溢れる想い
直紀は鈴香を離すと、親指で彼女の涙を拭った。
「今まで俺こんな感じだったっけって思うくらい好き」
「嬉しい」
「なんか、鈴香といると良い意味で落ち着かない」
鈴香は首を傾げた。
「頭の中でシミュレーションしててもその通りにできないんだよなー」
「そうなの?」
「うん。例えば……手出さないって決めてんのにキスしちゃうとか」
ふたつのくちびるが触れ合った。
「ほら我慢できない。鈴香のことになるとおかしくなるんだ」
「なんか、可愛い」
鈴香は笑みを浮かべた。
「鈴香の方が可愛いよ」
「わたしなんて全然」
「マジで可愛い」
直紀は鈴香をソファに寝かせた。
彼女は驚いた顔をしたあと、顔を赤くする。
「はぁ〜ダメだ、俺」
直紀は溜め息をついた。
「1回殴ってくんない?」
「へ?」
「じゃないと、俺ヤバイ」
直紀は困った顔をした。
「今日こそ何もしないつもりでいたのに、なんでこうなるんだよ……」
鈴香はクスッと笑った。
直紀を抱きしめる。
「直紀くんはかっこいいけど、可愛い」
「ありがと。……ね、キスはいい?」
ドキッ
鈴香は恥ずかしそうに小さくうなずく。
直紀は彼女に口付けた。
「はぁ……好き」
直紀はつぶやくと、もう1度キスした。
「鈴香、好き」
(直紀くんがヤバイ……!ほんとにスイッチ入ってる!)
「な、直紀くん?」
「キスはいいんだろ?」
「い、いいけど……」
鈴香は目を逸らした。
「もっとキスしたい」
「えっと……」
『1回殴ってくんない?』
直紀の言葉を思い出した。
彼が顔を近付けてくる。
鈴香は直紀の頬をつねった。
「す、鈴香?」
「殴るのはできないから」
「まぁ、止めてくれてありがとう。ごめん」
直紀は鈴香の体を起こす。
「俺こんなだから油断しないように。今度護身術教えとこうか」
「ふふ、その方がいいかも」
「何かあったときのためにもね」
鈴香は首を縦に振った。
鈴香と直紀は階段を上がる。
「俺の部屋汚いかも」
「玄関もリビングも綺麗だったし、綺麗ってイメージだけど」
ガチャ
「恥ずいけどどうぞ」
「わぁ……!」
部屋もすごいオシャレ!
は、入っていいのかな?
鈴香は直紀の顔を見た。
「入っていいよ」
「失礼します」
鈴香はゆっくり中に入った。
床と壁はグレーの木目調で、家具はダークウッドで揃えられていた。
大きい本棚にはびっしりと漫画が並べられている。
よく見ると1段は普通の本が並べられていた。
「なんかいい匂い」
「恥ずかしいから嗅ぐなって」
直紀は恥ずかしそうにつぶやいた。
ムスクの甘い香りがほのかにする。
「アロマ好きなんだね」
「そうだな。アロマとか香水は好きかも」
「漫画アクション系が多いんだね」
鈴香は興味深そうに本棚を見る。
「うん。バスケ漫画も好き」
「バスケやってたの?」
「高校のときにな」
「スポーツ万能なんだね」
鈴香はふと机を見た。
警察手帳が置かれている。
直紀はそれに気付く。
「鈴香は俺が昇格したら嬉しい?」
「ん〜良くわかんない。でも、直紀くんが無事に過ごしてくれたらそれでいい」
直紀はうなずいた。
「俺、鈴香を守れる男になりたい」
直紀は真っ直ぐ鈴香を見た。
彼女は目を細める。
「じゅーぶん守られてるよ」
「幸せにしたい」
「わたし今幸せだよ」
直紀は少し困った顔をした。
「じゃあ、改めて言うけど……俺と結婚前提に付き合ってください」
鈴香はまばたきした。
「え……えぇ!?」
「そんなに驚く!?」
「え、いや……結婚、はどうかな」
鈴香は苦笑いした。
(え、ダメってこと?結婚は嫌ってこと?)
直紀はうつむいた。




