聖女?だが断る!そして神は戯れる
呪術師の一族を囲い込むのは、帝国のとある貴族。そいつの後ろには。
「じじ……、ジョン、荒れてるな……」
はっ、いけない。後から来て惨状を目にした団長が引いている。
凶悪フェイスをお嬢様に見せないよう、ガス抜きに訓練にやって来たらこれだ。
考え事をしながら憤怒にかられていたので流れ作業的に手荒くやっつけてしまった。
死屍累々と横たわる騎士様達。
「すみません」
深く考えず手をフイっと振りエリアヒールをかける。騎士様達、完全回復。
「な、なんだ!?」
「打撲が全部無くなった……」
「酷使してやっちまった膝が痛まないぞ!」
「頭を打ってからぼやけ気味だった右眼が、はっきり見える!」
「古傷が消えただと……、」
「痒くない、しつこい水虫が治ってる!!」
「娼館に行ってからなんか変だった違和感がない!」
最後のは治したくなかったわ。
やり過ぎたがまあいい。聖女もジョンにひっ被せてしまおう。
「……ジョン」
「訓練に励む騎士の皆様に、神のご加護があったようです。それでは私はこれで」
「待て」
あ゛? 団長の後ろに誰かいた。
「貴様、聖女の力を持っているではないか!
今すぐ王宮へ───、っ!?」
イヤァアア! 嫌いなのよこの国の王族!
前世で大嫌いだったナルシストと、金にあかせて女を侍らせてた奴を兄弟王子のモデルにしたからね! なんでいるのよ!!
王もヘイトを詰め込んだのにしてた。
混乱のあまり転移してしまったし、当面ジョンは封印しよう。
夜、団長がボロ雑巾のようになって部屋を訪れた。
旦那様の寝室脇の部屋にお嬢様のベッドを入れたので、お二人はたくさんお話ししているだろう。念には念を入れ、部屋から出られないようゴブ親娘には頻尿と全ハゲを呪い重ねしたわ。子供までやるのは可哀想? 知らんがな。私、悪役ですので!
「……殿下がしつこ、いや、気にかけておられるんだが」
「なんで今日いたんですか」
「今の奥方が来られてから度々お見えだ。旦那様にタカっ、……旦那様が殿下にお小遣いを渡していたようで」
「ハァ!? そんな義理ないでしょう!」
「私に言われても。だが今回は断られたようで、うちの騎士と鍛錬したいと」
「憂さ晴らしにボコらせろ、と。接待鍛錬ですね」
なんとか会ってくれないかと泣き落としにかかる団長。だが断る!
「あまり遅い時間に居座られますと、妙な噂になります。お引き取りを」
「あの方は毎日来られるぞ」
「ジョンはいませんけどね〜」
より一層しょぼくれた団長を部屋から出すと、黒髪アーノルドが廊下を通りかかる。
「団長!? ……リリスとやら、フェリシア様を虐待するだけでは飽き足らず、団長を脅迫までしているとは!」
「はい?」
「あーやっぱ解ってなかった……、違うんだアーノルド」
「では何故そのように萎れて?」
「夜に男女が密会していてその思考になるんですか」
わざとらしくギュッと団長の腕にしがみつくと、失礼にも悲鳴をあげやがった。
「あら、先程はあんなにも熱く口説いてくださったのに」
「わざと誤解を招くのはやめたまえ! 私はジョンを誘っ」
「まあ! 似ているからと代わりにするおつもりでしたの!? 酷い!」
「団長───、」
「ち、違うんだ!」
「おふざけはここまでにして、と」
ぱん! と手を鳴らし団長に鎮静をかける。
「私の親戚のジョンを呼び出したいと団長様よりご相談がありました」
「ジョンを?」
「お前も聞いたろう。ジョンが聖女の力を行使し、殿下が目撃され興味を持たれた」
チッ。めんどくさいから記憶消しに行くか。それか本体消すか?
「おい顔。凶悪だぞ」
「失礼な。あれは使い切りの魔道具デスヨ」
「またそういう行き当たりばったりを……、魔道具出せ、または魔道具師を寄越せと言われるだろうが」
「チッ、対処しますんで大丈夫でーす」
「舌打ち! 何するつもりだ!?」
「───仲がよろしいみたいですね」
「ハイ」「どこが!」
アーノルドは困惑していた。冷酷な侍女の印象と今の彼女の乖離に。くるくると変わる表情には冷たさの欠片もない。
「……フェリシア様は」
ぱっと蕾が綻ぶような笑顔に更に動揺する。
「旦那様と仲直りされてお喋りしています!」
「え、大丈夫なのか。旦那様も冷遇をして」
「ええオズワルド団長。アーノルド様、これまでお嬢様を気にかけ──、」
聞こえてきた足音に、咄嗟に団長室へ転移した。
「「!!?」」
「失礼。お嬢様を気にかけて戴き感謝致します。お二人には話しておきましょう」
侯爵にかけられた呪いとあの親娘の正体。
「なんと……。リリス、殿はフェリシア様を守っていたのか。団長はそれをご存じで」
「ここまでの大事とは知らなかった。ただあの優しい旦那様が、いきなりお嬢様をぞんざいに扱うのは違和感があったが」
「お二人の和解もまだ誰にも内緒ですよ。屋敷内にネズミが入り込んでいます」
「ネズミ?」
「まだお話できないこともあるんです」
大掃除しますよ、と悪女顔でニヤリと笑うリリス。
怯えるオズワルドをよそに、アーノルドが
深々と頭を下げてきた。
「リリス殿、そうとは知らず失礼を……。」
「いえいえ、虐待を思わせるのが目的でしたので広めていただきありがたいですよ」
「それは、」
「私への態度も変えないで。ミッション継続、私は悪役侍女リリス・キャメロンです」
フェリシア様の侍女として騎士団に挨拶に来た時の印象は悪かった。
騎士に媚びてしなを作り、物欲しげな卑しい表情をしていたからだ。
(こいつにフェリシア様のお世話ができるか?)
巡回すれば、聞くに耐えない嫌がらせの暴言。腹を空かせた子にあのような仕打ちをするとは、あの女は悪魔かと憤った。
だよねーと幻聴が聞こえたが無視する。
ワゴンを押す侍女を見て、一瞬誰か分からなかった。初日とは全然違って見えたのだ。
凛として背筋を伸ばし、強い意志を何かに向けた凛々しい表情。
美しい、と思ってしまった自分が悔しくて思わず呼び止めた。言い捨てて去り際にちらりと振り返れば、あれは満足げに微笑んでいた。
違和感ばかり。
団長の腕に絡みつく姿にやはりと失望しながら、もやりとした。
楽しげに会話を交わす仲の良い二人にイラッとした。長く連れ添った夫婦のように息が合っていた。
悪者を演じあるじを守ろうとする意思も小気味良い話し方も、悪事を企み微笑う姿も好ま『なんで!?』、し…い。
??
「なんだ今のは」
アーノルドの脳内を知れば襟首を引っ掴み揺さぶりながら説教したであろうオズワルドは、明日からの王子襲来に頭を悩ませていた。
「でもこういう夫婦いる。気づけば捕まっている。オズワルド氏はそのタイプ」
「それな」
「評価が低域なので一度リリスに好意を感じたら負け。好感度上がるのみ。雨の日不良猫拾の法則発動」
「それな」
「他になんか言えば」
「それな」
「なんなんだ!? 頭の中で会話してるのは誰だ!!」
側からすれば完全にアウト。先生、世界の全員が私の悪口言っています! な案件である。だが安心して欲しい。これは単に暇を持て余す私の知人がポテチコーラチキンで見物してるだけなので。
只今の時間、演目はリリス・キャメロンと愉快な仲間たち。総監督は私の友神だよ。
「三人称視点乗っ取りは禁則事項」
「それな。だが神視点と言うだろう?」
「あっ、ならいい……の……?」
フフフ、お前の相手をしながらナレーションを務めてやった。しかも言い分が洒落てるだろう! 私が神だ!
「それな、しか言ってなかったが」
あ゛? なんだよ急に冷静になりやがって。ダメだろキャラが神視点と話すのは。自重しろただのニンゲン。
「なら人に分かるように話すな!!」
あ、マイク切り忘れてたわ。メンゴメンゴ。仕切り直して悩んでて! ポチっとな。
「なんかリリス殿を思い出す! やめてくれハゲる! 彼女の笑顔が頭から離れない!」
「知ってる。それは恋」
違うと思うが面白ければいい。神々は退屈なんだよ。




