エイプリルフールネタ オタクくんが大好きなギャル
ふと思いついたので書いてみました。よろしくお願いします。
エイプリルフールネタ オタクくんが大好きなギャル
『ワンダー、ワンダー!!』
スピーカーから流れる元気な女性の声。そこに軽快なBGMが加わり、不思議と聞く者の心をわくわくとさせる。
S県某所にできた新しいテーマパーク。『ワンダーフロッグランド』は、今日も今日とて大盛況していた。
「はーい、次の方どうぞー!」
「こちら『スネーク・ジェット』、最後尾でーす!」
「はい、チーズ!」
テーマパークらしく、と言えば少し語弊があるかもしれないが、このランドのスタッフは皆元気よく丁寧な対応で評判であった。
更には入場者に無料で配られるドリンク券。この『ラズベリージュース』が絶品かつSNS映えする事でも有名であり、連日若者がやってきている。
そして、とあるカップルもまた、例にもれずこのランドへ遊びにきていた。
「おー!凄いねオタクくん!蛇さんと蛙さんが躍っているよ!」
カップルの片割れ。それは、見目麗しい少女だった。
染めていない輝く様な金髪は滑らかで、キラキラとした碧眼が眩しい。女子高生な様で制服姿だが、所々着崩しておりその瑞々しくも日本人離れして発育した肢体をチラリチラリと見せている。
そんな彼女の隣には、
「あ、あはは、そうだね。藤宮さん」
端的に言って、冴えない少年がいた。
中肉中背、黒髪黒目。特別美形でも不細工でもない。強いて言うのなら中の下と評されそうな顔立ち。
そんな少年と藤宮と呼ばれた少女が腕を組んで歩いているのは、年齢が近いこと以外他者からは不釣り合いに思えてならなかった。
腕に感じる温もりと柔らかさに頬を赤らめ、視線を泳がせる少年に藤宮はいっそあざとい程に可愛らしく頬を膨らませる。
「もー!『静香』って名前で呼んでってばー!オタクくん、なんであーしの事ずっと苗字呼びなのー?」
更に距離を詰めてくる『藤宮静香』に、少年は狼狽えてしまう。
「だ、だって、僕ら、つきあって間もないし、そもそも会ってからそれほど……」
「いーじゃんいーじゃん!あーしらの絆に時間なんて関係ないって!」
太陽の様な笑みを浮かべる藤宮に、少年は恐縮した様子で身を小さくするばかりだ。
この二人が出会ったのは、高校に入ってから。更に言えば付き合いだしたのは先週からである。
少年としては、突然『一目惚れしちゃった!』と言ってきたこの日米ハーフの少女に、圧倒されるばかりである。
困った様子の彼に、藤宮は『やれやれ』とばかりに肩をすくめた。
「シャイだなー、オタクくんは。ま、そういうとこも可愛いけどね!」
『可愛いのは君だよ』
そう少年は思うも、気恥ずかしくて口には出さなかった。
「とりま、今日はこの遊園地を楽しもうね!せっかくペアチケットが当たったんだからさ!」
「う、うん。そうだね」
「じゃあ早速遊ぼうぜー!!」
「わ、わっ」
腕を組んだまま駆け出す藤宮につられて、少年も足を速める。
「オタクくんオタクくん!めっちゃ高い!めっちゃ高いよ!」
「そりゃ、ジェットコースターだし…って、思ったより高い!?」
「アハハハ!蛇さんが躍ってるぅ!」
「へー、よくできたCGだねー……」
「きゃー!無理無理!あーしお化け苦手!」
「お化け屋敷入ろうって言ったの藤宮さんじゃ、って、その、胸が……!」
「いやー、遊んだねー!」
「はは、そうだね」
まだまだ元気な様子の藤宮に、疲労困憊と言った様子の少年。
そんな彼の様子に、藤宮は顔を覗き込む。
「大丈夫?ごめんね、あーしはしゃぎ過ぎちゃった?」
「いや、そんな事ないよ」
「ほんと?とりま、あそこで休もっか」
ランド内に幾つかある、机と椅子が並んだ休憩スペース。家族連れや友人グループ。そしてカップル達が集まるそこに、二人も座りにいった。
「……そういえば」
少年が軽く周囲を見渡す。休憩スペースでは大半の人間がラズベリーのジュースを飲んでいる様子だった。
「まだジュースの無料券使ってないね。ちょうどあそこに売り場があるし、僕貰ってくるよ」
「あー……」
その言葉に、藤宮は視線を泳がせた。
「え、もしかして苦手だった?」
「いや、そうじゃないんだけどさ。バイト先の先輩が『ラズベリーはろくなもんじゃない』って言ってたんだよねー。詳しくは教えてもらえなかったんだけどさー」
頭を掻きながら答える藤宮。
「バイト先って、確か探偵事務所だっけ?」
「そーそー。なーんか、先輩のお友達が昔ラズベリーで酷い目にあったんだってー」
「そうなんだ……」
そう言われては自分だけ飲むのもな、と、少年は悩む。
彼としては喉が渇いていたし、あまり金のない高校生にとって無料で飲めるジュースというのはありがたい。
だが、諦めるかと思った所で藤宮が彼の目の前で手を振った。
「そんな顔しないでよー、オタクくん。あーしも喉乾いたし、一緒に買いにいこ?」
「え、僕、顔に出てた?」
「んーんー。でも、あーしは何時でもどこでも君の事を見ているからね。わかっちゃうんだー」
ニッコリと笑う藤宮に、少年は何故か妙な寒気を覚えた。
だが、すぐに気にならなくなる。
「そう言えば、さ。バイト先が探偵事務所って珍しいね」
「だよねー!でも面白いよ。猫ちゃんを探したり浮気調査したり。リアル昼ドラが生で視れちゃうんだよねー!」
「そ、そうなんだ」
昼ドラ、というかドロドロした物語が好きではない少年は、少しだけ困った様な笑みを浮かべる。
それを気にした様子もなく、藤宮は彼の手をとって立ち上がった。
「じゃあ見せてもらいにいこーぜー!無料配布のジュースの味とやらを!」
「う、うん」
その言葉に『もしかして藤宮さんも、あのアニメ知っているのかな』と、少年は大好きなアニメの話題ができるかもと心を躍らせた。
また彼の腕を組んで歩き出す藤宮は、増々笑みを深める。
まるで、彼の心を見透かしているかの様に。
* * *
夕方。バスと電車を使って地元まで帰り、人気のない道路を二人は歩く。
「いやー、楽しかったね!あの何たらランド!」
「そうだね……」
恋人つなぎで歩く二人。少年の頬が赤い理由は、夕日だけが理由ではない。
「……ね、ほんとに楽しかった?」
「え?」
突然浴びせられた真剣な声に、少年は驚く。
立ち止まった彼の前に回り込んで、藤宮は手を握ったまま下から覗き込む。
「あの、さ。あーしだけ楽しんでいて、君に無理させちゃったかなって……。オタクくん、普段あんまりああいう所は行かないでしょ?」
その言葉に少年は少しだけ迷った後に、小さく首を横に振った。
「ううん。楽しかったよ、凄く。確かに遊園地は慣れていないけど……その、藤宮さんと、一緒だったし……」
段々と小声になっていく少年に、藤宮もまた頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
「そっか!よかったー!じゃあさ。今度はオタクくんがデートの行先決めてね?」
「え、ええ!?じゃ、じゃあって、なんで……」
「オタクくんの好きなアニメショップでもいいしー、よく行く模型屋さんでもOK!なんならお家デートでもいいよー?」
ニヤニヤと笑いながら、心なしか距離をつめる藤宮。
それに増々頬を赤らめた少年が、どもりながら答えた。
「そ、その……あまり、デートの経験が……」
「そんなんあーしだって今日が初デートなんだからさー!大丈夫だって!」
「えっ」
藤宮の言葉に、驚いた様子で少年が顔をあげる。
「藤宮さん、初デートだったの?」
「そだよー。あ、もしかして経験豊富だと思った?ざんねーん。あーしも君と出会うまで彼氏いない歴いこーる年齢でーす!リードはしてあげられないんだー」
ブイサインをする藤宮に、少年は心なしか頬をニヤケさせた。
「そ、そっか。そうなんだ……」
「そーそー!身持ちが硬いんだよー、私。君とおんなじでさ!」
隣に移動しながら、藤宮が少年に肩を寄せる。
「そ・れ・とー。次のデートはちゃんとあーしのこと、名前で呼んでね?約束だよー?」
「その……善処します」
「えー!それ結局はやらないやつじゃーん!」
ケラケラと笑う藤宮に、少年は内心で『君だって僕の事オタクくん呼びじゃん』と呟く。
「ま、お互い慣れていけばいっか。これからもずっと一緒なんだし」
握る手に、藤宮が少しだけ力をこめる。
白く華奢な彼女の手だが、指は少しだけ硬かった。
その事に少年は特に疑問を抱く事なく、彼女の言葉の意味を考える。
「ず、ずっとって」
「えへへー。ほら、いこ?君の家とあーしの家近いんだからさー。送ってほしいなー?それとも……うち、泊ってく?今日両親いないけど」
「なっ!?……え、遠慮、しておきます」
「だ、だよねー!あーしも変な事言っちゃった!」
そんな会話をしながら歩いていく二人。
それを、物陰から縦長の瞳孔が見つめていた。
* * *
深夜0時。星空が照らす中、単身で歩く人影があった。
藤宮静香。日米ハーフであり、女子高生。人気のない通り道を進んで行く彼女の足取りは、焦った様に歩幅が大きくなっている。
別に、街中であったのなら、褒められた事ではないが女子高生がこの時間に出歩くのはそこまで珍しくないかもしれない。
だが、歩いているのは両脇に森や山がある人通りのない道だ。普通なら車で向かう所を、彼女は歩いて進んでいる。
その瞳は昼間の様子が嘘の様に濁っており、左手には細長い棒状の物を布でくるんだ状態で大切そうに握っていた。
やがて、彼女は目的地に到着する。
『ワンダーフロッグランド』
昼間の賑わいとは反対に、人気のないゲート。閉園して数時間のそこは、何故か柵や鎖の類はなく普通に入れる様になっていた。
藤宮は立ち止まる事無く、ゲートを潜り中に。
『ワンダー!ワンダー!』
昼間と同じように、明るい声がスピーカーから流れている。
各アトラクションには明かりが灯っており、夜間での営業もやっているのかという光景だ。
しかし、遊んでいる者など一人もいない。無人の遊園地に、ただ軽快な音楽だけが流れている。
その中を、藤宮はやはり急ぎ足で進んで行く。そんな彼女の前に、ランドの女性スタッフが立ちふさがった。
普通なら、営業時間外に侵入した少女を叱る所だろう。
だが、
「ようこそいらっしゃいましたー!一名様ですねー?」
女性スタッフは昼間と同じ笑顔で応対する。
「こちらゲート前。まだお客様が一人いました。バスに乗り遅れたみたいです。ご案内しますねー」
元気よく無線にそう告げて、女性スタッフは藤宮に顔を向けた。
「さ、ついて来てください!他の皆さんも」
「ねえ」
藤宮が、かすれた声で呟く。
それに対し、女性スタッフは目を見開いた。そして、ようやく自分が視線を外した数秒の間に藤宮が持っていた『武器』を覆う布を、解いていた事に気づく。
ずるり、と。そこから覗くのは───日本刀の、柄。
「なっ」
「貴女なの?」
咄嗟に距離をとる女性スタッフ。そんな彼女にゆっくりと顔を上げながら、藤宮は刀を抜いた。
「貴女が……あーしからオタクくんを奪ったの……?」
アトラクションの明かりが刀身を照らし出す。
細長く、反りの深い刃。たとえ日本刀に知識を持たぬ者でも、すこぶる切れ味が良い事が分かる太刀だった。
それもそのはず。なにせこの刀は、北野天満宮にて保管されている彼の名刀を、寸分の狂いなく───その『経歴』までをも人ならざる存在が完全に再現した一振りなのだから。
突如凶器を取り出した少女。それに対し、小柄な女性スタッフは慌てた様子で耳につけた無線に呼びかけようとする。
「こ、こちらゲート前!お客様がっ」
助けを呼ぼうとした声は、無残にも途切れてしまった。
口を開いたままのスタッフの喉からは、声の代わりに空気の混じった血がこぼれ出る。
やがて、その首は転がり落ち血飛沫をあげて体の方も遅れて倒れ込んだ。
その様な凶行におよんだ少女、藤宮はつまらなそうに死体を見下ろす。
いつの間にか、女性スタッフの顔が変わっている。
白く滑らかだった皮膚には薄緑色の鱗が浮かび上がり、開かれた口からは長い牙と二又にわかれた舌が覗く。
耳があった場所には小さな穴があるだけで、その頭は正しく蛇そのもの。
更には首から下にも変化が起きており、露出していた腕にも頭同様鱗が浮かび上がっていた。そのうえ、足だと思っていた部位は左右で繋がっており、蛇の尾の様になっている。
『蛇人間』
「……人間じゃなかったんだ。よかった」
異形の死体を前にして、しかし藤宮に動じた様子はない。
それどころか、『よかった』などと口にしている。
「死体を誤魔化すのが楽だもん。どうせ、公安がいい感じにしてくれるっしょ」
握っていた鞘を放り捨て、藤宮は歩き出す。
「待っててね、オタクくん」
軽やかな声。太陽の様な笑み。先ほどとは一転して、スキップでもしそうな足取り。
愛する彼を思い浮かべ、少女は楽し気にランドの中を進む。
「あーしが会いに行くからね!!」
* * *
ワンダーフロッグランド。その実態は、蛇人間たちによるカルト集団の隠れ蓑である。
蛇人間とは、恐竜が大地を支配する前に大きな文明を築いていた種族であった。
しかし、彼らは蛇人間の中では異端。あるいは『裏切り者』と呼ばれる存在だ。本来崇めるべき神を捨て、異なる神を信仰する者達。
蛙の置物が各所に飾られた地下施設で、蛇人間達が集まり儀式を執り行おうとしていた。
一様に小柄な蛇人間達。そんな彼らに囲まれるのは、昼間にランドを訪れていた若者たち。その中には、例の少年もいる。
そう、蛇人間達はこの人間達を崇拝している邪神への生贄にしようとしているのだ。
ラズベリーのジュースには蛇人間に服従してしまう特殊な薬物が仕込まれており、自害以外の行動を強制させる事ができる。
この若者たちは夢遊病の患者の様に、虚ろな目で電車とバスを使い昼間の様にこのランドへ自分の足でやってきた。
生贄となり、邪悪な神に食われるなど知らずに。
「■■■■■■■……」
魔法陣に集められた若者たちを、壇上から見下ろす縦長の瞳孔。
この場にいる同種よりも人に近い姿をしている、黒いローブを身に纏った蛇人間だった。
その胸元は僅かに開いており、焼き印の様な文様が刻まれている。
彼こそがこの地の蛇人間達の長であり、邪神から加護を受けた魔術師。ただの蛇になりかけていた同胞たちに、再び大文明を築いていた頃に等しい知性を与えたのである。
そんなリーダーである彼は、特殊な器具で地下にいながら天体を観測していた。
しゅるしゅる、と。その舌を鳴らし、蛇人間のリーダーは口元を歪める。人間風に言えば、笑っているのだ。
この儀式が成功した暁には、彼らの神はこの惑星に降り立つ。そして、彼ら蛇人間が地球を支配する日がやってくるのだ。
その光景を夢想し、彼は笑みを隠せずにいた。
この時までは。
『────────ッ!!』
人ならざる者の絶叫が、地下に木霊する。
それにより儀式は中断され、リーダーの彼はすぐさま無線機を手に取り声を荒げる。
『■■■、■■■■■!!』
人間には理解できない言語。耳障りな歯ぎしりの様なそれが、彼らの言葉だった。
無線機からは悲鳴か、助けを呼ぶ声か、怒声しか聞こえてこない。それにリーダーは怒りと不安を覚えるも、一つだけ聞き取れるものがあった。
『少女』
それに、リーダーは首を傾げる。
少女がいったいどうしたと言うのか。敵対している蛇人間の派閥が攻めてきたとか、他の神を奉じる種族が儀式を妨害しに来たのならわかる。
だが、だからと言って少女が、ニュアンスから人間の少女がなんだと言うのか。
そう疑問に思うも、彼は部下達に指示を出して索敵に向かわせる。そして、奇妙な、それでいて冒涜的な呪文を唱え始めた。
すると、みるみる内に蛇の頭はヒキガエルの様なそれに変わっていくではないか。両腕には体毛が生え、太さも一回り大きくなっている。
部分的ながら、彼らが崇める神に近づいた姿。身体能力も魔力も数段上昇し、それこそ熊を相手に正面から殴り合う事さえできる程だ。
『■■■■■■』
来るなら来い。
人間の言語に訳した場合、その様に言ったのだろう。
念のため臨戦態勢に入ったリーダーだが、自分の所まで侵入者が来るとは思っていなかった。
二十四層の結界。人間の信者達を使った三つの魔力炉心。知性の代わりに巨大かつ強大な肉体を得た同胞たちが猟犬代わりに徘徊し、彼らが信仰する神の偶像が配置された通路は通った者の精神を蝕む。
更には一部異界と化し、過去に飛ばす様なトラップまで用意してあった。いかなる魔術師だろうと、これを突破するのは不可能に近い。
それだけこの地の蛇人間達は、今日の儀式に本気であった。
油断も慢心もない。全力の中の全力。
だが。
───ドォォォン……!!
相手が、魔術師や他の邪神の力を授けられた存在であると、想定していたのが問題だった。
『!?』
地響きと共に地下が僅かに揺れる。
爆発だ。何者かが、儀式の間周辺で爆弾を使っている。
蛇人間のリーダーは焦った。地下が崩れるとは思っていない。なんせ、想定していた敵集団に備えてかなり強固に作っているのだから。
気にしているのは、この古い遺跡を改造し、その上にテーマパークを築くのにどれだけの時間と労力が必要だったかという事。爆発物を躊躇なく使う相手であるのなら、いつこの騒ぎを別の種族が嗅ぎつけるかわからない。早急な対処が必要である。
今日ほど神の招来に星の並びが相応しい時など、そうそうあるものではない。彼らはこのタイミングを逃す事はできなかった。
儀式の為に待機していた部下達も索敵に向かわせ、たった二体の護衛を残し儀式の間は随分と静かになった。
物音一つすれば瞬時に信仰している神より授けられた、いかなる対象であろうと動きを封じる呪文を発動する。その心持ちで、リーダーの蛇人間も構えていた。
静かな儀式の間に、つけっぱなしの無線から声が響く。
それはやはり、彼ら蛇人間特有の言葉。そのどれもが、恐怖と苦痛に満ち溢れていた。
『痛い!痛い痛い痛い!!』
『助けて!誰か!……奴が、奴が来る!!』
『応援を!仲間がやられた、もう俺しか、あ、ああああ!?』
『あははははははははは!!』
悲鳴が聞こえては、少しの間だけ沈黙。そしてまた別の仲間の悲鳴が響く。あるいは、聞き慣れぬ狂った様な笑い声が。
ヒキガエルに似た頭になったリーダーは、それでも集中を乱さない。
彼は幾度も違う神を信奉する種族や、かつての仲間と殺し合ってきた。今更、この程度では揺るがない。
そもそも、まともな『感性』と呼べるものが残っていないのだ。彼の全ては、仕えている神の為にある。
だから、気づけるはずだった。
気づいてしかるべきだった。
「ねえ」
己の背後にいつの間にか立っていた、人間の少女の存在に。
『!?』
驚いてすぐさま振り返り、呪文を行使しようとする蛇人間のリーダー。
だが、遅すぎた。振り返る時には首を太刀で引き裂かれたかと思えば、返す刀で右足が膝当たりで切断されている。
状況に思考が追い付かない。縦長の瞳孔で下手人を捉えるも、それ以上彼には何もできなかった。
「貴方達だよね」
『シャアアアア!!』
知性の代わりに大きな体を得た蛇人間が、少女に、藤宮に掴みかかる。
だがその腕はあっさりと避けられ、もう一体の護衛が振るったマチェットも太刀で受け流されてしまった。
長い金髪の隙間から、藤宮が瞳を覗かせる。
一切の光の無い、深淵の瞳を。
「あーしの彼ピを連れ去ったの」
閃く刃。その太刀筋を目で追う事もできず、マチェットを持っていた蛇人間の首が落ちる。
残された蛇人間は、知性がない故に構わず殴りかかった。俊敏なその動きに、しかし藤宮は足さばきだけで避けてみせる。
「許さない」
そして、巨体の蛇人間の脚が二本まとめて両断された。
激痛で叫びながらうつ伏せに倒れたその蛇人間の背を踏みつけ、藤宮は何度も刀を突き立てる。
「許さない許さない許さない許さない!」
まともじゃない。
首を裂かれ、死を待つばかりのリーダーはそう思った。狂信者である彼が、どの口でという話かもしれないが。それでも、的は得ている。
「あーしから大切な人を奪う奴らなんて!全部、全部殺してやる!二度と、二度と奪わせるもんか!!」
とうの昔に死んでいる蛇人間の背からどき、あと数秒で息絶えるリーダーにも止めをさして。
「オタクくん!大丈夫!?」
糸の切れた人形の様に倒れていく、操られていた若者たちの方へ。その中にいる愛しの彼のもとへと彼女は駆けて行った。
* * *
「ん……ぅぅ」
少年が小さくうめきながら目を覚ますと、そこは見慣れた彼の自室だった。
枕元のスマホを見ればまだ午前4時で、もっと眠れるなともう一度瞼を閉じようとする。
だが、小さい電球に明かりをつけて眠る彼は、その微かな光で見慣れぬ影がベッドの傍にいる事に気づいた。
「なっ……!?」
慌ててリモコンを操作し、部屋の電気をつける少年。
強盗か、それとも幽霊か。妙な夢を見た気がする彼が恐る恐る謎の影に視線を向けると……。
「え、藤宮、さん……?」
「ん……」
彼の声に気が付いたのか、少年の眠るベッドに顔を伏せる様にして眠っていた少女が顔をあげた。
そして愛しの彼と目が合うなり、藤宮は輝かんばかりの笑みを浮かべる。
「おはよ、オタクくん!昨晩は大変だったね!」
「 」
言葉の意味が理解できずにフリーズする彼に、彼女はただただ、笑みを浮かべていた。
「……ずっと、一緒だからね……?」
床に座った彼女の膝あたりには、布で包まれた一振りの刀が置いてあった。
Q.どの辺にエイプリル要素が?
A.こんなギャルは存在しないところ。
人物
オタクくん
特に秀でた部分もなければ、特別な技能もない。強いて言うのなら特徴表で『好意を寄せられている』になったうえ『100』だした人。ついでに幸運で『1クリ』した。
たぶん、本来は家族か友人とランドに遊びに行って事件に巻き込まれ、ギャルが仕事で突撃した混乱で催眠が解けて脱出するとかそういうシナリオだった。
なんか、ギャルが病んだ。
ギャル
藤宮静香。クトゥルフ神話に関する知識が『17』ぐらいあるギャル。16歳にして熟練の探索者。残りS▢N値?ちょっと何のことかわかんないっすね……。
特技は日本刀と心理学、忍び歩き。次いで爆弾づくり。対人技能?知らん、管轄外だ。でも三大技能は全部70以上。特徴は『戦士』。
使っている刀は昔『菌類と甲殻類が合体した様な宇宙人』から殺して奪った物。その際、家族に色々あったらしい。
オタクくんに対して一目惚れした子。お助けNPC枠……だった。
何か呪文とか使えるのかって?もちr───。
蛇人間
恐ろしい怪物達。彼らの儀式により、既に多くの人命が邪神の餌となっている。
その性格は狡猾かつ残忍であり、信仰する神の為ならばいかなる手段も問わない。今回活動していた集団のリーダーは、邪神から特に優れた信者として加護まで与えられていた。
なお。因果応報というか、あのテーマパークの蛇人間達は理不尽に人の命を奪っていた結果理不尽な『クリファン』で全滅した。
その後
公安の『こういう事件絶対明るみにしない部』の皆さんが頑張って隠蔽しました。
ついでに少年のお母さんは赤飯を炊きました。
読んでいただきありがとうございました。