EP2-3:追いかけろ!
「あ! 待って!!」
ボクにスマホを向けていたメッシュ女子は、ボクと目が合うと逃げ出した。大変だ。捕まえて撮った画像を消させなくては。
ボクは部室を飛び出してメッシュ女子を追いかける。彼女は思いのほか走るのが遅かった。部活棟の長い廊下を追いかけていると次第に距離が詰まる。階段の方に向かわれると一旦視界からは消えそうだが見失わずに追いかけることは可能だと思う。
「あだっ!!」
メッシュ女子は階段の方に曲がろうとしたところで何かにぶつかったように倒れた。尻もちをついた形になった彼女は、ぶつかった相手に抗議している様子だったが、すぐにその相手に助け起こされようと手を伸ばしている。
その相手の姿は見えないが、ボクはそれが波留だと直感した。
「そいつを捕まえて!!」
ボクは波留に向けて叫んだ。
「離してっ!」「いやいや、先輩に相談したことがあるんで」
ボクが現場に到着するとそんな会話が聞こえた。思った通り、メッシュ女子にぶつかっていたのは波留だったようだ。
「波留、この人……」
「ああ、例のオタ活の先輩」
「さっき撮ってたやつ消して下さい!」
「??」
波留はキョトンとしているが、メッシュ女子の手は離そうとしない。
「撮ってない! 撮ってない! カメラ向けてただけ!」
「嘘!」
「ホントだって! ほら!」
そういうとメッシュ女子は手に持っていたスマホを操作して画像フォルダを呼び出しボクに見せる。
ボクはスマホを受け取って、画僧フォルダを確認した。確かにボクの姿はない。走りながらスマホの操作をしていた様子はなかったし、撮っていないというのは本当かもしれない。
「でも、撮ろうとしてたでしょ」
「まあ、あんな場面に出くわしちゃったらねぇ」
「なんかあったん?」
波留は当然事情が呑み込めていない様子だけど、詳しく突っ込まれるのも困る。
「と、とりあえず部室に戻らない?」
ボクはこの場を収めようとした。撮られてないのならそれでいい。よくないけど。
「そ、そうだな。先輩も行きましょう」
「う、うん」
メッシュの先輩もさっきの出来事を突っ込まれるのは困るらしい。覗きの上盗撮疑惑もかかったのだから当然かもしれないけど。
部室までの廊下を歩きながら、波留はボクとメッシュ先輩を紹介してくれた。
「真樹、この人が朝言ってたオタ活のひろみ先輩。先輩、こいつが例の真樹です」
「ども」
ボクはひろみ先輩に軽く会釈した。
「ね、二人はどんな関係なん?」
ひろみ先輩は波留の顔を覗き込んで聞いた。
「んー? 幼なじみ的な?」
「それだけ?」
「それだけっすねぇ。クラスも別だし」
「ふぅん」
それだけ……かぁ。波留がボクを異性として意識していた事を打ち明けられたけれど、動揺するそぶりすら見せずに言い切ったな。ボクが男になったことで変に思われないように演技したのか、あるいはボクが拒絶したことで吹っ切れちゃったのか、どっちなんだろう。
部室に到着したボクたち3人は、長テーブルを囲んで適当にパイプ椅子に座る。その距離は微妙に離れていた。
「……とまあ、こんな感じです」
波留は、センシティブな事をぼかしつつこれまでの事をひろみ先輩に話した。
「大体の話は理解したけど、アタシにどうしろって?」
「どう思いますか?」
「何について?」
「真樹が性転換してしまったと主張している事について」
ひろみ先輩はふうん、という感じに口元に手を当てて考えをまとめている仕草をした。
それは、話す言葉を選んでいるようにボクには感じた。
「結論から言うと、アタシは真樹ちゃんが言ってることを信じるよ」
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