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2.道中

宙に浮いた自転車はまるで透明の上り坂を駆け上がるかのように進んでいった。ライとヒロは作り上げていったものが成功した喜び、ナツは空想の世界が現実になったことへの驚きでいっぱいだった。


思わず身を乗り出しそうになったところで後ろからヒロに掴まれた。


「車と違ってシートベルトとか無いんだから、大人しく座っておけよ!」


そう言われて下を見るともう地面は遠くなっていた。山や田んぼなどの緑色しかない風景に段々と白いベールがかかっていく。


「もうすぐ大気圏から離脱するよ。」


ライの言葉に思わず目を瞑った。体に感じる空気が一変した。というよりも宇宙であるならば空気がなくなったという方が正しい。ところが不思議な事にナツはさっきと変わらず普通に呼吸をすることができた。体に大きな異変を感じることも無かった。ただ、全身がペタペタとラップで包まれているような、そんな感覚だった。


「うわあ!すげぇや!宇宙!」


今度は後ろでヒロが身を乗り出しそうになるほど興奮していた。ライはそんなヒロに注意することもなく、足を止めて初めて見る宇宙の景色をうっとりとして眺めていた。


「想像以上だ!これはすごいなあ!」


やがてライがゆっくりと自転車をこぎだした。ナツはようやく目が暗闇に慣れてきた。ただの暗闇とは違い遠くにキラキラと星々が輝いていた。自転車の動きに合わせて星が踊っているように見えた。


「ねえ、さっき宇宙旅行って言ってたけど、どこに行くの?」


ナツは今さら聞くことではないと自覚しながらも、驚きと興奮が落ち着いてきた中で言った。


「宇宙には何千、何万もの星があるんだ。そこを可能な限り旅する!初めはどこがいいかな~。」


ライはそう言って自転車に備え付けられているモニターのようなものを操作し始めた。


「可能な限りって…具体的にどのくらい?」


旅には終わりがあるものだ。ナツは非日常的なものは日常があるからこそ面白いのだと思っている。


「うーん…死ぬまで?」


だからこそヒロから出た言葉には驚いた。ナツたちはまだ子どもで、一般的な寿命を考えたら後何十年もあるということになる。


「死ぬまでって…帰らないの?」


「ナツは帰りたいの…?」


ライは前を見たまま言った。どんな表情で言っているかわからなかった。


「俺は絶対帰りたくない!地元は大好きだし家族も大好きだけど帰ったら平凡な生活に戻っちまう。」


ナツは自分の胸に手を当てて考えてみた。平凡な生活。ナツは昔のことを思い出そうとし目を瞑ったが何も浮かんでくるものはなかった。帰らなくてもいいかもしれない。このまま2人とずっと旅ができたら楽しくて幸せかもしれない。2人と一緒に過ごすことはナツにとって紛れもない日常だ。


「ナツも帰りたくない。」


そう言うとライはこちらに振り返り微笑んだ。


「そう言ってくれて嬉しい。どっちみち連れていくつもりだったけどね。」


こうして話していると急に自転車のタイヤが黄色く光りだした。正確にはタイヤの周りに電気を帯びているような状態になっていた。


「充電が溜まったみたいだな。」


ヒロが荷台に乗ったまま自転車のタイヤに手を伸ばし叩こうとすると、電流が流れたのか手を抱え痛そうにうずくまった。


「危ないから触らないでって言ったのに…。自転車をこいでエネルギーが溜まると、他の星の近くまで移動できるワープ装置を起動できるんだ。」


ライはナツに自転車の各箇所を指さしながら説明した。ナツは半分も理解できなかったがこれもまた見た方が早いだろうと思った。


「で、記念すべき初めの星はどこにするか決まったのか?」


痛みから復活したヒロが電流に触れないよう(ちぢ)こまりながら聞いた。


「シャキ先生で調べてたんだけど、ここから一番近いのは子どもの星らしい。」


ライは再びモニターを操作しながら言った。シャキ先生というのはそのモニターのことらしい。


「子どもの星…?星って、てっきり火星とか金星とかそういうのだと思ってた。」


ナツの問いかけにヒロは思わず吹き出して答えた。


「そんな何も無いところに行って何が楽しいんだよ。少なくとも動物かロボットとかの生命体がいるところに行こうぜ。」


ナツはもはや自分の常識が通用しないんだとわかった。こんなにも広い宇宙で宇宙人の一人や二人存在しないと考える方が現実的ではないのかもしれない。


「じゃあ行ってみよう。子どもの星に。」


ナツが言うとライは頷いてシャキ先生(モニター)の決定ボタンを押した。

するとシャキ先生が自転車から離れ宙に浮いた。モニターの画面と呼ばれる部分には黒背景に白で絵文字のような顔が表示され、その口が開き話し始めた。


「子どもの星に向かいます。基本情報をお伝えします。子どもの星では子どもたちが楽しく支えあって暮らしています。人口は3,614人、面積は…」


シャキ先生はいかにもロボットという男声のAI音声で子どもの星に関する情報を話している。モニターの顔も音声に合わせて口が動いたり瞬きをしたりしている。


「ライー、これとばせないの?」


ヒロがシャキ先生が話している横からライに話しかける。


「思ったより長いね。次から省略バージョンにするよ。」


それからもシャキ先生の説明は続き、そろそろ3分になりそうなところでようやく終わった。


「それでは行ってらっしゃい!Have a nice trip!」


そう言うとシャキ先生から突然黒い霧のようなものがプシューという音とともに出始めた。よく見るとその霧は側面の充電口のようなところから出ている。そしてその霧はやがてきれいな長方形になった。ドアのような形でどうやら入口のようだがその先は真っ暗で何も見えない。


「これがワープ装置だよ。入るともう目の前には子どもの星があるはずだ。」


ライはペダルに足をかけ、ワープ装置にめがけて発進する準備をした。シャキ先生は気付くと自転車のもとの位置に戻っていた。


「それじゃあ吹き飛ばされないように掴まって!」


「吹き飛ばされるの!?」


ナツは怖くなり、ライの首を絞める勢いでがっちりと掴まった。ライが苦しそうな声を出したため、少しだけ緩めた。


「ちょっと!俺は何に掴まればいいんだよ!」


ヒロは急いでナツのお腹に腕を回し後ろから抱き着くような形で掴まった。ナツは身動きが取れない状態になったが、逆に固定されている方が吹き飛ぶ心配が無く、安心感があった。


「それじゃあ出発するよ!さん!にー!いち!」


その掛け声と同時に自転車は動きだし、ナツたちはワープ装置に吸い込まれていった。

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