どうしたら別れられるのかしら……
監禁してるつもりなんだろな、これ。
城のそこそこ豪華な客室に通され鍵をかけられた。
監視役の騎士やメイドには寝ててもらう。生活魔法の超安眠だよ。
ノックがあったので鍵を開け、案内して来た召使いも寝てもらう。
そこには私を救う白馬の騎士が! なんちって。
いつものオズワルド団長とアーノルド様の驚いた姿だけ。ささっと部屋の中へ招く。
「リリス……」
「オズワルド団長、会いたかったですわ!」
(なんて嘘をついてくれてんだよ!!)
(ゴメンなさーい⭐︎)
(離婚届にサインしろと王城へ引っ立てられたんだぞ!!)
( いざという時は王族ポイってするしかないですね!)
「やめろ!!───え?」
(なんか念話できてますね)
(もう嫌だ、先日は自称神がおかしな会話をしている幻聴がしてきたし……)
(あのオコジョですか?)
「オコジョ?」
「ハリセンを持った自称神です」
(三人称は神視点というだろ? とドヤっていたが……)
(他にも何か、正確に言えます?)
「〝あ、マイク切り忘れてたわ。メンゴメンゴ。仕切り直して悩んでて! ポチっとな〟」
お仲間かしら。友神で神友かしらね。
「まあそれは置いといて。どうしましょうオズワルド団長。私たち別れるよう申し付けられました」
「待て。そもそも付き合ってすらいない」
「ええ。ですので別れるのは不可能で悩んでいます。───どうしました、頭痛ですか?」
「お前と会ってから胃痛と頭痛が絶えない」
「おかしいですね。恋で痛むのは心臓では」
(突っ込んだら負けだ。しかし今はせざるを得ない)
「リリス、」
「とまあ冗談はこれくらいにして」
「……話が見えない」
彫像のように突っ立っていたアーノルド様が口を開いた。
声に出した会話を最初からリプレイします。
リリス……
オズワルド団長、会いたかったですわ!
やめろ!!───え?
オコジョ?
ハリセンを持った自称神です。
あ、マイク切り忘れてたわ。メンゴメンゴ。仕切り直して悩んでて! ポチっとな。
念話をなくすとこれ、電波な人の会話だわ。こっわ。
誤魔化して本題に戻ろう。
「アーノルド様、お気になさらず。残念ながら王家を洗脳したりまとめて処分するのは今は無理です」
「最初から選択肢に入れるな!」
仕方ない。真実を一部開示しよう。
「実は私、神の御使いなのです」
沈黙。どう? 驚いた? ……あら、何ですかお二人ともその目は。それに見覚えがあります。
前世で上司が突然「昨日、宇宙人に会ったんだ」と言い出し謎の言語を操りマシンガントークを始めた現場に居合わせた。
部長に連れられ退出してから姿を見なくなりましたね。噂じゃ療養休職だとか。
その時の周囲の目です。恐怖と憐れみと困惑。つまりヤバいと判断されている。
「いやいや私はまともですよ? 見てください、どこからどう見ても正常です。私が異常なら全国民異常ですよ、あなたは神を信じないですかー?」
あっなんか泥沼化してる気が。オコジョが爆笑してる幻影が見えるわ。
「……なんか二人分の爆笑が聴こえる」
「団長……」
アーノルド様、最初の会話を思い出して団長もそちら側と判断したのね。
一緒になって後退りなんかしてみよう。
「オズワルド団長、お気の毒に」
「なんでおまえまで正常なフリしてんの?」
紳士をかなぐり捨ててるわ。
話が全く進まないので収納からティーセットを用意する。お嬢様の気が向いたらいつでもどこでもお茶できるように準備してあるの。私、デキる侍女ですので!
ホントにここは客に茶のひとつも出さないなんて。あっ、メイドを眠らせてたか。テヘペロだわ。
茶葉は一番安い私用でいいや。
「サンドイッチと焼き菓子です。ローストビ
ーフ、チキン、卵と胡瓜の三種があります。空間魔法で収納してましたので出来立てですよ」
「───食うか」
「───はい」
考えるのをやめた二人が疲れたような顔で食べ始める。私もいただきますっと。
このチキン、蒸し具合が絶妙だわ。あの性悪はなんでこう腕がいいんだろ。パンは水気を含まずふっくら、ローストビーフの焼きも胡瓜の下処理も完璧。負けた気分になるわね。
「聞くがリリス、魔王の手下じゃないんだよな?」
サンドイッチを食べ終えフィナンシェに手を伸ばすオズワルド団長が、恐る恐る聞いてきた。
「顔です? 顔で差別するんですか? ひどい……昔からこのきつい顔で損してばかり」
嘘泣きしたらアーノルド様が慌てている。
「団長! なんて失礼な。リリス嬢、これを」
ハンカチ渡されたけど涙出てないし。
「アーノルド見ろ、目は乾いてる」
「アーノルド様の優しさに涙も引っ込みましたわ。オズワルド団長、話が進まないのでちょっと静かにしててください」
「絶対に俺のせいじゃない」
使ってないからそのまま返す。
「御使いは大げさでした。要はオコジョに丸投げされました」
「オコジョ……? 何かの暗喩なのか」
深読みするアーノルド様。あまり変わらない視線。埒があかないので最大の秘密を教えてあげよう!
「私がこの世界を作った存在なんです。神っていうか」
あっ、客観的に見てこれ最高にヤバい人だ。おかしいな真実を語るとキティなGuyになる。
「リリス殿、疲れているのか」
「この状況で気遣われると死にたくなりますね」
「!! す、済まない。気を使うのはやめよう」
真面目だわアーノルド様。
当面どうするか。オズワルド団長と別れられない問題に王族どうする問題。
「どうしたら別れられるのかしら……」
「いや本題は絶対そこじゃないよな!?」
うん待てよ。あのクソ王子についてオズワルド団長が言った。
今の妻が来てからタカリを始めたと。虫どもが王族に食い込んでるのか。
もう一度ゴブ母に話を聞かないと。その前に実験をしてみよう。
ふむふむ。ほう、そうかそうか。
「何かしてるだろ」
「国王一家をひとりずつ呪ってみました」
「うん?」
「ブタ鼻になる呪いです」
真顔になる二人。
「残念ですが四人のうち二人しか呪いが通らなくて」
「ャァァア! 殿下の、は、鼻が豚に!!」
「うわあああ!?」
私をドナドナした第二王子の悲鳴。その母の王妃の絶叫が遠くから聴こえる。
「「──────」」
「実験です。解呪します」
ペイっと手を振る。
「……やはり魔女では? いや魔王?」
「制約をかけられてる神っぽい何かですよ」
なんか怯えた風情の殿下が来たので畳み掛けます!
「殿下、オズワルド団長と結婚というのは嘘です」本当
「実は私、呪われていて」呪う側です
「美しい私に目を付けた魔王から花嫁にと徴をつけられて! 婚姻はおろか交際もできません」『交際できないの別の要因』『趣味悪にされた魔王が気の毒だな!』黙ってて神。
「殿下や王族の御身に何かが起こる前に解放して下さい! 最初は警告ですが、次はもっと恐ろしいことが!! 私さえ犠牲になれば人間界には関与しないという話です!」
そうだ、慰謝料もらっとこ。
「魔王様に、よしなにとご挨拶の品を贈った方がいいですよ。私が渡しておきます。へたなものではお怒りを買いますので!!」
ここで脚を豚にする。
「ひいっ!!??」
「あっ大変! 愛しい私を連行されかなりお怒りのようです! さあお急ぎを、全身豚になってしまう前に。私が見繕います!!」
あちらさん大慌て。城からペイって出されました。演技に熱が入っちゃった!さあ帰りましょう。
「…………」
「……リリス殿、魔王に狙われているのか」
「おい何を見てた! 詐欺師じゃねえか! 国宝一つに王妃の装飾品ひと山せしめてただろ!? しかも何も謝ってねえし! 不敬すぎてもう何が不敬か分かんねえわ!!」
「あらよくお気づきで。アレに下げる頭は持ち合わせませんの。帰りたいので馬に乗せて──、」
リリスー!! とお嬢様の声が。あれは侯爵家の馬車!
「リリス、リリス大丈夫!? 迎えに来たわっ」
「お嬢様ー!! ありがとうございます! 全部解決致しましたっ」
私の胸に飛び込んでくるお嬢様。
キャッキャしていると頭に? を浮かべた旦那様が聞いてきた。
「リリス、大丈夫なのか? きみが連行されてから団長に呼び出しがかかって……。ふたりは夫婦なのか?」
「頬が腫れてますね」えいっ。
「治っ……、」
「私、聖女で魔王の嫁に望まれている設定です。なんかそうなりました。団長とは別れられませんでしたが、結婚してないのでセーフでした」
「???」
「閣下、まともに聞いていると脳がやられます。とりあえずお戻りを。護衛いたします」
体力より気力を奪われ疲れ果てたオズワルドは、やっと団長室でひと息ついていた。
「……アーノルド、リリスが神というのは嘘じゃないかもしれん」
「団長……」
「やめろその眼。俺が会話を聴いた自称神と彼女がそっくりなんだ。あの人を食った話し方とか。王族にカケラも敬意がない尊大さは普通の民じゃないだろ」
「聞いた声……、魔族に誑かされてはいませんか」『失礼な!』「は?」
『ああ面白かったー! あれは逸材だな〝オコジョ神〟』「「はあ!?」」
『やめろ。おいそこの騎士たち、遺憾ながらあの変人女を助けて、てかストッパーやれ』
「え、あの、あなたは魔王で?」
『違う!! 私が神だ! 神を信じろ!』
『リリスそっくり』
『どこがだ!!』
『そこなる団長とやらにも似ているな』
『あいつの被害者だ、誰でもこうなるわ!』
『あ、時間。ばいばい』
「「──────」」




