い自分なりの解答を探し出して父に伝える時、『まだ青いな』の言葉が少し違った雰囲気を纏って伝えられる事もある。


確実に、少しずつ成長しているのだ。


将来、友人であるアレッサンドロ王太子を支える為にも父の期待に応え、いずれ『親の七光り』と陰口を叩く者を黙らせてやる、とキリルは思っている。



「マルス様、手ぬぐいです!お水もいりますか?」


稽古場から出て来たマルスの前にロザリア嬢が白い手ぬぐいと水の入った水筒を持って現れた。


「その水は、人間が飲用しても害にならないものか?」


それだけ言って、まだ何か言っているロザリア嬢をスルーして宿舎の自室に戻る。

各地の孤児院の子供達凡そ200人を食中毒にしたと言う事実をもう忘れたらしい男爵令嬢には関わり合いになりたくない、とマルスは思っている。


料理の行程事態に問題は無かったと言うが、使用された水に問題があった。


食用に水を使用する場合、一般的には巫力を用いて浄化した食事専用の水を使うと言う事は市井でも当たり前に知っている常識である筈なのだが、あの男爵令嬢は何を思ったのか井戸から汲んだ水をそのまま料理に使用したのだと言う。


井戸水には、魔術の源である魔素(マナ)が微量ではあるとはいえ含まれている。一見、何の問題の無い様に見えても魔素(マナ)の混ざる水の飲用は大人であっても倒れる事がある。免疫力の低い子供はなおの事だ。


「…フローレンス…」


孤児院でシスターをしている妹が、その名の由来でもある旧い時代の聖女の様に休む間も無く子供達の看病をしていると、神父が言っていた。


『心配しないで結構。毒あるもの、害あるものを断ち、人々を幸福に導くのがシスターである私の仕事です』


そう言う妹の姿を見ていると、ロザリア嬢に対して手が出そうになるが仮にも淑女に対して自分が手を挙げたと知れば悲しむだろう、といつもすんでのところで振り上げそうになる拳を抑えている。



「姉上、だいぶ疲れているご様子でいらっしゃいますが、少し、休みませんか?」

「ありがとうエド。でもね、わたしよりもオーラ様の方がずっと大変だもの。わたしは、そんなオーラ様に微力でも力になりたいのよ」


本来、龍神様は巫女となった人物の事に気を回す事は無い。

龍神様の花嫁、と言えば聞こえは良いが、実情は異世界との(ゲート)を封じる為に必要なビジネスパートナーであり、巫女が帰天しようと、職務に耐え切れずに代わりの巫女を連れて来ようと結果的に(ゲート)を閉ざす仕事に支障が無いのであれば人間である巫女に関心を持つ事は無い。


だが、生まれた時に直々に名付けに出向き、古代語で黄金を意味する名前を授けたオーラに対しては別である。


「今代の巫女、オーラ元王女殿下は、龍神様の番龍の生まれ変わり、と神殿の者達が言っていましたね」


龍神様は元々番でこの国を護っていたが、ある時代の異世界人が引き起こした災いにより最愛の妻を喪った、と言うのは誰もが知るところである。

その出来事もあり、暦が龍王歴に代わる前の時代に龍神様は人々の前に姿を現し「国で1番巫力の高い者を我が妻として差し出せ」と告げたと言う。


巫力は、この国の女性ならば誰しもが持っているものであり、龍神様の番龍がこの国の女性達に授けたものだと言われている。


龍神様は、巫力の高い者に番龍が転生している可能性に賭けて365年待ち続けたのだ。


オーラが聖地リュミエールに入ってからずっと、片時も離れず寵愛を注いでいるのがその証拠である、と言われている。


「やっと、姿形は異なるとはいえ、再会出来た最愛のふたりを引き離そう、だなんて。ロザリア嬢は何を考えているのかしら...」


姉マルガリータの言葉にエドワードは同意する。


オーラは龍神様と国民から愛され、オーラ自身も龍神様と国民を深く愛している。


これ以上、ロザリア嬢がふたりの仲を引き裂こうとしない事をただひたすらに願うばかりである。

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