私の時限は3分です
机にペンを打ち付ける音だけが響く教室。
テストを受けている私はテストの問題よりも重要な問題を思い出した。
昨日、日曜日にセットしたアラームを切り忘れていた。
そのアラームが10時30分に鳴る。
それも、だだのアラームじゃない。
BLゲーム『イケメン和尚、悟して、法鐘寺で昇天』の弁髪和尚リキさんと刈り上げ弟子サキくんの正月限定特典BGM。
しかも、シリーズ屈指の盛り上がりを見せる『除夜の鐘の中で祝祷編』の一部分。
『これはマズい、コレだけは絶対にマズい!!』
こんなのがテスト中に流れ出すなんて、もはやテロだ。
しかも私のスマホから。
こんな事が知れたら、たちまち学年全体にリークされ、不登校まっしぐら。
もし阻止することが出来なければ、この後の私の学校生活は終幕したと同義。
『何としても、何としても、阻止しなければ』
教室前方横の壁に掛けられている、丸いアナログ時計で時刻を確認する。
『現在時刻は10時27分、対してアラーム設定時刻が10時30分、猶予はあと3分』
幸いにも私の席は、廊下側最後尾。
私のスマホがあるロッカーは教室後ろの中央付近、近くとも遠からずな距離。
進み続ける秒針をよそ目に私は脳をフル回転させる。
しかし、タイムリミットが迫っている、と言う事実から来る恐怖心が私の脳を占領していた。
恐怖に支配された脳で私はある言葉を思い出した。
弁髪和尚
『今、心に乱れが見えた、お仕置きに君の体に二度とブレない芯を入れてあげる』
長時間の座禅により心が乱れた刈り上げ弟子サキくん。
その姿に痺れを切らした弁髪和尚は、座禅で肩を叩くのに使用する棒をへし折り、サキくんの穴へぶっ込んだ伝説の神回。
通称『後孔の千日参り』。
弁髪和尚の名言を思い出した私は机の上に置いてある2本のシャーペンを力一杯をへし折った。
そして、気迫溢れんばかりに右手を突き上げた。
突き上げた手に気づいた先生が私の元へ歩み寄って来た。
「先生っ、ペンが折れたのでロッカーに取りに行ってもいいですか?」
「折れたって、これ折ったんじゃ?」
「折れましたっ!!」
よし、これでロッカーへ行ける。
ロッカーからスマホを取り出し制服のポケットに、そして体調不良を訴え教室を後にする。
教室を後にすると当然、補習になるが、背に腹は変えられない。
『完璧だっ!』
私の完璧な作戦に抜かり無し。
「まあ、仕方ないか」
先生のその言葉を聞いた私はすぐさま腰を浮かせた、その時。
「良かったら、俺のシャーペン使う?」
「えっ、いやっ」
隣の席の一ノ瀬くんの予想外の行動。
「貸して貰いなさい」
一ノ瀬くんの提案の善意に甘えるように促す先生。
光絶えた私は一ノ瀬くんの行動にあるキャラを思い出した。
弁髪和尚
『危険を犯す事にこそ価値がある。そうだろ?』
刈り上げ弟子サキ
『ダメですよ、こんな、こんな、お墓の前で』
『何がダメなんですか?』
前代未聞、前古未曾有のお墓プレイ、それを阻止したヤツの名は、揉み上げ刈り込み弟子ジャキ。
通称『カス弟子』
前代未聞、前古未曾有のお墓プレイを阻止した張本人。
もういっそのこと、『滝修行で死んでくれ』とまで言われている作中屈指の嫌われ者。
その嫌われ様から、ネット上で幾つもスレが立てられた、正真正銘のゴミキャラである。
「あ、ありがとう、一ノ瀬くん」
一ノ瀬くんの善意は嬉しい、しかし今その優しさはいらない。
私は、悔しさを内に秘めながら正面にある時計を見た。
時刻10時28分。
タイムリミットまであと2分。
再び恐怖に支配された脳を回転させる。
その時、甲高い鳴き声が廊下に響いた。
神は私を見捨ててはいなかった。
廊下に迷い込んだ2羽の鳥。
私の内の声を聞いてか2羽の鳥の親子がこのタイミングで迷い込んだ。
もしこの鳥の親子が教室に迷い込みでもしたら、先生は対処に追われる。
その隙にロッカーを目指せるかも知れない。
勝利のビジョンが見えた。
私の横にある教室後ろのドアに手を伸ばし、ゆっくりと約30センチ程の隙間を開けた。
そして私は、ただただ祈る。
祈り続ける。
弁髪和尚
『山門は私が開いた、あとは君が覚悟を決めるだけだ!』
『木魚で開発編』より参照。
そうだ、私に今一番必要なのは覚悟。祈る事じゃない。
鳥が絶対に教室に入ってくると信じ抜く覚悟だ。
私の覚悟が通じたのか、鳥の親子がこちらに一直線に向かって来た。
山門は私が開いた、来い、来い、私の元へ。
2羽の鳥は私が開けた隙間目掛け一直線に飛んできた。
覚悟が通じた、勝った、私は、勝ったぞ。
「なんでここ開いてるんだぁ?」
私の勝ちを確信したその瞬間、先生が開けた隙間を閉めた。
『このクソ眼鏡なに閉めてんだよ』
鳥が入って来た混乱に乗じてのスマホの回収。
限りある時間で私が思いついた作戦が先生によって阻止された。
天から垂らされた希望の蜘蛛の糸が断ち切られた。
時刻10時29分。
タイムリミットまであと1分。
ここから打開する方法を探そうとするも、脳が拒否。
もういっその事全てを受け入れ悟りを開くしか。
「先生っ、お腹が痛いので退席しても良いですか?壊れそうです」
隣の一ノ瀬くんが机に突っ伏し、腹痛を訴えた。
先生が腰を下ろし、一ノ瀬くんの目線に合わせた、その時。
電撃が走った様に、あるストーリが私の脳裏によぎる。
あの伝説の回『後孔の千日参り』と双璧を成すもう一つの伝説の回。
弁髪和尚
『数珠、取ってくれんか?』
刈り上げ弟子サキくん
『和尚、ダメです、相当奥まで入ってます!』
ケツの穴に数珠を詰まらせた弁髪和尚。
弁髪和尚に数珠の取り出してくれと頼まれた刈り上げ弟子サキくん。
しかし、数珠は想像以上に奥に埋まっており対処不可能。
サキくん
『我慢してください!』
弁髪和尚
『そんなもん突っ込んだら膀胱がぶっ壊れちゃうよー』
サキくんがケツの穴に掃除機を突っ込んだがそれでも取れず。
痺れを切らしたサキくんは、業務用のバキュームを和尚の穴にぶっ込み数珠を吸い取った。
ケツの穴に数珠が入ったバックグラウンドが全く見えないと言う理由で大炎上した伝説の回。
この回を機に弁髪和尚の穴がバカになったとされている。
通称『天照大神大救出』。
『ぶっ壊れちゃうよー』この言葉で私は閃いた。
そうだ、ぶっ壊せはいい、この空間自体を。
私は一ノ瀬くんに目線を合わせるために腰を低くした先生が掛けている眼鏡に狙いを定めた。
そして、全体重を机に掛けたと同時に先生の眼鏡を取った。
私はけたたましい音を立て、机と共に床にダイブする。
弁髪和尚
『観測されなければ、どんな犯罪も事実にはならないのだよ」
『住職乱痴気騒ぎ編』より参照。
視界を奪われた先生は、存在しないに等しい。
あと25秒。
教室を勢いよく飛び出して行った一ノ瀬くんを横目に私もロッカーに向かい駆け出す。
「あっ」
不覚にも自分のテスト用紙に足を取られ床に伏す。
『クソっ』
すぐさま腰を持ち上げロッカーへと再び向かう。
その時、私の頭上に甲高い声が響く。
甲高い声とともに私の頭上を通過する鳥の親子。
一ノ瀬くんの開けた扉から今入ってきた。
『やはり、神は私を見捨ててなどいなかった!』
教室に混乱を招く鳥の親子。
私はこの混乱に乗じた隙を逃さない。
ロッカーへ、その後の人生を掛けたスプリント。
『勝った!私は勝った』
残り時間15秒を残し遂にスマホを手にした。
教室を後にするには残り15秒充分な時間。
教室後ろの扉に向かい駆け出した。
遂に歓喜の瞬間。
『黒歴史回避成功だ!』
片足を廊下に踏み出した私は確信した。
「おい、試験中だぞ、どこへ行く?」
私の行く道を塞いだのは眼鏡を奪取したのとは違う先生。
なせ、ここにいる?
『鳥か?まさか、鳥を追いかけて来たのか』
「す、すいませんっ、気分が悪いのでお手洗いっ」
刈り上げ弟子サキくん
「俺はお前の玩具じゃあねえよっ」
弁髪和尚
「なんか言いました?ここは除夜の鐘の中だよ?言いたいことがあるなら、もっとハッキリ言ってくれよ」
サキくん
「な、なんでもないです」
除夜の鐘
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」
弁髪和尚&サキくん
「あっ、ああっ、ああああっ」
「んっ、んっ、ああああっ」
私
「うああああああああっっっ」
教室の時計はほんの数秒ズレていた。
私は奇声と共にスマホを力の限り廊下に投げた。
バリーンガシャンッ
「先生っ、早退しますっ!!」




