EP2-4:ひろみ先輩の仮説
意外だった。ひろみ先輩はボクの言ってることを信じるという。
「その根拠はなんですか?」
波留がひろみ先輩に尋ねた。
「あれー? 波留くんは真樹ちゃんの言ってること信じてないんだ?」
ひろみ先輩は、からかうような視線を波留に向けて質問を返す。
「……よく分かんないっす」
波留は視線を外したまま答えた。心なしか機嫌が悪そうに見える。
「……そう。アタシの思ったところって、結局は女の勘なんだけどさ」
「女の勘って……」
「まあ、ちょっと待って」
女の勘、という言葉に反応して異を唱える波留を、ひろみ先輩は手でのジェスチャーを添えて遮る。
そして、ボクの目を見据えてこう言った。
「真樹ちゃん、いま薄っすらとだけどメイクしてるよね?」
「!!」
ボクはその言葉にハッとした。その通りだ。女の子として持っていたものをすべて失っていたボクは、少ない所持金で最低限のメイク用品を買っていた。
そこに気が付いてくれたのが、ボクは嬉しかった。ひろみ先輩の方を向いて、ボクはコクコクと頷く。
「下着ですら女物が無くなってたんだ。そんな状況で、多分最低限しか道具は揃えらないんだけど、それでもメイクをしようと思った。その気持ちが波留くんには理解できる?」
「……さあ?」
「鈍いなぁ! 女の子でありたいと思ったからじゃないか! 真樹ちゃんの中身は、間違いなく女の子なんだよ」
「そうか、悪かったな真樹。疑ったりして」
「ううん」
「でも、服の件はどう思います? さすがに不自然じゃないですか」
これに関してはボクも知りたい。
ひろみ先輩は少し考えこんでいたが、ボクらの方を見据えてこう言う。
「君たちはさ、パラレルワールドってわかる?」
「はい?」
「ああ、今は”世界線”って言い方が一般的なのかな」
「ループものでよくあるやつですか」
「そうそう。可能性の中にある並行世界のこと」
「つまり、どういうことですか?」
ボクには二人の会話が今一つ理解できない。
「真樹ちゃんの精神は”真樹ちゃんが女の子だった世界”から来たんじゃないかな」
「精神だけ、ですか?」
「だから性別が入れ替わったように感じているんだ」
「なるほど。じゃあ、こっちの世界にあった真樹の精神はどこに行ったんですか?」
「分からないけど、入れ替わったと考えるのが自然だろうね」
「……そっちの方が大変そうだ」
「そうだね」
ボクは”男の子だった”方のボクに同情しつつ苦笑いをして答えた。
「あ、でもあくまでアタシの勝手な妄想を言っただけだからね? あんまり本気にしないでよ」
「でも、そう考えれば納得のいくことは多いです」
「辻つまが合うように答えを嵌めただけだからね。こういう時は何か見落としをしているものよ」
「でも、ちょっと気持ちは楽になりました。ありがとうございます!」
ボクは立ち上がってひろみ先輩に向かって頭を下げた。
「いいっていいって。そうだ、連絡先交換しようよ」
そう言って、ひろみ先輩はスマホを取り出す。
「そうですね。何かあったら相談してもいいですか?」
「もちろん!」
そう言いつつ、ボクとひろみ先輩はメッセージアプリの友達登録をした。
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