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1.始発

ナツは眠っていた。とっても深い眠りだった。


「おーい。ぼけーっとしてると置いて行くぞ。」


少年特有の高い声で誰かがナツに話しかけた。小学校の合唱でソプラノ組に入れられそうな声だ。


なんだか懐かしいようにも感じた。


「ナツは眠っているから。」


あれ。ナツの一人称ってナツだったっけ。自分で言いながら不思議に思った。


「何言ってるんだよ。起きてるじゃねーか。」


そう言われたとき、ナツは眠っていたのではなく、暗闇の中で目の前が見えていなかったのだと気付いた。


そして視界が段々と(ひら)けていき、同時に全ての感覚が戻った。


ナツは田んぼの中の畦道(あぜみち)を歩いていた。前には栗色(くりいろ)の髪の毛が特徴的な男の子が道の石ころを蹴りながら歩いていた。


「小学生のころのヒロにそっくり!」


ナツは思わず大声で口に出してしまった。声に懐かしさを感じたのにも合点(がってん)がいった。


「何言ってんの?そっくりも何も、俺は小学生のヒロだけど。」


「え?」


思わずナツは自分の体を見た。明らかに小学生の体格だった。


「だってナツたち…」


そう言って言葉に詰まった。なぜナツは自分たちが小学生くらいの年齢であることに疑問を感じているのだろう。考えるほど頭に(もや)がかかったような状態になる。


「早くしないと、ライが待ちくたびれるよ。」


ヒロはそう言って一足先に走って行ってしまった。この道は一本道だし、どこに向かっているかも予想が着く。とりあえず思考を整理するためにナツはゆっくり歩いていくことにした。


まず、もう一度自分の体を見た。淡いピンクのワンピースに真っ赤なスニーカー。髪の毛を見ると少し驚いた。白に近い金髪だった。それを三つ編みにしてちょうど肩にくっつく程度の長さだった。それ以外は特に目立った特徴は無かった。


そんなことを考えていたら目的地が見えてきた。


「結局、外見のことしか整理できてない…」


ナツは自分にがっかりしながらも一度思考をやめた。


目的地は山の(ふもと)だった。登山道の入口で少し整備されており、特に何がある訳でもない原っぱだが子どもたちの溜まり場に打って付けの場所だ。


「ナツー。ヒロが待ちくたびれてるよー。」


そこには1台の自転車に2人が乗っていた。ライが運転席、ヒロが荷台に(またが)っている。


そしてライも当然、小学生だ。ヒロのツンツンしたハリのある声に比べ、ライの声は透明感があり、ふんわりとした声だ。緑のヘルメットを被っており、そこからはみ出したもしゃもしゃのくせ毛がトイプードルみたいで可愛かった。


「こんな早朝からどこに行くの?」


晩夏(ばんか)くらいで早朝は半袖だと少し肌寒かった。空気は良いがこんな田舎でも流石に出歩いている人はいない。


「宇宙だよ。僕が宇宙まで飛んでいける自転車を作ったんだ。名付けて、ライジングスペース1号。」


あまりにもさらりと言うものだから、ナツは一瞬理解ができなかった。


「宇宙?自転車で?信じられないよ…」


驚いて固まってしまったナツにライは不思議そうな表情をした。


「言ってなかったっけ?まあ、とりあえず乗ってよ。」


どうやら荷台に乗れということらしい。そこにはヒロが一人分のスペースを空けて待っている。


「実際、動かしてみた方が早いよ。ライは超絶すごい発明家なんだ。」


百聞は一見に如かず。ナツは言われるまま自転車の荷台に(またが)りライの肩に手をかけた。ヒロはナツの後ろで荷台を掴み、腕に体重をかけるような形でもたれかかっている。


ライが自転車のペダルに両足を乗せる。力いっぱいにこぎ始めると、みるみるうちに自転車は宙に浮いていった。


「行こう!僕たちの宇宙旅行へ!」



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