4.ストレスフリーは幸せの素
次の日、俺はいつもの通り学校に電車に揺られながら行ったわけだがなんとも調子が良い。いや疑わしい気持ちはわかるけど、本当にそうだ。
なんと言ったって昨晩はゆりとの終わらないラインが無かったし、今朝もラインを開き続けて面倒なメンヘラインへの返信をしなくていいんだ。外の景色なんか眺めちゃったりして優雅な登校だ。いや、普通の登校だ。
教室に着く。右の方からとてつもない闇を感じるような気がするが無視。昨日からアイツのことは無視すると決めた。そうすればアイツも諦めてちょっかいを出して来なくなるだろう。
と、陰湿なイジメと言うやつか俺の机は『許さない』の文字で埋め尽くされていた。犯人は当然ゆりだろう。先ほどの闇の方を見そうになるが我慢。
「ああ面白くないなぁ」
「み、宮本くん大変だね。あの、もしかしてだけど古川さんと何かあったの?」
と、隣の席の女子である胡簶香織が話しかけてきた。消え入りそうな小声だからゆりに聞こえないように気を使っているのかとも思われるがこれが平常運転だ。
彼女は何というか、美少女だ。ゆりが健康的でエロい感じの魅力を持っているとしたら、黒髪色白で静かな彼女は『あんま健康そうじゃないしエロくもないけどなんかしおらしい』って感じの魅力を持ってるやつだ。
ゆりと付き合っている間はあまり気にしなかったが、こう健康的な脳味噌で彼女を眺めると、その評判の良さも納得できる。
「ああ、別れた」
「えっ! そ、そうなんだ。大変そうだったもんね」
大変そうだったって、あんまり学校ではそんなそぶりは見せてなかったんだがな。意外と周りから見たらバレバレだったのかもな。
「マジかよシゲチ! まぁでもお前にとってはそっちの方が正解だったようにも思えるからねぇ。でもどうすんだ? 古川諦めてないようじゃん」
と、今度は俺の友人である長田快が話しかけてきた。こいつはまあまあクセのあるやつだけど、基本ほぼ無害だ。同じ剣道部員であり部長。一年の6月ごろからゆりのせいで部活に来れなくなった俺を守ってくれた奴。
いい奴そうだけどそうでもない。知ってるのは俺くらいだけど。確かにこいつはイケメンで成績も優秀、剣道の腕もリーダーシップもあるってのは部長の肩書で察してくれ。
だがその正体は、簡単に言えば自信過剰な愉悦部員。基本無害なんだけどね、ターゲットにされると面倒というか普通にムカつくっていうか。
でも実は俺とゆりが付き合ってるのって長田からしたら愉悦の対象だったんじゃないかなって思ってるから、多分アイツからしたらあんま嬉しくないはず。顔に出やすいから観察してればーー
ほら、やっぱ口のあたりが引きつってる。なんかやったぜ。
「シゲチ?」
そういえばこいつだけ俺のことをシゲチと呼ぶ。重明からシゲちゃんになって、『ゃん』を取っ払ってシゲチ。よく分からない。
「うん?」
「どうすんだって聞いてるやん」
「ああ、そうだね。とりあえずはゆりから逃げ切らないとな」
あ、今度はゆりをターゲットにするつもりか? 口元が一瞬笑ったぞ。
「まあそうだよな。困ったら手伝うから相談してくれよ」
長田はこうなれば最強の助っ人だ。なんてったってこいつは愉悦のために生きてるようなもんなんだから。多分俺がゆりとつきあうことになって先輩から叩かれたときに庇ってくれたのはゆりの本性を見抜いてたからだと思う。自分で顔見ればその人の性格わかるって言ってたし。
「あ、そうだ宮本。今日は道着持ってきてないにしろ、明日からは部活来いよ!」
ということで次の日、俺は昨日今日と学校でゆりに特に何もされなかったことに安心して部活に向かった。あ、机の落書きと下駄箱に砂が突っ込まれていたことはノーカンな。
「はっ! この音はっ!」
腹からの発声、踏み込みで床が爆ぜる音、竹刀がぶつかり合う熱い音。一年の6月ごろからゆりのせいで稽古に参加できなくなってしまったので、実に一年ぶりだ。
「みんなお久しぶりっす」
「あ! ぶっかけられ男だ!」
この声は上田だな。あいつ一年前の事件を思い出させるようなこと言いやがって。ってそうか、見たことない奴は俺の後輩か。うん、誰だこいつって顔してる。
適当に挨拶をして竹刀を振る。
なんて言うんだろう、この振れば振るほど自分の何か要らないものがポロポロと剥がれ落ちていく感覚は。懐かしくて、そして気持ち良い。ワカメに言わせれば何とかの百倍気持ち良い。
帰りも一年ぶりに長田と帰る。彼は剣道部二年で唯一の同じ方面に帰る人間だ。ちなみに俺がこいつの本性を見抜いたのも帰りの時の話。
いやまあ、部長やってる長田は普通にカッコ良かったし、変わってるとは言えど根はそこまで悪い奴ではないと思う。
ああ、本当に何だろう。このいかにも高校生らしいフリーダムな時間は。
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需要があると判断したら続き書きます。もっとざまぁしろでも、もっとイチャつけでもご要望があればお教えください