EP2-1:波留とボクと
ボクの身体の中のケモノが目覚める。
ケモノへの対処法は波留に教えてもらった。
大丈夫。こんなのすぐ終わる。
だけど、終わった後の虚無感と喪失感は耐え難いものがある。ボクは本来は女の子なのに、どうしてこんな行為をしなければならないのだろう。
「!!」
スマホのアラームが鳴った。今日は月曜だ。学校に行く支度をしなければ。
「毎日こんなのは辛いよ……。波留に相談してみよう」
人に話すのは恥ずかしい事ではあるけれど、相談できるのは彼しかいない。
「あのさ、毎日やる必要はないんだぞ?」
「は?」
波留と連絡を取り登校時間を合わせ、その途中で目下の悩みを相談してみると無責任な返答が帰ってきた。
「うそでしょ? あんなに張り詰めた状態で外歩けないよ」
「いやまあ、あれはたしかに生理現象なんだけどさ。刺激しなきゃそのうち治まる」
「じゃあなんで」
「うん?」
「じゃあなんで、あんなこと教えたわけ?」
「そりゃ、あれだ。定期的に出してかないとだな……」
「なに?」
「朝、起きるとパンツが濡れていることになる」
「あっ……」
思い出した。元々このことを波留に相談する羽目になったのはそのことが原因だったのだ。
ボクは顔が紅潮していくのを感じる。顔を上げていることに耐えられなくなり、うつむいた。
「ん? どうかしたか?」
「いや、別に……」
その時のことは詳しく波留には話してない。
うつむいたまま歩いているボクの隣で、波留がこちらを伺っている気配がした。
しばらくそうして歩いていると波留はふぅっと大きく息を吐いてボクに話しかける。
「そういえばさ」
「なに?」
「前から気になってたんだけど、服はどうしてるんだ?」
「えっ?」
「聞いてる限りだと、そうなる前は女として暮らしてたんだろ?」
「えっ……うん。そうだよ」
「俺からはそうは見えなかったんだけど……。それは置いておくとして、男物の服とか持ってなかっただろ?」
「そうなんだよね……。でもボクの身体が男になってから、ボクの部屋の服は全部男物になっていたんだ」
……下着も含めて。
「そいうなのか……。あの人ならなにか分かるかな……」
「あの人って?」
「あー……、部活の先輩?」
「オタ活?」
「そう」
ボクらの通う高校は自由な校風で、部活動に満たない同好会の活動も多種多様に存在する。波留が在籍している”オタク活動同好会”もその一つだ。文化祭で簡単な展示をする程度で、普段は適当に集まって駄弁ったりゲームしたりしているだけのゆるい集まりらしい。
「ボク、あんまり人に知られたくないんだけど」
理解しがたいことなのだけれど、波留はもちろんクラスメイトや家族でさえボクが女の子だったことを認識していない。そんな状態でボクの秘密を気安く他人に知られたくはない。
「まあ何と言うか、その人今の真樹にちょっと似てるかも。境遇的に」
「どういう事?」
「うん、実は───」
波留が言いかけた所で校舎から予鈴が聞こえた。
「やばっ、急ごう! 放課後にまたな」
「う、うん」
ボクたちは足早に校舎に向かった。
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