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起 従者と告白

 

「で、だ。俺は令嬢にこう言ったんだ。首長竜は恐竜じゃありません、海棲爬虫類ですよ。って」


「はぁ」


「そしたら何て言われたと思う? もう化石と結婚してはどうですか? だってさ! 酷いと思わないか? それ以来、手紙を書いても完全無視さ。フラレたな」


「とりあえずアレですね。9回目のお見合い失敗(ハートブレイク)おめでとうございます。引っ叩いて良いですか? 」 


「暴力反対! 」


 目の前の男を、私は、思わず本当に引っ叩きたくなった。


 私の名前は、アイビー・フォックスバット。目の前の男、伯爵令息、スノードロップ・ナイトホークにお仕えする女従者にして、乳姉妹(ちきょうだい)である。齢16歳。


 乳姉妹という事からも分かる通り、スノードロップ様の乳母(めのと)が私の母という繋がりで、文字通り、生まれた時から現在に至るまでの腐れ縁の仲である。


 ここは、このカタスト帝国の貴族学校の校舎裏。時間は放課後。色々と人前で話すには、はばかられるお見合い失敗の話なので、わざわざ主従揃って、人目のつかないここまで移動してきた。


「何でお見合いの席で、首長竜の話をふったんです? 」


「可愛いじゃん、首長竜」


「かっこいいならともかく、『可愛い』はちょっと変わってるセンスだと思いますよ。多分」


 真顔で変な事を言う主君に、私はツッコミを入れる。


 我が主(スノードロップ様)はというと、一見、美少女に見違える程の美青年である。黄金の様な金髪をロングヘアにして、緑の瞳は若葉の様で、みずみずしい魅力をたたえている。


 女の私よりも、少し小柄な体型も相まって、初見の人は本当に少女にしか見えないだろう。


 何処にでも居そうな、黒髪黒眼の地味な私が傍に居るのは、何だか、少し気が引けてしまう程だ。


 本来、女など、よりどりみどり出来そうな程の容姿だが、意外と言ってはなんだが、今だに許婚がいた事は無い。その為、ご実家の方で、色々、出会いの場をセッティングしてはくれているのだが、それが成功した事は一度も無い。


 今回もそうだ。見事に見合い相手の子爵令嬢に振られた。


 こんな男であるが、実を言うと、私はどうしようもなく彼に惹かれている。


 乳姉妹とはいえ、嫌いな相手の従者を16年もやらない。変人な所も含めて、愛してしまっている。


 今でも、内心、お見合いが失敗に終わった事を大喜びしている自分がいる事を自覚し、少し、自己嫌悪している。スノードロップ様への当たりが強くなっているのも、そうしたイライラのせいなのかもしれない。


 何というか、この男は変人の上に、女心を読むのが壊滅的に下手なのだ。


 いや、下手なんてもんじゃない。出来ない(・・・・)のだ。乳姉妹の私が言うのだ。間違いない。でなきゃ、お見合いの席で首長竜の話なんかしない。


 一方、私の心の中で、「それで良い。そのまま失敗しつづけろ。女心なんて読むな。貴方は私のモノだ。私だけのモノだ」と醜い独占欲が叫んでいるのも事実。私は、こんなに卑しい性根の女だったのかと、自分でも驚く。


 本来、主人とそれにお仕えする従者という身分。近くから見て満足するだけにしなくてはいけない相手。それなのに、私はこの人を手に入れたくて仕方が無い。我ながら、強欲な女だと思う。


「なんと言うか、育った環境が環境なので、あまり責めるのも酷ですが」


「はは。ナイトホーク家は俺の代で断絶かな……」


「笑えない事言わないで下さい。そうしたら、我々家臣団まで路頭に迷う事になります」


「ついでに、色々と表に出せない資料も散逸する事になる……」


「それも本当に笑えないです……」


 スノードロップ様が愛想笑いをしながら言った言葉に、私は、極めて真剣な表情をして返した。


 ナイトホーク家には、表に出せない裏の顔がある。


 いわゆる、国の汚れ仕事(・・・・)を担当する家であり、創設以来、これまで、多数の謀略、陰謀に関わって来た。こうした裏の顔のせいで、周囲からも一目置かれている。


 その視線は、恐怖と嫌悪と軽蔑が入り混じったものである事は否定できないが。


 彼の世間とのズレぶりも、こうした切った張ったの環境で育ったせいもあると考えると、あまり、手厳しい批判は出来ない。


「……スノードロップ様、私を妻にしてください! 」


 意を決して、私はスノードロップ様にこう告げた。もう、欲望に素直になってしまおう。


 貴方は私のモノだ。好き、好き、好き、愛している。


 突然の告白に動揺したのか、彼は明らかに狼狽した声になる。


「……え? アイビーを嫁に」


「そう。割と全部解決するんですよ。フォックスバット家は、ナイトホーク家に代々お仕えしてきました。身分差はありますが、乳姉妹同士! その辺の変な貴族令嬢を捕まえてくるよりは、遥かに安心です。なんなら、何人か、我が家から嫁いだ人や、逆に降嫁して来た方もいらっしゃいますし前例ならあります」


「言い方! その辺の変な貴族令嬢って、言い方! 」


「それに、裏の仕事についても色々と理解している……というか、共犯者ですし、それを巡る家同士のトラブルも防げますよ。嫌でしょ、嫁いだ家が裏で人に言えない事をしてましたとか」


「それはそうだけど……アイビーの意思は……」


「ご安心を。あなたになら、喜んで嫁ぎます。むしろ大喜びです。告白しますが、昔から、懸想は抱いていましたし」


「なにそれ初めて聞いた」


「本当に女心の分からない乳兄弟ですね。アピールやら匂わせなら、前々からやってたのに」


 次々セッティングされるお見合いに内心、戦々恐々としていたが、逆に言えば、ここまで結実しないのは、これはもう、私が手を出してしまえ、という天命なのだ。そうに違いない。スノードロップ様が変人で助かった。


「という訳で、返事をして下さい。はいかyesか肯定で」


アニメイトバディ1、一次審査突破しました!ありがとうございます。

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