第四話 悪役になる
「待っておくれ!」
!?
「誰だ!」
「わ、わしは西の魔王レーメウス。でも危害を加えようとかは考えておらん。じゃからそんなに警戒しないでほしい」
当たり前だが警戒は解かない。聖剣を構えたまま、【心眼】と【魔力感知】の発動に集中し、このじいさんが怪しい行動を起こせばすぐに対処できるように構えてる。
【心眼】で見たところ、じいさんは本当に魔王みたいで、嘘は言ってない。だからって簡単に信じたりはしないけどな。この【心眼】でも見抜けないような嘘をついている可能性もあれば、【心眼】のスキルがしっかり発動してるのかも分からない。
「で?用はなんだ?」
「す、すまない。少し話をしたいだけじゃ」
西の魔王が俺に話?ますます怪しいが、とりあえず先を促す。
「おぬしは地上に戻ってもやることが決まってないじゃろ?」
え?なに、この魔王他人の心が読めるの?怖いんだけど。
「まあそうだな…帝国大魔法学校に行くぐらいしか…」
「ふむ。ならわしと手を組まんか?なに、別に断ってくれてもいい」
何言ってんだ。俺は勇者で、どちらかと言えば正義陣営なんだぞ。そんな俺が魔王と手を組むとでも思っているのか?
「詳しく」
そう聞いた魔王は軽く咳払いをする。
「勇者のスパイとして帝国大魔法学校に通ってほしいのじゃ。内容は勇者に接触を図って、魔王討伐を辞退するように誘導すること。殺しても構わんが、おぬしは勇者と繋がりがあったじゃろ?」
その「勇者と繋がり」とは殺さなくてもいいよと言っているのか、誘導するくらい簡単だろと言っているのかどっちなんだ?それと少なくとも…
「…エドガルドとは仲良くやって行けないぞ?」
エドとは流石に今まで通り接するのはできそうにない。
エドの方も、実は生きてましたーなんて言って近づいても無理だろうしな。
「そこは大丈夫じゃ。何たって女の方が勇者になったからのう」
え?マジか。リアが今の勇者だったのか。さてはエド、リアに負けたな。
プププ…ドンマイ…(煽り)
「戦って恐怖を教えるのでも説得でも何でもいい。兎に角、わしとの争いが起きないようにしてくれれば文句はないんじゃ」
悪役になるのか…ちょっといいなとか思ってないぞ。メリット次第だな。
「俺にメリットの何がある?」
「おぬしが勇者なら暮らしは寮だった筈じゃ。でも今は無いじゃろ?」
まあ、帰る所は無いし、寮の中に置いていた家具やらは全部捨てられたかもな。気に入ってた物もあったんだけど…
「確かに俺は死んだことになってるだろうしなぁ」
「そこでわしが住める場所を授けようと思うのじゃ。大魔法学校に近くて良い所じゃぞ?」
「おお」
「おまけに作戦費用として十億ハルワを与える。これは趣味につぎ込んだり遊びに使っても全然良い。でも家の中に予め置いてある家具が壊れたら買わないといけないから使いすぎには気を付けるのじゃぞ?」
俺はあまりお金を使う方じゃないが持っていて損は無いだろう。ちなみに十億ハルワとは日本円でそのまま十億円だ。かなり大金ですね。まあ、勇者になるともっと沢山の国のお金を動かせるわけだが。
「なかなか良い提案だな…でもそこまでして勇者と戦いたくないのか?魔王なら簡単にやられたりはしないだろう?東の魔王は強かったみたいだし」
「はぁ…わしは残念ながら炎属性使いには弱いのじゃ。ナーディアがやられたからには必ず此方に来るじゃろうしの」
「ああ、リアは炎属性使いだったな」
「それとおぬしを敵に回したくないのもある。おぬしと戦ったら負けるじゃろうし…」
魔王の癖に意外と合理主義なんだな。いや、東が合理主義じゃなかっただけか。
あと、信用するかどうかは今後決めていこう。悪役楽しみとか思ってないぞ?いや本当に。これは俺が生きていくために必要な取引なんだ。
「なら手を組ませてもらう。よろしくな」
差し出した手を魔王も「こちらこそ」と言って握る。
あーあ悪役になっちゃった。まあ母さんも自分の気持ちを大切にって言ってたしな。…ちょっと意味が違うか?まあ、大丈夫だろ。
「そうじゃ、信頼の証にわしのスキルを見せよう」
そう言ってじいさんは懐から魔道具を取り出す。
「これは使った者のスキルを映し出す魔道具じゃ。スキルを見るための物じゃから技術や称号は出ないがの。ほれ」
特殊スキル 【氷属性特化】【スキル鑑定】
スキル 【魔力操作lv10】【ステータスオープン】【氷属性魔法lv10】【転移魔法】【読心lv7】【呪術lv5】【結界lv6】【魔力感知lv9】
各スキルの効果~
【氷属性特化】
氷系魔法の威力が凄く増し、扱いも凄く上手くなる。氷属性以外の属性魔法が使えなくなる。
【スキル鑑定】
他人の持ってるスキルを見ることができる。
【魔力操作】
魔力の扱いが上手くなる。
【ステータスオープン】
自分のステータスを見ることが可能になる。
【氷属性魔法】
氷属性魔法を使える様になる。
【転移魔法】
一度行った事がある場所へ瞬時に移動できる。
【読心】
相手の心が読める様になる。
【呪術】
対象を呪う術が使える様になる。
【結界】
魔法、物理攻撃を防ぐ障壁を出現させる。
【魔力感知】
魔力の流れを感じ取ることができる。
これがじいさんのスキルか…。なんか俺が言えたことじゃないけど凄いな。
「見ての通りじゃ。すまないがこの【スキル鑑定】でおぬしのスキルは見せてもらっている。おぬしが強いと知っていたのもこれのせいじゃ。それと、これからやることが決まってないと分かったのは【読心】の効果じゃな」
はい、ほんとに心を読んでました。
「そうか。あ、俺のスキルを見たのはいいが、この【氷属性特化】ってなんだ?」
「よく聞いてくれた!」
勢い…。
「これは特殊スキルで、効果は【氷属性魔法強化】の上位版じゃ。攻撃は物凄く強いし、防御魔法はアイスウォールと唱えれば上級炎魔法以外の全ての魔法を防げる。若い頃は、特殊スキルを二つ持ってるだけで珍しいのに片方が【氷属性特化】なんてずるい、とよく言われたものじゃ。その頃は氷属性以外の属性魔法が使えなくなるなんてデメリットとも感じなかったのじゃがのう」
「氷属性以外の属性魔法が使えたら炎魔法も防げるということか?」
「そうなのじゃ。一応【結界】をlv6まで憶えたのじゃが、勇者レベルが使う炎魔法は防げないじゃろう」
魔王も意外と苦労してんだな。
「まだ他に聞きたいことはあるかの?」
「んー…そうだ。どうして魔王はあのタイミングで現れたんだ?」
「それはナーディアの生命反応が消えたので誰にやられたかを確認しに来たんじゃ。ナーディアが倒されると光る魔道具を持っていたからのぉ。そしたら勇者のおぬしを発見したのじゃ。じゃが勇者が持つ加護の力を感じれんし、仲間が一人もいないのでどうしたのかと考えて【読心】を使ったのじゃよ。そこで手を組む作戦を思いついて声を掛けたという訳じゃ。満足したかの?」
嘘はついてないか…。
「ああ満足した。もう聞きたいことは無い」
「それは良かった。じゃあそろそろおぬしの家に転移するかの」
「あれ?もう家があんの?」
「人間の監視に使わせてたものじゃからな」
じゃあ、元々は魔族が使ってたのか。別にどうでもいいけど。
そういえばどうやって家を手に入れたんだろう?やっぱり悪役らしく市民を脅したのかな…。
「さあ、わしが転移魔法を使うから目を瞑っておれ」
俺はすかさず目を閉じた。