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第6話

【真ちゃんはどうして中学から私と遊ばなくなったの??】


 休日の朝、スマホの着信が鳴り画面を確認すると綾瀬からメッセージが来ていた。これまでも綾瀬からRINEでメッセを貰うことはあったが、今回はまた唐突だった。それにこの内容、潔いというか何というか……。


「また直球な質問だな……」


 僕が綾瀬と遊ばなくなった理由、それは大きくなるにつれて僕と彼女の間に大きな差を感じるようになったからだ。凡人と天才、周囲の目。それらが合わさって、いつしか僕の方から彼女と距離を取るようになった。


 だが、それを素直に伝えるのはいかがなものか。そもそも、この感情を上手く言語化出来る気がしない。RINEなんて短文で会話のやり取りをするものだ。そこに長文で後ろ暗い書き込みをしたら、トーク欄全体が暗くなってしまいそうだ。


 正直な気持ちを伝えてしまう恥ずかしさと、事実を彼女に知られたくないという思いから、僕の指は五回タップするだけの短く素っ気ない文章を作り出してしまう。


【なんとなく】


 送信ボタンを押そうとしたところで、指が制止する。本当にこれでいいのだろうか。


 綾瀬は僕とゼロからやり直したいと言ってくれた。彼女と僕の関係が幼馴染から友達未満に成り下がったということを認めた上で、また友達になりたいと言ってくれたのだ。普通、疎遠になった相手にそこまで言えるだろうか。少なくとも僕は無理だ。綾瀬の心臓には毛が生えているのかもしれない。それほど彼女は強いのだ。


 だというのに、また僕は逃げようとしている。これ以上近づくのが怖いから逃げて、逃げた先からまた逃げる。綾瀬は前を向いているのに、僕は後ろしか見ていない。いや、後ろどころか自分がどこへ行こうとしてるのかも把握出来ていない。


 ここでまた逃げたら、それは綾瀬に対してあまりに薄情だ。自分が傷つきたくないから彼女を裏切るなんて、結局僕は自分のみが可愛いだけの臆病者だ。それならば、こんなメッセージは送ってはいけない。たとえ彼女を傷つけることになったとしても、嘘ではなく本心を伝える。それがせめてもの義理ではないか。


「……………………」


 送信ボタンを押そうとしていた指を動かし、メッセージ内容を削除する。そして、僕の気持ちを出来るだけ文章に起こす。何度も書いては消すを繰り返して、文章が出来たのは数十分も後のことだった。


【僕は綾瀬の友達に相応しくない】


【中学から綾瀬は勉強でも何をしても目立つようになったから】


【周りにすごいって言われて、僕も最初は自分のことのように喜んでた】


【でも綾瀬と仲良くしてると、周りの人が不思議そうな顔をする】


【どうして奥路さんなんかと一緒にいるの? って】


【僕はそれが苦痛だった】


【僕のせいで綾瀬の評判が落ちることが嫌だったから】


【だから遊ばなくなった】


【ごめん】


 拙い文章で胸の内を明かしていく。RINEでこんなに文字を打ったのは初めてだった。自分の抽象的な気持ちを言葉に変えることがこんなに怖いことだなんて、思いもしなかった。けれど言葉にした。してしまった。もう後には戻れない。綾瀬が前に進んだように、僕も前を向かなければいけない。それが例え、綾瀬と違う道を進むことになったとしても。


 僕が文章を送っている間、綾瀬からの返事は来なかった。既読が付いていることから僕の文に目を通していることは確かだと思う。最後の文章を送信し、しばらく画面を眺めて待っていると、数分が経つ。そして、ようやく綾瀬からの返事が来た。


 果たしてどんな言葉が書いているのだろうか。怒っているかもしれない。悲しんでいるかも知れない。もしかすると、「気にしなくていい」とこちらがあっけらかんとしてしまう反応が返ってくる可能性もある。


 覚悟を決めて、恐る恐る画面をのぞき込む。そこには、短い言葉が書かれていた。



【今時間ある?】



「これってどういう……」


 綾瀬の言葉を疑問に思うより先に、スマホから着信音が流れる。画面には綾瀬の名前が表示されていた。僕は画面をタップして、スマホを耳に当て、慎重に会話に応じる。


「もしもし……」


「おはよう真ちゃん。いきなり電話してごめんね、今大丈夫かしら?」


「いや、うん大丈夫。何、いきなり。RINEもだけど、唐突すぎるでしょ」


「あはは、そうね。でもどうしても聞いておきたかったの。私たちがまたやり直すために、そもそもどうしてこんなことになったのか。その原因を知りたかったから」


「僕は友達に戻るなんて言ってないけど……」


「でも嫌とも言わなかったわ」


 ふふんと笑う綾瀬の声。きっと電話の向こうでは自信に満ちた顔をしていることだろう。事実僕は綾瀬の言葉を否定出来ずにいた。


「真ちゃんの気持ち、しっかり読ませてもらった。正直に言ってくれてありがとう。真ちゃんがそんな風に思っていたなんて私、考えたこともなかった……」


「綾瀬のせいじゃない。僕が勝手に劣等感に負けただけだ」


「私にとって真ちゃんはいつでもかっこよくて、私にとっての王子様だった。だから、周りの人に何て言われても気にして欲しくない」


「綾瀬が思うほどかっこよくないってだけだよ」


 綾瀬の反応は僕の想像通りだった。周りの人なんて気にしなくていい、彼女ならきっとそう言うだろうと分かっていた。だが、そんな言葉だけで簡単に切り替われるはずがない。それが出来るなら最初から悩んだりしない。


 それに、綾瀬と疎遠になった本当の原因はまた別にあるのだ。小学校のクラスメイトに言われたひと言。あの言葉が今もまだ僕を縛り付けている。この呪縛がある限り、僕が綾瀬に歩み寄ることは出来ないだろう。


「じゃあ、今の真ちゃんを教えてよ」


 突然、綾瀬がそんなことを言い出した。


「教えてって何だよ」


「そうねぇ……」


 しばらく沈黙が続いた後、閃いたと綾瀬は叫び、そしてこう告げた。



「デートしましょう」


「は……?」


 休日の朝、幼馴染に気持ちを打ち明けたと思ったらデートを申し込まれたのだった。

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