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コインと祭り②

『オゥケー、盛り上がっていこうゼぃ! 今からの八ゲぅム、それが終わったらベット開始だぅぃ。八ゲーム中に誰に賭けるのか決めるんでぃゼぅ。アーユーオーライお前ら!』


 うわ、盛り上がるなあ、あのMC振り。めっちゃ盛り上がってるわ。プロだな。


 そう、このゲーム、観客がゲーム参加者に金を賭けることができる。誰が勝つのか予想するのだ。二回戦以降が賭けの対象だ。


『じゃあ、早速ぃ、始めるゼ第一ゲーミぃぃぃぃぉぉ! 二人のチャレンジャー、登場でぃぃ!』


 お、始まったな。私は両手を胸に合わせるユリの肩を叩いた。あれ、こいつ、ガッチガチじゃねえか。


「緊張してんのか、ユリ」

「ええ、はい」

「簡単なゲームだ。緊張してても十分できるよ。制限時間は五秒もあるんだ。五秒全部使え。お前が負けたら笑ってやるからテキトーにやって来い」

「うん、分かりました」


 ユリが私の方を向いた。


「私のこと、応援して下さいね」

「図々しいな、初対面だろうが。早く行け」


 私はユリの背中を押した。ユリの対戦相手はもう壇上だ。ユリが上がって来ねえんでMCが繋いでいる。


『イエイイエイイエイ、フォーウォー、ケメぇン! あ、来た。来たズぃ、うっし、はーじぇるゼぃ!』


 ユリと対戦相手が机を挟んだ。MCがユリに赤のコップ、対戦相手に水色のコップを渡して中を確かめる様に言う。中にあるのは十枚のコイン、1から5までを二枚ずつ。赤のコップは赤い数字、水色のコップは水色の数字だ。


『うーうぇいぉ、でや、戻してくりィ。どぅわ、ゲームすたぁぁぁとぅぅ! 手で蓋をすぃ、シャッフルシャッフルィ、いけぇぇ!』


 聞き辛いな、あいつの滑舌。最初はマイクのせいかと思ったけど、あれはあいつの滑舌だ。私、殆ど文脈で理解してるからな。


 ユリの様子、大丈夫そうだ。元気にコップを振っている。始まれば意外と緊張がなくなるからな。


『おけ、ぅけぇい? グーッドぅ。コップをひっくり返しぇ、ハッ』


 ひっくり返せ、と言った。どんどん滑舌が酷く・・・。


『ノータッチ! ヌゥゥティーッチ!・・・うけ、裏を取り除けぃ』


 あ、ちょっとよくなった。自分で気付いたのかな。


 ユリと相手がMC立ち会いの許、裏のコインをコップに戻す。ユリの手となる重要な表のコイン、ユリはそれを見て喜んで小さく拍手しているが実際は違う。この手は強くねえ。ユリの手、55421。デケえ数字が多い。マックスナンバー以外は基本的に相手に吸収されるから、最悪の場合、相手のマックスにプラス12される。


 しかし、これだけでは決めれねえ。相手の手によっては・・・、うーん、微妙だ。相手の手は5442。デケえ数字はあるがユリと比べて枚数が少ねえ。ユリが先を読んで動ければ勝てると思うが、どうだろうな。ユリに気付けるかな。


『コイントゥスでぃ。フェーイ!』


 MCが片面に1、もう一面に2が書かれたコインを投げた。二メートル程飛んだコインは机の上に落ちる。出た目は・・・。


『オーケィ! マックスナンバープロテクト1。先攻は浴衣ぃの彼女ぅでぃぃ! カウントディウン、スティィトゥ! ファイブ! フォー!』


 始まった、55421対5442。ユリ、単純にいくなよ。5で4を取るなよ。プロテクト1なんだ、お前の2を相手の4に食わせろ。そうすれば相手のマックスナンバーが6になって後々相手の5を貰える状況になる可能性が高い。マックスナンバーで馬鹿みてえな殴り合いにすんなよ。


 ユリが動いた。ユリは相手の、4、4を掴んで自分の5の後ろに置いた。あいつ、馬鹿野郎、殴り合いに持ち込んでどうする。そんなん、でも、仕方ねえか。さっきこのゲームのこと知ったばかりだからな。こうなるか。


 相手が4を取ってまたユリのターンだ。今は9521対942だが、殴り合えば(15)対(17)になる。まあ、負けだわな、ユリの。


 ユリはカウントワンが宣言されるまで動かなかった。私のアドバイス通りじっくり考えてるな、と思っているとユリが動き出し、なんと自分の5を相手の2に食わせたのだ。これは予想外の一打。


 これで921対974になったが、・・・ユリの勝ちだ。相手は7を取られねえ様にするためにユリの2を吸収するが、次にユリは9に4を足して13にする。相手はもう敵わねえ。


 実際のゲームも私の思い通りになった。91対994になり、(13)1対99になり、(13)対(10)9になり、それで相手はスタック。(32)対0でユリが完封勝利した。


 ユリが勝つとは。別に勝ってもいいのだが予想を裏切られた。何でユリは勝てたんだ。よく5が取られそうだから相手陣営に逃がすという判断ができたな。五秒しか考える時間はなかったのに。


「ハブさん、やったー、勝ちました」


 舞台を下りたユリがちょこちょこと駆け寄って来た。まあ嬉しそうだ。


「お前、あの5を食わせるナイスプレーは何だ」

「あれですか。5を取られたら負けるなって思ったんです」

「気付いたのか」

「気付きました」

「・・・そうか、まあ、気付くか、普通」

「ちょっと、褒めて下さいよ」

「調子乗んじゃねえよ。お前の次の対戦相手はこの私なんだからな」

「あ、そうだった。ハブさん、二回戦で待ってますからね。ファイト」

「誰に向かってファイト、まあいい」


 MCに呼ばれ、私は戦いの場に向かった。ユリは私にひらひら手を振っているが、他人との距離を直ぐ詰める奴だな。


『来たゼ! サングラスぅのぉ、ミスティリヤスんにゃあ、ハブだあ!』


 観客が歓声と拍手で私を迎えたが、凄いな、このMCは。よくここまで盛り上げれる。私はもちろん観客を無視した。


 MCが私にオレンジ、相手に青のコップを差し出す。中には十枚の数字が書かれた・・・、ん? これ、書かれてねえ。オレンジ色の数字のシールが貼ってある。直接プリントされてねえんだ。・・・シールか。シールなんて簡単に剥がせちゃうけどな。


 全てのコインを確認したら、それらをコップに戻してMCの合図でひっくり返す。MCが表のコインを確認すると、私達に裏をコップの中に片付けるように言う。


 私の手、433221。六枚もある、多いな。一方で相手の手は5221。マックスナンバーが私より大きいうえ枚数が少ねえ。くそ、最悪の状況じゃねえか。ヤバいかもしれねえな。


『プロテクト・・・、1だ! ゲィムスティぃぃトゥお! ファイブ! フォー!』


 どうするか。マックスナンバーを育てるか。いや、それより私の3を取られねえことの方が重要だ。3を相手のザコの所に逃そう。私は3を相手の1の所に置き、43221対5422にした。


 しかし、これ、結局私の手に3が残るから意味がなくねえか。8を作られたら、終わりじゃねえか。


 相手のターン、相手は・・・、2を私の3に? は、どういうことだ。私の3を取るんじゃねえのか。これで54221対542になった。3を取れば8を作れたのに。何だ。こいつ、下手か。もしかすると勝てるかもしれねえな。


 私のターンだ。依然として私の枚数が多い。早く減らさなければ。どれを相手の場に逃すか。4か。4を・・・、4は駄目か。では2だ。2を相手の2に重ねて・・・、駄目だ、次のターンで6を作られる。あれ、じゃあ1か。いや、待て、そもそも今、相手の4を食っておかねえと4を6にされちまうぞ。


『トゥー! ぅワアアァァァン!』


 時間切れか。4を取ろう。94221対52。何か、私の負けっぽい。


 相手のターン、9221対92。次の私のターンで1を相手の2に逃しはしたが、私の二枚の2を取られてしまったので、最後は(12)対(13)の形、私の負けだ。


 さすがの私も少し動揺した。不味い、負けたぞ。・・・取り敢えず、下りるか。いつまでもここに居てもしょうがねえからな。ああ、負けちまった・・・。


 私は舞台から下りた。ユリが心配そうな表情を私に向けているが、私はそれをスルーし、パイプ椅子に向かう。ユリが後ろから付いて来ていた。


 私は息を吐きながら座った。両膝に前腕を突いて手を組み、俯く。どうしたものか。どうもこうもねえか。帰るだけか。


「ハブさん、ちょっと待ってて下さい」


 どうして負けたかな。ん、今、何か言われたか。ユリの姿が見えねえが。まあいいや。何で私は負けた。相手は3を取らねえっつーよく分からねえプレーをするレベルなんだぞ。でも、私の手が悪いんや。悪過ぎるんや。あんなんでどう勝てっちゅうんじゃ。無理や。ああ、ショックで生まれでもねえ地域の方言が。


「二回戦進出おめでとー」


 うわ、キモ、タダコロだ。無視しよ。


「どうしたんだよ、勝ったんだから喜べよ。あんれぇい、もしかして、勝ってないんですかあ? ごめーん、俺、試合見てなかったから。あらあらあらあら。まあよ、多少は頭を使うゲームだからよ、オツムの足んねえ女にゃハナから無理だったんだよ。受付で自分の名前書けただけでも上出来だ。落ち込むな、低能がよ」


 くそ、こいつ。口喧嘩には自信があるから言い返してやりてえが、負けてしまった以上何を言ってもこいつには響かねえ。くそ、気に入らねえ。何でこんなクズに好き勝手言われなきゃいけねえんだ。


「本当はこのゲームで直接お前を叩きのめしてやりたかったんだが、お前がそんなに弱いとは思わなかった。失せろや、ザコ」


 タダコロが離れた。あいつ、ぶっ殺してやる。負けろ、お前も、一回戦で。一回戦で負けてくれりゃあ私と対等だ。対等なら口喧嘩で殺せる。負けろ、絶対に。見届けてやるからな。


 私は心の中でタダコロに罵詈雑言を吐きながらモニターを注視した。会場はそこそこの盛り上がりを維持してゲームが進んでいく。


 このゲーム、一試合が五分も掛からねえから、直ぐに一回戦の第七ゲームまで消化された。次が最終第八ゲーム、タダコロのゲームだ。


 タダコロは舞台の直ぐ隣で待機している。私がそっちの方へ目を向けるとタダコロが私に舌打ちした。なぜか帰らねえ私が気になるんだろうな。お前が負けるのを見てえから帰らねえんだよ。負けろや、クズ。


 タダコロが第七ゲームの奴と入れ替わる様に舞台に上がった。そういえば誰が敗者復活なんだ。もしかして、私にも可能性があるんじゃねえか。いや、ねえか。私なら事前に運営から何か言われる筈だ。


『第八ギィィィムゥゥゥ! あ、お知らせどぅゼ。飛び入り参加者が出たため、敗者復活枠消滅ぃ! 飛び入り参加者は、んー?』


 MCが私達の方を見ている。探しているのか、飛び入り参加者を。私も見回してみたが、知らねえ顔がねえな。全員見たことがある。どこだ、飛び入り参加者は。


『おーう、ウェルケィム、どうぞぉ』


 MCの声だ。あれ、飛び入り参加者は・・・。


続く

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