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7/10

侍女でなく女王か魔王か




「カフェ!! お母様と一度だけ入ったことがあるの」

 ウキウキお嬢様、本日は裕福な商家の娘設定の装いです。デートだよ!

「何を召し上がります? お薦めは小さなドルチェ盛り合わせですよ」

 私は侍女ではなくお目付け役的な渋い服装。オールドミス風に髪を引っ詰め地味にしている。

 まだ十八だけどね! 背も女性にしては高いし偉そうだから見た目年齢は二十代半ば。



 「小さな森の妖精のお茶会」と「草原の泉と小鳥と花々たち」と言う盛り合わせを頼む。 

 マジパンや飴細工でできた繊細な妖精や小鳥。チョコケーキの丸太や橋。

シュークリームやタルトがお茶会のテーブルを賑わしている。

 花たちはスポンジケーキの土台の上、バタークリームや生クリーム、果物で形作られ咲き誇る。端にはゼリーの泉。マカロンが周りを囲む。緑の草は何だろ。

 これらが15センチのお皿のなかに小さな小さな世界を作る。


 ケーキと焼き菓子による、お皿の上に広がる名前通りのメルヘンな情景にお嬢様大喜び。

 これは映える。携帯欲しい。あ、できるじゃん。

「何をしているの」

 もったいなくてなかなか食べ始められないお嬢様。大丈夫ですよ!

「思い出を残しています。後から見られますよー」

 可愛いスイーツを記録水晶に収める。

 もちろんお嬢様の笑顔もね。壊すのがイヤで嘆きつつ食べたけどお味も大変美味でした。



 大満足のカフェを出て雑貨屋や露店でアクセサリーや雑貨を眺める。

「これ、素敵」

「お嬢様には安物すぎますがお気に召しましたか」

 蝶と花を蔦が取り巻く銀の髪留めは、なかなか繊細な造りに小さな宝石を多くあしらったもの。

 さすお嬢様、センスが良い。

「リリスに似合うわ。私はお金ないから買ってあげられないけど……」

「!! お嬢様、お揃いにしましょう! お嬢様のお金はたくさんありますが私からプレゼントさせて下さい!」

 隠蔽をかけてつけて貰おう。他人から見えずともお嬢様が見られればいいのだ。防御魔法も付与しよう。

 素材は高くないから程々しか付与できないが、造りの良い品には魔法の乗りが上昇するのよ。



 遠慮していたお嬢様だが、私が泣き真似をしたら笑って頷いてくれた。

 銀に若草色や深緑の石を散りばめたのを私に、暗めの銀に水色や青をあしらった上品なものをお嬢様に。

 お嬢様は明るいプラチナブロンドだからダークシルバーが良いの。

「ありがとう! 似合う?」

「この上なく」

「リリスも素敵よ」

 お嬢様とお揃い、本当に幸せ。



 あー、でも練習で黒髪にやられて悔しい。疲れてたからね! でも奴は強化魔法なしだったなあ。男女差は致し方ない。



 あれから真面目に鍛えている。

「ジョ、ジョン。もう一度頼む。指摘が欲しい」

 訓練終了後に一人の騎士が申し入れてきた。人をジ◯ースター家みたいに呼ばないで。

「いいですよ」



 シャワーを浴びに戻ろうとしてた皆の注目が集まる。

 刃を潰した模擬剣でなく、木剣にしてもらう。疲れた時に事故は起こりやすいし。

 私は自作した竹刀。



「いざ」

 彼は真面目で、基本に忠実な剣筋が読みやすい。きちんとした騎士が私みたいな歳下の生意気少年に教えを乞えるのはすごいと思う。なのでこちらもマジにやります!



「その動き、教本通り」ビシッ。

「狙いがあからさまです」バシッ。

「基本ができてるのは良いですが」ガシッ。

「そこからの! プラスαで」ドシュッ。

「強くなり! 団長も倒せるッ」バサァ。

「誘い上手になって! 僕が思わず懐に飛び込みたくなるよう!」ポリョン。

「そうしたら僕をヤるのも可能ですよ!」

バッシャアーー!!



 ところどころ効果音がおかしいのは、私が搦め手を使うからですね。ずぶ濡れで砂を被ってるから悲惨なこと。いや、砂をかけたから洗ってあげただけだよ。

 はー楽し。真面目くんをおちょくる……、いえ、翻弄し叩きのめすのは。

 いつの間にか自分が笑っていたのは青褪めたオズワルド様で分かった。必要以上に恐れられてないか?

 ───突然押し掛けて自分の腕を切り捨てる女。私もビビるわ、うん。精神的にヤベー奴という意味で。

「ほら早く僕を征服してみせろ!! 生意気な奴を好き勝手にしてやりたいだろう!? 想像してみろ、僕が泣いて赦しを乞う姿をッ」

 させないけどな。



 調子こいてたら相手がふらりと後ろに倒れそうになる。ヤバっ、危ない! 後頭部はいけない!

 思わず駆け寄ると「貰ったッ」と半身になり木剣を突き出してくる。

 良いじゃない!



 大きく跳躍して騎士を飛び越える。

「なっ!?」

 前のめりになるところへ空中回転し背中に軽く蹴りを入れた。倒れ込んだ身体を踏みつけて抑え、後ろから首に腕を回して拘束。



「今のはイイ。捨て身になるのはそうそう使えませんが、こうしてあなたの首に腕を回してしまうくらい上手な誘いでしたよ」

「い、いやあれは少し頭に血が……、」

 たらりと鼻血が! 足をどけ体を仰向けにする。

「上半身を起こせますか。僕にもたれかかって、そうです。誰かタオルを」

 バックハグの体勢で治癒する。念のためスキャンするが脳にダメージはなし。

 さっきから騒めくばかりで誰も動いてくれないから催促する。




「ジョ、ジョン! 私が代わる。そいつには刺激が……」

「俺の相手もしてくれ! 今みたいに!」

「こちらが先だ」

「先輩ズルい!」



 大人気だわ。好評を博したようで何より。

「リ……、ジョン。わざとか?」

 団長が皆を追い払ってから意味不明に訊いてきた。なんですかその顔。

「わざと? 好き放題やったのは認めます」

「はぁ……。オレは知らんぞ」

 あ、本来の一人称オレなんだね。

 黒髪アーノルドは何か釈然としない様子で私を眺めている。なんか勘が良さそうなんで気をつけよう。



 そんな平穏な日々に事件が起こる。

 父親がお嬢様に会いたいと言うのだ。あ、会いに行くの忘れてたわ。気になってたんだ。

 いきなり会わせたくない。フェリシア様改・1号、出陣!



「ふ、フェリシア……いつの間にこんなに大きく。アルディアに似て美しくなったね」

「…お父様?」

 お嬢様改・1号の声は固い。今更? という気持ち、もしかしてとの少しの希望、ハゲ散らかした悲惨な姿への驚愕…

 いやこれは私の心情。1号に感情はない。


「あっ、すまない、少し待ってくれ」


 呪いを一時的に解こう。トイレばかりじゃ話が進まない。見ていてアレだし吹き出物も消す。

 ……呪い、か。


「失礼。なあフェリシア、嘘だろう?私が再婚したと執事が言うんだ。私がアルディア以外を愛するなんてあり得ない」


 そういう事か。


「口を挟むご無礼お赦しください。旦那様は魅了にかかってらっしゃいましたね」

「!?」


 父親、いえ旦那様を深くスキャンする。


「おそらく奥様が亡くなられた辺りから仕掛けられていました。ですが旦那様は揺るがず。前侯爵ご夫妻ご逝去の傷心の隙をつかれ完全に掌握されてしまったようです」


 ピン、と指を弾けばフサフサの茶髪が蘇る。地味ながら整っているのでなかなかイケてる。

不能や頻尿も完全に消した。

 改・1号を消そう。

「フェリシア!?」

「ただの人形ですよ。私が薄情な旦那様を呪った時、妙な手ごたえだったのです」

「の、呪っ…」

「思えばあれは、気づかずにダンゴムシを踏み付けてしまった靴裏に覚えるような感触。強力な呪いに上書きされ魅了は解呪されたのでしょう」

「り、リリス……、君は一体」

 そう、旦那様は被害者だった。

「ご安心を。お嬢様の絶対的味方とだけ」



「で、あれはどこの売女ですか」

「…よく知らない。小さい頃の友達だと言うが覚えはないんだ。夫婦になんてとんでもない、僕はまだ妻を」



 呪術師の家系。今は絶えたと言われているが、細々と存在するのを知っている。

 そう、作者である私が設定したから。


 その一族は帝国ヴェステリオスに在る。



 魅了…とは少し違うな?

「どうやら旦那様の、奥様お嬢様への愛情をあの二匹に転換したようです」

 アルディア様を愛していた旦那様に、本人が生きている間は術が効くはず無い。亡くなられ心が弱り、敬愛していた侯爵夫妻の事故死という悲劇に動揺したところをやられたんだ。


「そんな」

「つまり、愛情を盗んだ。フェリシア様を愛するように、あのゴブリンを愛させた…」

 これは冒涜だ。旦那様の心変わりならまだ仕方ないと言えよう。だが奴らは人の心を最悪な形で踏み躙ったんだ。

 許せない。赦してはいけない。これを許可するならば一族郎党を。


「り、リリス。顔、顔が…」


 知らぬ間に般若の如き形相になっていた。旦那様の言葉に横目で鏡を見て自分でヒッ! てなったわ。迫力あるなあ、つくづく悪役顔だ。


 ただの魅了ではなくもっと酷い。

 お嬢様に与えられるべき愛を奪っていた。

 お嬢様は愛されていたのに。



 どう料理してやろうか。

 バックにいる蟲共々、地獄を見せてやる。



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