転生した悪役令嬢が悪役を引退して現代社会の闇を満喫する話
流行りに今更乗って初投稿です。思いついただけの短文
性格の悪い悪役令嬢は現代の方が適正高そうですよね。
シャルロッテ・フィアーナとは悪女と呼ばれた人物だった。
対して見た目が良いわけでも無く、優れた才能も無い平々凡々な下級貴族の娘。
それでも人より優れてないと気が済まない性格だったシャルロッテは、他人を見下し、粗を探し、時には捏造してまで自分の方が優れていると、幸せであると思い込みながら生きていた。
そんな彼女に訪れるのは当然、破滅である。
形だけだった婚約者からは婚約破棄を言い渡され、自分より下だと見下してた平民に奪い取られる。
シャルロッテと同じように平民を見下していた貴族たちはシャルロッテを嘲笑い、嬉々として今までシャルロッテが犯した罪を誇張したり、自分の罪を押し付けて言い触らす。
彼らもシャルロッテと同じように、誰かを踏み台にして生きていたのだ。
そうして、処刑という穴に蹴落とされたシャルロッテは、短い人生を終えるのである。
そんな悪女の名に相応しい未来が待ち受けるシャルロッテに、人間関係に疲れた社会人の女性が転生する。
変わりゆく彼女に婚約者は惹かれ、新しい人生を歩むのであるーーー…。
では、本来その短い人生を歩むはずだった"シャルロッテ"はどうなったのだろうかというと。
「ではお先に失礼しまぁす!」
「おつかれ坂本さーん」
"シャルロッテ"へと転生した人間関係に疲れた社会人、"坂本"へと転生してしまったのである。
本来の坂本は職場では給料も安く年の差で馴染めないと悩んでいたが、シャルロッテにとってはまるで天国の様な環境だった。
裏で他人を如何に蹴落とすかと企む貴族もいなければ、皮肉と嫌味ばかり言う令嬢もいない。
何より年が離れている分、容姿を比べる必要も無ければ、心理戦なんてしなくても愛想を振りまけば可愛がってくれる相手ばかりだ。
たまに嫌な上司もいるが、政治や家系レベルで蹴落としてくる奴らと比べたら可愛いものである。
安い給料だって生活していく分は稼げているし、何よりこの"坂本"が住む日本には無料や手頃な価格で楽しめる娯楽が溢れている。
「今日はあの小説の更新来ているから、帰ったらチェックしないと!」
元々娯楽が少ない上に、あるとすれば参加なんてできない賭博、無駄に金をかけて無駄に神経も使うパーティやお茶会なんて娯楽とも呼べない事くらいしか無かった前世と比べれば、今の生活でもシャルロッテは十分に楽しめた。
労働だって最初は平民がするものとバカにしていたが、ややこしすぎる貴族のマナーや知識を金を払って学ぶよりも簡単で、お金も貰える。なんて最高なんだろうか!
「ああ、あともうひとつ…うふふ、今日もいっぱいねぇ」
スマホという前世からじゃとても考えられなかった便利な機械を取り出して、最早慣れた手つきでSNSアプリを開く。
そしてタイムラインやグループチャットを開けば流れてくるのは、同じ趣味を持つ人達の沢山のつぶやきだ。
わざわざお茶会を開かなくても、こうしてネット上でお話する事も噂話も出来るスグレモノ。
そして何より、シャルロッテにとって最高だったのが誰もが皆日常の不満や不幸を吐き散らかしている事だった。
ああ、この人もあの人も、今日もまた自分が不幸だと嘆いているわ。
本当に可哀想な人も探せばいるが、大抵は自堕落が招いたものばかり。
そんな彼らの嘆きを見れば見るほど、前世でシャルロッテを破滅に導いた原因でもある性格を満足させてくれる。
"坂本"は趣味の交友関係なのにリアルの愚痴を聞かされる事にも疲れていたようだが、シャルロッテにとっては大歓迎だった。
何故なら前世と違いわざわざこちらが何かをしなくとも、自ら不幸だと嘆いてくれる。
その度にシャルロッテは彼らと比べてなんて自分は幸せなのだと、ようやく実感できるのだ。
「……そうだわ、せっかく転生したのだし…今回は恋でもしてみようかしら」
自分を磨く事はどうせ無駄だと二の次にし、趣味に金と時間を費やす発言を見て、ふと思い至る。
前世では家の決めた愛の無いつまらない婚約者、終いには婚約破棄だ。
だから今回は、趣味の合う相手を探して見ようか。
上手くいかなくてもそれはそれ、公衆の面前での婚約破棄なんかよりも絶対にマシだろうし、いい経験になるだろう。
婚活だなんて、前世では出来なかった事なのだから 。
それにわざわざ彼らみたいに縁が無いと嘆かなければ、知られる事も無いしするつもりも無い。
上手くいった時だけ、さりげなく零す程度で丁度いいのだ。
「ふふ、そっちはそっちでお幸せにね。"シャルロッテ"」
平凡な社会人が愛され異世界ファンタジーを楽しむように、悪役令嬢もまた現代社会の闇を満喫する。