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ある愚かな男の話

作者: 芝生

悪役令嬢なら自分にも書けるかな?と思い書きました。

勢いで書いた結果、悪役令嬢の物語ではないものが出来上がりました。

読んでいただけると嬉しいです。

今から話すのは()()()()()()の話だ。

王国の第一王子として生まれた男がいた。

その男は天才だったわけではないが優秀であり、努力を怠らない男だった。

幼少の頃から王族としての教育を受け、その努力の甲斐あって見事王太子となった。

貴族の通う幼年学校でもその男は常に優秀な成績を収めた。

常に1位の成績というわけではなかったが、未来の王としては十分に優秀だった。

賢君にはなれぬが暗君にもなならない。

平和な国を維持する王としては正に理想の王だった。

その男の父たる現王は、安心してその男に王位を譲る時を待ち望んでいた。

その男の母たる現王妃は、その男の治世で夫と共に平和な余生を過ごすことを夢見ていた。

その男の弟の第2王子は、兄が王となったあとに影ながら補佐するのは自分だと思っていた。

その男の婚約者の公爵令嬢は、未来の王妃となりその男を支えるための努力を怠らなかった。

貴族も、王国の民も、周辺諸国も、誰も彼もがその男が次の王になると、それが当然だと思っていた。


ある日突然、王太子たる男の廃嫡が発表された。

だが、貴族も、王国の民も、周辺諸国も、誰も彼もがその男の廃嫡に疑問を持たなかった。

多少の混乱はあったがそれが当然だと受け入れたのだ。

その男は貴族の通う幼年学校を卒業したあとに貴族世界の縮図たる高等学校へ進学した。

その男は幼年学校時代の時のように入学当初から優秀な成績を収めた。

その男の人生の歯車が狂いだしたのは入学から1年たった時からだ。

ある男爵令嬢が高等学校に入学してきた。

その令嬢は男爵が平民の女性との間に生まれた庶子だった。

その令嬢は平民として育ち、最近になり男爵家へと迎え入れられた。

男爵は、その令嬢を貴族令嬢とすべく高等学校へ入学させた。

だが、それは間違いだった。

その令嬢には、本来幼年学校で学ぶはずの貴族令嬢としての基本はまったく身についていなかった。

その令嬢は高等学校では完全な異物となった。

異物であるが故にその令嬢は目立った。

目立ってしまったが故に王太子たるその男の目に留まってしまったのだ。

あとはお決まりの展開だ。

その男は興味からその令嬢に話しかけ、恋に落ちてしまったのだ。

そして恋に落ちたのはその令嬢も同じだった。

その男とその令嬢はお互いに想いあってしまったのだ。

その男の婚約者の公爵令嬢は、婚約者の立場からその令嬢との関係を適切な距離を保つように諫めた。

その男の弟の第2王子は、弟の立場から昔あこがれた兄に戻って欲しいと懇願した。

その男の母たる現王妃は、王妃の立場から国を混乱させる気かと叱責した。

その男の父たる現王は、王たる立場から未来の王たる責任を説いた。

そのすべてが徒労となった。

その男にとって公爵令嬢は、愛する男爵令嬢との仲を裂く悪女となった。

その男にとって弟の第2王子は、王太子の座を狙う憎き相手となった。

その男にとって父と母は、自分を王太子としてしか見ていない、自分を愛してくれていない人となった。

その男にとって男爵令嬢だけが自分を理解してくれる唯一の存在となってしまったのだ。


ある日、男爵令嬢の中に新しい命が宿った。

もちろん、その男の子供だ。

その男は大いに喜んだ。

愛する男爵令嬢との子だ。喜ばないわけがない。

その男はこの幸せを大勢の人に祝福されたかった。

その男はこともあろうに高等学校の創立記念パーティで男爵令嬢との間に子供ができたことを発表したのだ。

その男と男爵令嬢は事の報告を受けた王の命令により派遣された王兵に即刻捕縛された。

その男の婚約者の公爵令嬢は、発表の現場にいたためにショックのあまり気絶してしまった。

その男の弟の第2王子は、愛に狂っていく兄を止められなかった自分を責めた。

その男の母たる現王妃は、あまりの怒りと悲しみのそして自分の不甲斐なさに床に臥せった。

その男の父たる現王は、息子たる王太子の未来を憂い静かに目を伏せた。

その男の醜聞は貴族に、王国の民に、周辺諸国も知られる事態となった。

その男の廃嫡が決定した。

その男は国内の辺境での軟禁となった。

男爵令嬢は貴族籍を抜けさせられ修道院へと送られた。

その男と男爵令嬢の子供は王城での一生の軟禁生活が決定した。

王太子の廃嫡という事件から1年が過ぎ、5年が過ぎ、10年が過ぎたころに

その男の弟の第2王子は王位を譲り受け王国の王となった。

もうその男は王国にとって過去となったのだ。


「で、その過去が足元に転がっているコレですか?センパイ?」


・・・。


「私センパイのこと尊敬してますけど、その変な語りのしゃべり方は苦手です。」


なぜだ?威厳ある姿であろう?


「スミマセン。一応センパイなので言い方に遠慮しました。キモイのでやめてください。」


・・・。


「あと忠告ですけど、いきなり自分の過去を女性に語り始めるなんて口説いてるようにみえますよ?」


・・・。


「話を戻しますけど、今回の任務は元王太子の暗殺だったわけですけど、わざわざセンパイがくる必要はなかったんじゃないんですか?」


・・・。


「遠慮せずに言いますけど、我らが太陽たる王がわざわざ愚かな兄を自らの手で暗殺する必要はなかったのではないかと・・・。」


・・・これは自分へのけじめだよ。

僕は兄上が大好きだった。

幼いころの僕は兄上が王になった時に僕が兄上の役に立つのにはどうしたらいいかをずっと考えていた。

だから父上に相談して自ら王国を影から支える暗部の扉を叩いたんだよ。

文字通りに兄を影から支えるためにね。

男爵令嬢と関わっていく度に変わっていく兄上を止められなかった。

いつかは大好きな兄上に戻ってくれると信じていた。

だから当時の僕は父上から発せられた男爵令嬢の暗殺命令を止めたんだ。

父上にはきっと昔の兄上が戻ってくるって説得してね。

世間は兄上を()()()()というけれど、本当に()()()()は僕だよ。

当時の父上の暗殺命令を止めなければ男爵令嬢1人ですんだ。

あとは兄上がいなくなった男爵令嬢の悲しみを乗り越えれば、誰もが望んだ兄上の治世が続いたはずなんだ。

僕が止めたせいで、男爵令嬢とその令嬢と兄上との間の子で2人。

今回の件で兄上と平民女性、そして平民女性との間の子で合計5人だよ。

母上は乗り越えたとはいえ体調を崩しやすくなってしまった。

父上は一気に老け込んでしまって早々に王位を僕に譲る羽目になってしまった。

当時兄上の婚約者の公爵令嬢は持ち直したけど、王国混乱と貴族間のバランスを保つために自分を裏切った男の弟に嫁ぐ羽目になってしまった。

当時の僕の甘さが全部悪い方向へ導いてしまったんだ。

だから、けじめのために僕は自ら手を下す必要があったんだよ。


「・・・センパイが自分をそこの男より愚かだと思ってるのはわかりましたけど、私はそうは思わないですね。」


・・・。


「兄上大好きのセンパイには言うのは気が引けますが、そこの男はセンパイよりもやっぱり愚かな男ですよ。」


・・・。


「センパイは当時の事件から学んで今回の件で甘さを捨てて暗殺を決行しましたよね。」


・・・。


「けど、そこの男は当時の事件からまったく学ばずに今度は平民の女性との間に子供をつくっちゃたんですから。」


・・・。


「少し考えれば王位継承の問題となるのに、また自分の子供を作ろうと思います?」


・・・。


「センパイは当時の事から学び、そこの男は当時の事から何も学ばなかった。」


・・・。


「少なくとも、その事実だけで今はそこの男のほうが圧倒的に愚かですよ。」


・・・。


「あと、私はセンパイの素の話し方のほうが好きですよ。」


・・・王は威厳をみせないといけないんだよ。

父上や母上にも安心させるために常に威厳ある話し方をいけないしね。


「センパイは本当に王国の情報を一手にになう暗部のトップですか?」


・・・?


「そんなの前王夫妻にバレてますよ。」


・・・。


「奥方にもあの人が努力しているのだから知らぬふりをするのがよい妻というものですって言われましたよ」


・・・。


「・・・センパイ。まさか予想外すぎてショック受けているんですか?」


いや、10年も気付かずにいた私はやはり()()()()だなと思ったところだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 重い話かと思ったら、最後にほのぼのするのがいいですね。
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