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第2冊 天野幸恵と戦闘スタイル

『では手順の説明だ』

 

 尊大な口振りで怪禍紙諸録は言う。

 僕の疑問を解消する様に。

 

『まず、佐鳥芽衣子に追いついたならオレを開け』

 

 お前の記憶の中に天野幸恵の人生を捩じ込む、と耳を疑う様な言葉が聞こえた。

 

「どう言う……」

『怪禍紙諸録────つまる所の、このオレは怪禍紙を封ずる役目と、発生源である人間を記録する役目を持つ。その中に天野幸恵の記録がある。彼奴(あやつ)の記憶は怪禍紙封印に於いてはそれなりの役に立つだろうよ』

 

 それが、僕が役に立つと言う事。

 所詮は本でしかない怪禍紙諸録と、それに封印されてしまう佐鳥さんでは封印作業など出来ないのだと。

 

「成る程、ね」

『貴様はオレを捨て、今直ぐに逃げても構わんがな』

「……君はどう言う立場なんだよ」

 

 人間を守りたいのか。

 怪禍紙諸録と言う物の役割を聞いた限りでは人を救う為に存在している様な気はする。

 

『人間は千差万別。オレはそれを否定しない。天野幸恵の様な善人が居る事を知っているが、正反対に害悪な人間も居る事を知っている。そして、毒にも薬にもならない様な人間も居る事を』

 

 僕は言う程、善人でもない。

 誰に善人であると言った事もないか。だからと言って、対極的なとことんなまでの悪人にもなりきれない。

 

「怪禍紙諸録、知ってる?」

『何がだ』

「人間には美点と汚点があるってこと」

 

 僕の言葉に怪禍紙諸録は『フム』と相槌を打つ。

 

「僕は、誰であっても出来る限り綺麗なままで居て欲しいと思うんだ」

 

 好きな相手ならば、より一層。

 ただ、多くの人に対しても基本的にそのスタンスはある。

 

「だから、その欲望の暴走が誰かの汚点になるなら」

 

 それは止めなければならない。

 誰だって、醜い所、卑しい所を見て欲しいという訳ではないだろう。

 

『それが……』

 

 僕の手元で何かを言いかけるが、続きは出てこない。僕もその言葉の続きを知ろうと詰めるつもりもない。

 

 否、正確には。

 

 そんな状況では無くなった、と言うべきだ。影が一瞬にして吹き飛び壁に轟音を上げながら衝突する。

 

「痛っ……!」

 

 佐鳥さんだ。

 吹き飛んできた方向に目を向ければ、巨大な頭に大きな目が一つ。鎖で雁字搦めになった奴隷の様にも思える身体の怪物が一心不乱に壁を殴りつけていた。

 破壊行動に勤しんでいる、と言うべきか。

 

「怪禍紙……」

 

 人間らしい見目をしている佐鳥さんとは全く違っている。凶暴な獣の様に理性は無く、大きな目は血走り。

 

『オレを開け、二宮慧。天野幸恵の記憶を読み解け』

 

 僕の目の前に怪禍紙諸録が浮遊する。自然と頁が捲られ、記録が脳内に挿し込まれる。

 封魔師であった天野幸恵の記憶、そして彼女の辿った人生。

 僕は思わずに傷だらけの佐鳥さんに目を向けた。

 

「……だから、なのか」

 

 呟きに『読んだな、二宮慧』と確信を抱いた声が聞こえた。

 

「ああ、いつも通りに行くよ、怪禍紙諸録」

『生憎とオレはお前のいつも通りなんて知らんがな』

「そうかい、ノリが悪いね」

 

 人格が引きずられている覚えはあった。

 だが、その方が今から行われる怪禍紙との戦いには向いていると思った。

 

封魔結界ふうまけっかい装纏そうてん

 

 天野幸恵は結界術の使い手だった。

 使い方は専らボクシンググローブの様に薄く両腕を覆う。

 足技にも対応の効く様に両足にも同様にしての徒手での戦闘。

 

「フッ────!!!」

 

 踏み込み鋭く、拳打を見舞う。

 怪禍紙が吹き飛ぶ。

 

『殺すなよ』

「この程度で死にやしないよ」

 

 それよりも。

 

「怪禍紙諸録、封印の準備しときなよ」

 

 ここから弱らせて、封印に。

 

「ギッ、ギッ、ヒャ!」

 

 逃げる。

 

『どうする、二宮慧』

「聞くまでも────」

 

 私が答えようとして、背後から咳き込む声が聞こえた。

 

『オレが聞いたのは、天野幸恵じゃない。二宮慧だ』

 

 僕の感覚が戻ってくる。

 天野幸恵の感情が遠のいた。

 

「佐鳥さん、治療しないと」

『怪禍紙も見えなくなったからな』

 

 やれやれと言いたげに。

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