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魔法ってなんだろう?
魔法少女ってなんだろう?
あなたはその二つの言葉を聞いて何を思いますか??
何を連想しますか?
夢?
幸せ?
憧れ?
色々あるかもしれませんね。
この物語は魔法も魔法少女も、何もない、何も存在しない? そんな世界で生きるちょっと変わった物語。
始まり始まり。
「私、実は魔法少女なのよ」
「マジか……」
僕はその日、この日、あの日、どの日、制服を身に付けた、身に纏った、身分をしっかりと、がっちりと、がっしりと、どっしりと、ずっしりと、ちゃっかりと、証明した学校でも一二を争いそうな美少女からそう打ち明けられた。
これはそんじょそこらの告白罰ゲームよりも遥かに酷いと思った、そんな季節。
Phase 1
第1話 A form of happiness without magic.
桜が満開に咲き誇る入学式ーーー
なんていうのは、もはや嘘である。昔話である。御伽噺である。御伽草子である。何故か? どうしてか? どうしてそう思うのか?
答えは簡単である。答えは単純である。答えは純粋である。答えは粋である。
その答えはどう考えても地球温暖化にあるわけで、異常気象にあるわけで、温かさによって、暖かさによって、勘違いした桜は、寝ぼけた桜は、惚けた桜は、3月に咲き始め、狂い咲き始め、咲き誇り、誇り咲き、4月の入学式には早過ぎる春雨が降り注ぎ、容赦なく降り注ぎ、新入生たちが新しい制服に袖を通し、裾を通し、新たな門を叩く頃には、桜はあってないようなものなのだった。
そんなわけで、こんなわけで、どんなわけで、あんなわけで、そういうわけで、こういうわけで、どういうわけで、ああいうわけで、入学式と桜の組み合わせは時代錯誤なのかもしれない。
これからの時代は入学式とセミがベストマッチする、そんな日もそう遠くはないだろう。
そんなことはさておき、おきさて、さてさて、おきおき、今日は何を隠そう僕自身の入学式である。
今日この日、この日の今日、僕は真鹿高校に入学するのだ。
これから、これより真鹿高校に入学することとなる僕の名前は緋崎ミカン。勘違いしないでもらいたいのは、僕は男である。男子である。男子三日会わざれば刮目せよの男子である。ボクっ娘などでも決してない。
この名前で、この名前だけで、よく、それはよく、よくよく、いじられたものである。いじり倒されたものである。いじり散らかされたものである。やれ女だの、やれ女だの、やれ女だのと、よくちょっかいをかけられたものである。
なかなかに鬱陶しい日々を送ってきたものの、だからといって、かといって、この名前が嫌いなのかと聞かれると、尋ねられると、問われると、詰められると、責められると、実はそうでもない。そういうわけはない。そういうわけでもない。そんなわけでもない。
意外と、意外にも、意外や意外、僕はこの名前を疎んでいたり、嫌っていたりするわけでもない。どころか季節感があって、季語感があって、風情を感じるいい名前なのではないかとまで思っている。
しかし、だがしかし、この名前にあえて文句を、イチャモンを、付けるとするならば、ミカンではなく、リンゴにしてほしかったというところだろうか。
随分と話が逸れてしまったが、脱線してしまったが、一人歩きしてしまったが、そんな僕も今日から花の男子高校生である。
これからが楽しみでどうしようもないというものだ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
テンプレートのような、もう人生の中で小中高と、最低3度、在校生としての参加も含めれば5回は聞いたこの台詞にはもう飽き飽きしていた。
「新入生代表挨拶」
その進行に合わせて、「はい」と返事をしたのは、謳ったのは、女の子の声だった。そしてその子が壇上に姿を見せる。
その子は眼鏡をかけていて、おさげで、眼鏡をかけていた。大事なことなので、大切なことなので、二度いう。三度でもいいくらいだ。それ程までに眼鏡をかけている。それに加えておさげと来たものだから、彼女は間違いなく、間違いないだろう。
そう彼女は所謂、優等生キャラというやつである。本人的には、本人としては、キャラでやっているわけでもなんでもなく、ただ、ただただ、真剣に、真面目に生活をしているだけなのだが、その姿は間違い優等生キャラなのであった。優等生というなの優等生、優等生の中の優等生、優等生ならぬ一等星。
そんなことを、こんなことを、どんなことを、あんなことを、考えているうちに新入生代表挨拶どころか、入学式そのものが終わっていた。グランドフィナーレを迎えていた。
クラス分けも組分け帽子なんぞに頼らずとも、紙一枚で、たったの紙っぺら一枚でその全てが掲載、記載、搭載されていた。
おそらく担任なのだろうと匂わせる、匂わせ過ぎている先生に連れられ、僕たちは教室へと向かう。
「さて、今日から1年間、お前たちの面倒を見ることになった天照マキナだ。よろしくな」
驚くことなかれ、担任が自らを担任と名乗るわけなのだが、先程からかなり匂っていたので、特に誰も驚きはしない。あっけにも取られない。鳩が豆鉄砲を食ったような顔もしない。
一応補足しておくと、天照先生は男勝りな雰囲気を醸し出した、曝け出した、女教師のようだ。
髪型はポニーテールで可愛らしいというよりは、カッコいいの方がよく似合う、そんな見た目をした教師だった。
そんなことよりも、こんなことよりも、あんなことよりも、どんなことよりも、僕がまず驚いているのは、教師が女だったことでも、他でもない。僕の隣に座っているこの人、入学式の新入生代表挨拶をしたその人なのであった。
「私は木鷹ツバキです。これからよろしくお願いします」
彼女はとても丁寧な言葉遣いで、挨拶をしてくれた。
「ああ、僕は緋崎ミカン。よろしく」
そんな彼女に対して、このような言葉使いでよかったのだろうかと、僕は今後、この後、この先、一生後悔することになるのかもしれない。
「可愛い名前ですね。私、その名前結構好きですよ」
「あ、ありがとう」
木鷹は優しく微笑んだ。なんというべきか、可愛い。
学校を終えてーーー
真鹿高校は住宅地の中にある学校というわけでもなく、通学に徒歩を用いている生徒はほぼ、ほぼほぼいないようで、近い人で自転車、あるいは僕のように電車通学が大半を占めている。
そのため僕はこれから下校するにあたって、駅へと向かうのだった。
その駅で僕はそれはそれは可愛らしい美少女を目にすることになった。
腰まで届いている長いストレートの髪は、黒のようにも見えるが、赤く見える、そう思った矢先、青く見えた。なんて考えていたら紫にも見えてくる、そんな独特で特別で、特殊な、特な髪色をしている美少女の美しさは、可愛らしさは、その魅力は、その美貌は、その全貌は、当然髪だけではない。髪だけであるはずがない。髪だけのわけがない。
整った目鼻立ちはもちろんのこと、どこか儚げ、それでいて眼力がある、目力がある、鋭い目をしていた。その目がそうさせているのか、どうさせているのかは定かではないのだが、その鋭い、視線で人が殺せそうなそんな目が手助けして、相まって、どこか近付き難い空気が、空気感が漂っていた。
「なに? さっきからジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロ。私に何か用かしら?」
「あ、いや、何も」
綺麗な制服であるところを見ると、使い倒された感がないところを見ると、彼女も同じ一年だと僕は推理するのだが、推測するのだが、同い年には到底思えない謎のオーラが、謎の極みが彼女にはあった。
これはきっと僕の思い違いでもなければ、勘違いでもない、彼女はどこか人を寄せ付けない、ナニカがあるに違いない。
(補足、この世界にそんなナニカは一切ございませんので、ご安心ください)
to be continued.