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「ミギャ!」
「あっ」
鋭く変な猫の声と、一瞬遅れて久保田の声が背中から聞こえてきた。
振り返ると久保田が防波堤の上にいた。
そして下の海を見ている。
「どうした」
声をかけると久保田が真っ青な顔で俺のところに来た。
「もう帰ろう」
「えっ、来たばかりだぞ。何かあったのか。変な猫の声がしたが」
「いいから帰ろう」
帰りのフェリーまで時間がある。
その間、俺は久保田にいろいろと聞いてみたが、久保田は「もう帰ろう」としか言わなかった。
次の日、久保田は会社に顔を出さなかった。
連絡もない。
上司に言われて俺が久保田のアパートに様子を見に行った。
部屋の鍵は開いていたが、久保田はいなかった。
携帯も財布もあるというのに。
――なんだ?
部屋の隅にノートの切れ端が落ちていた。
そこには「猫の声が聞こえる」と大きく書かれていた。
その後、久保田の姿を見た者は、誰もいない。
終