満月でも三日月でもキミがいれば
第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作、キーワードは「三日月」
「月が綺麗ですねの月って、満月だったと思う? それともそれ以外? 三日月とかだったらどうなると思う?」
彼女の唐突な台詞に面喰う俺。
「いきなり何言ってんの?」
「漱石よ」
「いや、それは知ってるけどね」
漱石が愛媛県で教職に就いていた時代のエピソード。
学生が我、君を愛すと訳した事へ、そんなつまらない訳ではなく恋するあなたといると月が綺麗ですね、と訳せと言ったのだとか。
実はその解釈は漱石じゃないという説もあるけど、それを彼女は知っているのかな。多分、知らないと思う。
彼女は言う。
「あれでしょ? アイラブユーの訳し方。でもその時に思い描いている月ってさ、やっぱ満月な気がしない? 大きなスーパームーン!
でもさ、三日月だったとしても月は月でしょ? 美しさに変わりはないわけでしょ?」
「何が言いたいのさ」
「もし、新月の夜に『月が綺麗ですね』って言われたら、どう思う?」
新月って、月がない夜じゃん。
月がないのに月の批評?
「マヌケな奴だなって思う」
俺の答えを聞いた彼女がぷくーっと頬を膨らませた。なんだかお気に召さない返答だったらしい。
「じゃあさ、じゃあね、私がね、こうやって夜に空見上げてさ、満月でも三日月でも新月でも、キミがそばにいたらいいのに。そうしたら嬉しいな、楽しいな、月なんて見ているよりキミを見ていたいな……って、ひとりで考えていたら……新月の晩にも関わらず、ラインで思わず『月がキレイね』って送っちゃったら……どう思う?」
え。
それはつまり。
何をしていても何を見ていても、俺の事を考えて、いつも意識して。
景色なんて目に映っているようで記憶に残らないくらい、俺の事を想っているってこと?
それ、いつもの俺の事じゃん。
それに。
月がキレイ = アイラブユー。
彼女のちょっと怒ったような顔と上目遣いに、俺の心臓がバクバクと音を立てた。
なんだか頬が熱い。
「そ、それは……」
何かを期待している上目遣いに、俺はちょっと弱いかもしれない。
バクバクの心臓が駆け足を始める。
「……可愛いんじゃねーの?」
俺がそう呟いた途端、彼女はえへへと頬を綻ばせた。
うん。可愛い。まちがいない。
「だからね、本当は月じゃなくてもいいのよ! 太陽でも星でもいいの。なんなら花とかご飯でも」
彼女はドヤ顔で俺を見上げた。
「私、分かったの。大好きなキミといるとね、世界って輝いて煌めいて色がつくのよ!」
俺も分かった。
キラキラした彼女の瞳が、一番輝いて綺麗だって事を。
リア充は
末長く爆発すればいい
そんなことを思う冬の黄昏