不安
鈴香は直紀をチラッと見てうつむいた。
「わたし……お料理できないの」
「料理なら俺、ある程度できるけど」
「ちゃんと奥さんをやる自信がないし、だいぶ先の話だと思ってたから……」
直紀はほっと息を吐いた。
「結婚嫌ってわけじゃない?」
「嫌なんて!むしろいつかはしたい」
「結婚が嫌なのかとてっきり……」
直紀は胸に手を当てた。
「家事は妻がやること、なんて古くない?」
「えっ」
「やりたい方がやったらいいじゃん?」
鈴香は「確かに」とうなずいた。
「だから、家事のことは気にしないで」
「ありがとう」
鈴香は笑みを浮かべた。
「結婚前提に付き合ってくれる?」
「うん」
直紀は鈴香を抱きしめた。
「あっ、そうだ。ご両親に挨拶しないと」
「あー……」
鈴香の表情が曇る。
「どうした?」
「それが……わたしの親厳しいんだよね」
鈴香は苦笑いした。
「ほんとは付き合って良い人の条件も厳しくて」
「何それ」
「黒髪の人、タバコを吸わない人、ピアスしてる人もたぶんダメ」
直紀は困った顔をした。
「俺タバコ吸うし、ピアスもしてるしダメじゃん……」
「で、でも、警察官だし!そこでプラマイゼロに、なるかも……いや、ならないかな……」
鈴香は苦笑いした。
「会うときだけちゃんとしてれば!何とかなるかも」
「ほんと?」
「たぶん?」
直紀は小さく息を吐いた。
かなり不安そうだ。
「あっ、香水もダメだよ」
「はい……」
「面接のつもりでね」
「面接ね……」
直紀は苦笑いした。
(そんなに厳しいご両親なのか……?怖くなってきた)
直紀は小さく息を吐いた。
夕方、直紀は車で鈴香を家の近くまで送った。
「じゃあまた」
「うん」
鈴香は車から降りると、小さく手を振った。
直紀は笑みを浮かべると、車を走らせた。
(言わなきゃな、直紀くんのこと)
鈴香は小さく溜め息をついた。
表情を暗くして家へ帰った。
「ただいま」
「おかえり」
鈴香はリビングに入った。
「楽しかった?」
「うん」
鈴香は深呼吸した。
「あの……実は、彼氏できまして……」
「え?」
鈴香はうつむいて、手を組む。
手汗が出てくるし、心臓はうるさい。
「どんな人?どこで出会ったの?」
「えっと、職場で。かっこいい人」
「へぇ」
鈴香は唾を飲んだ。
「お母さんたちに会ってみたいって言ってて……」
「いいけど……片付けなきゃ」
「いいの?」
ふたりともうなずいた。
「ありがとう」
鈴香はほっと息を吐いた。
鈴香は直紀に電話をかけた。
「直紀くん?」
『うん』
「あの、親に話した。会ってもいいって」
『そっか。スケジュール確認しとく』
鈴香はカレンダーを見た。
「わたしのシフト送ろうか」
『鈴香がいいなら』
「うん。じゃあ送っとくね」
鈴香は小さく息を吐く。
「会うとき緊張するだろうなぁ」
『ほんとにそれ。ガチガチかもしれない』
直紀は笑った。
「でも、直紀くんなら大丈夫。しっかりしてるから」
『そんなことないよ。……あっ、ひとつ言ってなかったことがある』
「え?」
何だろう、言ってなかったことって
『俺元ヤン』
「は?」
『昔ヤンチャしてました』
え?直紀くんが元ヤン……?
「えぇ!?」
『黙っててごめん。でも、今は真面目に生きてるから』
「え、警察官って元ヤン大丈夫なの?」
『うっ……ま、まぁ捕まったりしてなければ大丈夫なんだと思う。俺警察のお世話になったことはないから』
直紀くんが元ヤン……
確かに見た目チャラいなっていうのが第一印象ではあったけど
「ケンカ強いんだ」
『まぁ、そうだな。だから、犯人捕まえるの得意なのかも。身体能力が高いってのもあるかもだけど』
「頼もしいなぁ」
鈴香は目を細めた。
『守るのは得意だから任せろ』
「うん。……あっ、そろそろ切るね」
『おう。おやすみ』
「おやすみ」
鈴香は電話を切った。
(声聴くと幸せな気持ちになる)
鈴香は笑みを浮かべた。




