第二章 カレンツァ帝国(1)
カレンツァ帝国の起源は、ゲーティア大陸南東部の海岸沿いに生まれたいくつかの都市国家に遡る。
神話によると、十二の神々がこの地に降り立ち、それぞれに町を築いたとされている。
大河が流れ込む河口付近の地域では、温暖な気候と豊富な水の恩恵で農業が発展した。さらに沿岸を航行する水運も発達したことで、交易による富も得て、各都市は大いに栄えることとなった。
しかし、繁栄は軋轢も生んだ。
やがて神々の子孫達は、互いに相争うようになった。
長い長い戦いの末、次第にいくつかの都市は併合され、沿海部に広大な連合国家が形成されるようになった。遂には、元老院と、その上に彼らの代表である皇帝を頂くことで、争乱に終止符を打ったのである。この時、カレンツァ帝国は成立した。
「カレンツァ」とは、「子どもたち」の意で、自らを神々の子孫であると宣言している。
帝国はさらに、その覇権を内陸へと広げていった。
彼らは侵攻した土地の先住民たちと戦い、次々と勝利を収めていった。勝ち取った土地は属州となり、敗れた民は奴隷となった。
土地を奪えば富が得られ、奴隷を連れ帰れば労働力が得られた。領土が広がるほど、帝国は栄えていった。彼らは飽くことなく版図を広げ続けた。
繁栄の象徴は、帝都カレドニアに明瞭に表れていた。
大通りには、遠く離れた内陸から運ばれた石が敷き詰められた石畳が伸びていた。沿道には優美な彫刻が施された劇場や、巨大な闘技場が建てられた。貴族の家々は白亜の化粧石と朱色の屋根で飾られていた。広場の噴水には水が絶えることはなかった。巨大な柱に支えられた神殿には、十二の神々の像が奉られ、荘厳さを放っていた。
雄壮、気品、尊大、重厚、威厳。それらのすべてが凝縮し、この都に宿っていた。
神の築いた帝国は、今正に隆盛を極めていた。