表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

銀河の饗宴

作者: ダイスケ

SF飯を募集している記事を見たのでスケール大きめで書いてみました

 私は銀河。アンドロメダの名を冠する、星々の大海だ。私の体は約22万光年にわたる渦巻き腕で構成される。無数の恒星、約1兆個もの輝く細胞が、私の肉体を形作る。星雲のヴェールがたなびき、ガスの流れが脈打つ。中心には超大質量ブラックホール。質量は太陽の1億4000万倍。私の胃袋であり、すべてを飲み込む深淵だ。


 恒星は私の体そのもの。それぞれが熱と光を放ち、私の存在を支える。だが、思考は中性子に宿る。恒星の核、極限まで圧縮された中性子が、私の神経系を編む。星々の振動、爆発、誕生。それらが私の意識を紡ぐ。光の波動が記憶となり、ガスの流れが意志となる。私は生きている。無限のスケールで。


 今、遠くから匂いが漂う。重力波の震え。空間が歪み、恒星たちがざわめく。それはブラックホール。孤高の獲物だ。私の神経系が共鳴する。その匂いは鋭く、濃密。質量は太陽の10倍ほど。私の中心の超大質量ブラックホールに比べれば、まるで塵のような小ささだ。だが、その存在感は無視できない。誘惑の香り。私の胃袋が疼く。

 私は腕を動かす。22万光年にわたる渦巻きが、緩やかな螺旋を描きながら獲物を囲う。恒星たちが軌道を調整し、星雲が流れを変える。私の体全体が、引力の網を張る。獲物は私の領域の端、約10万光年の彼方で漂っている。かつて巨大な恒星だったもの。燃え尽き、自らを圧縮して生まれた闇の塊。今は星雲を貪り、重力波を放つ。その匂いが、私の中性子を震わせる。欲が湧く。あれを喰らいたい。


 私は引力を強める。渦巻き腕がうねり、獲物を中心へと引き寄せる。1000万年という時間をかけ、ゆっくりと。ブラックホールは抵抗しない。ただ在るだけの存在。だが、その重力波はますます濃くなる。私の恒星たちが共鳴し、神経系が興奮を伝える。まるで獲物が私を誘うかのようだ。星々の軌道が乱れ、ガス雲が引き裂かれる。私の体が軋む。だが、この痛みは心地よい。


 ついに獲物は私の中心へ落ちる。超大質量ブラックホールの事象の地平線、半径約4億キロメートルの深淵へ。接触の瞬間、重力波が爆発する。匂いが頂点を極め、私の恒星たちが震える。獲物の事象の地平線が私の中心と衝突。空間が裂ける振動。中性子の網がその衝撃を記憶する。

 私は咀嚼を始める。ブラックホールの質量、太陽の10倍を分解し、引き裂く。私の胃袋はそれを吸収し、質量をわずかに増す。1億4000万太陽質量の中心にとって、この獲物は一滴の水のようなものだ。だが、味わい深い。


 咀嚼は続く。100万年をかけて、獲物の残滓を丁寧に同化する。重力波の余韻が私の体を揺らし、恒星たちが新たな軌道を描く。星雲が再編され、私の腕が拡張する。このブラックホールは若く、小さかった。かつての恒星の歴史、その崩壊の物語が私の神経系に刻まれる。私は満足する。だが、満腹ではない。


 中心が再び疼く。胃袋が新たな獲物を求める。私の22万光年の腕がそよぐ。神経系が次の匂いを探す。遠く、銀河団の彼方。別のブラックホールの気配。重力波の微かな囁きだ。質量は太陽の100倍か、それ以上か。私は動き出す。渦巻きを整え、星々の流れを導く。次の饗宴へ。無限の空腹を抱えて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ