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コインと祭り④

『すぅわぁ! 二回戦のは、じ、ま、り、どぅあ! おっとぅお、このカードは一回戦の第二ゲームと全く同じぃだぐぅあ、気にしないでいこうゼ!』


 舞台に上がると先程よりも盛り上がりを感じた。やはり金を賭けると客の目の色が変わるんだな。少しでも自分の賭けた方の勝ちの可能性を高めるために必死で応援するって訳だ。


 MCは私に赤のコップを、相手に水色のコップを渡した。赤は一回戦でユリが使ったコップだ。これを使ってユリは勝ったからな。相手は一回戦で私を倒した相手だが、この赤のコップがあれば大丈夫だ。


『オッケェェェイ、ひっくり返せぇい!』


 私はコップをひっくり返し、中のコインをぶち撒けた。いい数字、来てくれよ。


 3。


 1。


 2。


 3。


 2の五枚。


 ・・・マックスナンバーが3か。その3が二枚あって、2も二枚か。・・・弱くね?


 いや、強いか弱いかは相対的なものだ。相手の手によってはこの五枚も強くなる。相手の手が重要なんだ。相手の手は、4332。私よりマックスナンバーが大きくて枚数も少ねえ、畜生。


 えーっと、待てよ。相手は4で3を食って7を作れるな。私が作れるのは3で2の5だ。これは、勝つにはプロテクト2必須だな。


『いくゼぃ、コイントォォォス!』


 MCがコインを弾く。頼む、来い、2。


『プロテクト1! スタートゥゥゥ! ファイブ! フォー!』


 クッソおおおおお! 2じゃねえのかよ!


 とか言ってる場合じゃねえ。もう始まってんだ。どうするか考えねえと。


 とにかくマックスナンバーを育てる策はなしだ。小さい数字を相手の方に逃そう。私の1を相手の2に・・・、駄目だ、そうしたら相手の数字が全て3以上になる。私の現時点のマックスナンバーが3だからスタックしちまう。


『スリー! ツー!』


 どうしようもねえじゃねえか。相手のミス待ちをするしかねえのか。ミス待ちなんて、・・・あ、あああ!


 私は急に思い出した。先程の対戦でこの相手がよく分からねえ行動を取ったことに。こいつ、自分のマックスナンバーを育てればいい場面で私に自分の数字を取らせねえことを優先した。もしかすると、今回もそんな行動を取るかもしれねえ。取らねえか、リスキー過ぎるもんな。でも、この五秒でこれよりいい案を思い付けなかった。これに賭けるしかねえか。


『ワン!』


 私は2を相手の3に。これで3321対5432になった。これでどうだ。来るか。来い。


『オケェェーイ。ファイブ! フォー!』


 相手が動いた。相手は2、2を掴んだ。2を、私の3に。よし来た。これで5321対543に。思い通りになったぞ。もちろんここで私が取るのは4、9321対53だ。勝ったな。


 相手は3を取って921対83にしたが、もう勝負は決している。私は2を相手の手に逃し、相手に1を取らせ、5を回収する。(14)対9で私の勝ち。リベンジを果たしてやったぜ。


『勝者は赤のハブどぅあああ!』


 私はMCが言い終える前に舞台を下りた。何とか勝てたな。よかった。しかし、私の目的、というかデカの目的はタダコロに吠え面を掛かせることだ。まだまだ全然目的に達せてねえ。気を緩めちゃいけねえぞ。


「あと二回勝てば優勝ですね」

「まだ帰ってねえのか」


 ユリと合流し、椅子に座った。すると、目の前を私の対戦相手が通り、近くの机に何かを置いてテントを後にする。置かれたのは水色のコップだった。


 私はコップを舞台上の机に置いてきたが、あれはトーナメントに誰が残っているかを表すサインということなのか。つまり、トーナメント中ならいつでも客達は賭けることができるのかな。


 私は立ち上がって観客の方に近付いた。そこで観客が何かに並んでいるのが見えたので、自分の推測は正しいと確信する。いつでも賭けれんだ。


 ユリの所に戻ると運営の奴が水色のコップを回収するところだった。私はアイディアがある程度固まっていたので運営に質問した。


「なあ、このモニターの映像って録画見れんのか」

「録画ですか。すいません、あのカメラ、テープ入ってないんで」

「中継してるだけってことか」

「はい」

「どこにも記録は残らねえのか」

「そうですけど」

「そうか。分かった」


 証拠映像が残らねえなら問題はねえ。私は運営を解放し、コップを持って帰らせた。そして、座ってユリとゲームを見届ける。しかし、重要なのはタダコロのゲームだけ。それ以外は流して見ていた。


「あの人の番ですよ」


 ユリに言われ、視線をモニターから上げると、舞台上のタダコロが黒のカップを握っていた。


 ここでタダコロに負けられては困る。あんなクズを応援したくはねえが、勝ってくれよ。


「負けてほしいですよね。あ、この発言、性格悪いですか」


 ユリは私の状況を知らねえから教えてやることにした。


「勝っていいんだよ。私が捻り潰すからな」

「・・・そっか。私は性格悪いしカッコ悪いですね」

「ほんとだよ。悪女だな」

「そこまで言います? フォローして下さいよ」


 ユリが口を尖らせたが、私はモニターに集中した。既にコップはひっくり返されている。


 タダコロの手は、悪くねえ、532211。マックスナンバーは5か(さっきも5だったな)。枚数が多いがマックスナンバー以外の五枚が最も小さい組み合わせなんで、相手のマックスナンバーが極端に大きくなることもねえだろ。大丈夫だな。


 それで相手の手は・・・、432! 枚数がかなり少ねえ。これは、不味いぞ。タダコロは六枚もあるから早々にスタックする可能性がある。つまり、タダコロがここで負けるかもしれねえ。


 ・・・私と同じだな。相手のミスを待つしかねえ。相手が完璧に動けば、私はデカの協力は得れねえっつー訳だ。ったく、頼むぜ、タダコロ。私と戦うまで勝てや、クズ。


『プロテクト2! ファイブ! フォー!』


 相手の一手、タダコロの3を自分の4に。732対52211。


 ・・・ん? これ、732にしたら、3と2がタダコロの弱い数字の逃げ場になるよな。いいのか、逃げ場を残して。ミスじゃねえかな。


 タダコロはもちろん自分の弱い数字を相手のマックスナンバーに取られたくねえから2を3に渡す。752対5211。


 相手の番、私なら5を取られたくねえから7を育てるのは後回しにするが、その相手は7を育てた。952対521。ミス臭えけどな。


 タダコロは5を7にした。95対711。相手は1を取り、(10)5対71。その後は小さい数字を取り合い、(11)対(12)で対戦が終了する。タダコロの勝ちだ。


 舞台の上で机に手を突くタダコロが見えた。体に入った力が抜けた様だ。そりゃ力入るよな、あんなザコ手で勝てそうになったら。相手に救われたな。


「本当に勝ちましたね、あの人」

「そうだな」


 勝ったが、タダコロ、5ばっかり出てるな。私は今日一度も5を出してねえのに。まさかとは思うが、タダコロが何か企んでるとデカの勘が言ってるらしいし、私もやるかどうかは別にして準備だけはしておくか。


 タダコロと対戦相手が舞台から下りて来て、その相手が近くの机に黄緑のコップを置いた。中にはコインが入っている筈だ。


「次、ハブさんですけど、少しインターバルがあるみたいですね」

「ちょっといいか」


 私は人差し指をクイクイと曲げ、ユリの頭を私の方に近付けさせた。小さい声で耳打ちする。私が頼むのはユリにとっては簡単なことだ。耳打ちは直ぐに終わり、体勢を元に戻す。


「・・・あの、それって・・・」


 ユリは私の指示内容は理解できても意図が理解できねえんだろう、暫く考えてから私に尋ねた。


「何か、ズルをする気なんですか」

「おいおい、誰かが聞いてるかもしんねえだろ。直接的な言い方はよしてくれ」

「あ、そっか、すいません。でも、その、そういうのは良くないんじゃ・・・」

「協力してくれねえのか」

「・・・うーん、やりたくないです」

「何でだ」

「悪いことだと思います」


 私は鼻で笑った。久し振りに悪いぞって咎められたな。何年振りだろう。


 ユリの言うことは間違ってねえが、私としてはユリに力を貸してもらわねえと困る。何とか説得しよう。


「悪いっつってもちょっとだけだ」

「ちょっとでも悪かったら駄目です」

「勝たなきゃいけねえ場面で負ける方がよっぽど悪くねえか」

「正々堂々と戦って勝てばいいじゃないですか」

「その通りだな。でも、現実を見ろよ。正々堂々として勝てることなんて殆どねえじゃねえか。やるときはどんな手でも使うんだ。お前だって私の所に来るってことは何かヤバいんだろ」

「・・・」

「ダラダラして許されるのは学生までだ。お前にリスクは負わせねえよ。万が一になったら私を売れ。いいか」

「・・・はい」


 よし、了承の言葉を引き出したぞ。これでオッケーだ。さて、そろそろ私のゲームの様だ。舞台に向かうか。


 私は舞台に上がった。ユリも説得できたし、なぜか勝てる気がしている。私は赤のコップを受け取り、ひっくり返した。すると、三枚、311。数字はまあまあで枚数は少ねえ。きっと勝てる。


 相手の手、私は吹き出しそうになった。相手の手は3以外の九枚、話にならねえ。観客から落胆の声が聞こえる程だ。


 MCがプロテクトナンバーを発表してから勝負が決するまで三十秒も掛からなかった。余裕で私の勝利だ。


 しかし、・・・不味いな。もう少し時間がほしい。ユリの作業は舞台に注目が集まっている間に行われるから直ぐに勝負が決するのは好ましくねえ。なら、仕方ねえか。少々不自然だがマイクパフォーマンスでもしよう。


「そいつを寄越せ」


 私はMCに手を差し出した。MCはノリノリでマイクを私の手に置く。


『私に賭けた奴は手を挙げろ』


 私が客にこう言うと客から手がどんどん生えた。結構居る。皆、素直に手を挙げてくれるんだな。


『次も絶対に勝つぜ。必ず勝つから私に賭けてくれ。今回は賭けなかった奴もだ。私の名前を呼んでくれ。ハ・ブ! ハ・ブ! ハ・ブ!』


 私は拳を突き上げながらハブコールを求めた。MCが一緒に煽ったことにより結構な大合唱になる。


 こんなもんでいいか。もう作業も終わってるだろ。私は観客に手を振り、舞台を下りた。


「お前、いつからそんなキャラになったんだ」


 すれ違いざまにタダコロに指摘されたが怪しまれてはねえ様だからよしとする。


続く

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