第三話 スキル奪取
残酷な描写が出ます。
行動に移すと決めたのはいいものの、前に進むぐらいしかない。
幸い、監禁されてるとかではないようで、奥に続く道が一本ある。道の奥には広場のような場所があるようで、魔法か分からないが明るくなっている。
とりあえず何が起こるか分からないので聖剣(今はただの剣だが)を持って進む。
広場に出た。
こんなでかい魔方陣を見たのは初めてだなぁ。もしかして古代魔法か?転移系だと帰れるかもしれない。
広場の中央には直径10mぐらいの魔方陣が書いてある。魔方陣は予め書いて置くことで遠隔から魔法の発動や、自分の使えない魔法が使用できたりと色々便利なシロモノだ。特に古代魔法といい、強力だが使える人がいない魔法でも魔方陣にかかれば発動できたりするのもある。まあ、魔方陣を書く専用の道具があるのだが、古代魔法の発動による負荷に耐えられないために結局発動は不可能なんだけどな。でもこんなサイズの魔方陣を見ると古代魔法すらも発動できるんじゃないかと思えてくる。
「うお!」
魔方陣を調べようと近づいたその瞬間、魔方陣から光が溢れ出した。
俺はとっさに魔方陣から離れて聖剣を構える。すると溢れ出た光は形を変え、魔物になっていく。
あれは…召還魔法?…でも確か、召還魔法なら地面から生えてくるような出方したような…。
出てきたのは子牛サイズの真っ黒い犬。目は赤く、口からは炎の息を吐いている。うん、かっこいい。
これまで色んな魔物について勉強してきたがこんな魔物は知らない。幻獣のヘルハウンドみたいだからこれからそう呼ぼう。
炎を吐くモンスターは男のロマンなのでちょっと見惚れてたら、ヘルハウンドに気付かれてしまった。
するとなんてことでしょう、まるで餌を見つけたと言わんばかりに舌なめずりをし、いきなり猛スピードで突進してくるではないか。
(っていうか滅茶苦茶はえぇ!!!)
「ごはっ!?」
すかさず聖剣でいなして衝撃を少なくしようとするが、6mぐらい跳ばされた。
(いやいやいや。召還魔法でしょ?あんな強い魔物なんか生み出せたっけ?)
俺が知ってる召還魔法は最大でも、強いのは高さ3m有るか無いかのドラゴンまでしか召還できない。しかも過去にいた、召還魔法使いの勇者でだ。それと召還魔法の良いところはその数で魔物単体の強さじゃない。なので、そのドラゴン一匹なら俺でも瞬殺できる。
只者じゃない勇者で3mサイズのドラゴンなのだから、ヘルハウンドを召還した者は人間じゃないのか?やっぱり俺を助けたのは魔王? あとなんで態々助けたのに殺すような真似をするんだ? 疑問が多すぎてやばい。
ヘルハウンドはいけると思ったのか再び突進してくる。
だが流石に俺も同じ攻撃を二度もくらってやる訳にはいかないので、【身体強化】を発動する。
「おらぁ!」
今度はしっかりいなすことに成功した。
でも【身体強化】は魔力(体力)を使って発動してるため、いずれ効果が切れる。魔力は人間の場合、体力のようなもので、この魔力を使ってスキル、魔法が発動できるのだ。勿論俺の持っている魔力の量は常人とかけ離れているがそれでも無くなるときは無くなる。そうなったら終わりだ。きっとヘルハウンドは魔力が回復するのを待ってくれない。
何かいい打開策はないかと考えていたとき、急にヘルハウンドから感じる魔力の流れが変わった。
嫌な予感はするが、またヘルハウンドが突進してきたので聖剣を構え、身を引き締める。
(っ!? なんでスピード上がってんだよ!)
明らかに突進の早さが先ほどまでより上がっている。
「ぐっ!」
何とか凌げたが、かなりまずい状況だ。俺は【身体強化】以外に自身を防げるスキルは持っていない。魔法も攻撃系だけだ。勇者は殆ど戦闘時には仲間がいるため、防御系魔法の使用は専門の人がやる。ついでに攻撃魔法で突進の威力を打ち消そうとするのも無理。理由は俺は魔法攻撃特化や魔法剣士みたいなタイプではなく、物理攻撃特化なので使える魔法が弱いからだ。
あのスキルみたいなのが発動する前に何か手を打つべきだったな…
………ん? …スキル?
え!? あったじゃん打開策! しかも最高の!
完全に【スキル奪取】の存在忘れてた!
あのとき感じた魔力の流れは絶対にスキルを発動したことによるものだ! そしてその後の突進は恐らく、身体強化か何かを発動したことで早くなったんだろう。
よし、そうとなったら【スキル奪取】を使うまでだ。
スキルを奪うには【スキル奪取】を一定時間以上使い続ける必要があるので、俺はその一定時間ヘルハウンドの攻撃を裁くことに集中すればいいだけ。この一定時間がどれだけ長いかにもよるけど。
【スキル奪取】を発動した。どうやらヘルハウンド自身も何か感じたようでビクッと震え、此方を強く睨みだす。少し時間が経ち、俺が【スキル奪取】を止めないと理解したようで、ついに突進してきた。
「来るか?…」
が、ヘルハウンドは途中で徐々にスピードを落としていき、俺に辿り着く前に倒れ、溶けてしまった。
(よっしゃ!これは多分成功だよな?)
もしかしたら【スキル奪取】には、対象者の体力を奪う効果も付いているのかもしれない。だとするとかなり強いな。そこまで長い時間、発動し続けなくていいし。
成功したっぽいので一番気になったステータスを見てみる。
アントガー・ウォルコット 男 15歳
特殊スキル 【スキル奪取】【獄炎の息】new
スキル 【魔力操作lv10】【ステータスオープン】【身体強化lv10】【見切り】【魔力感知lv10】【暗視】new【高速移動】new【隠密】new
所持技術 【剣術・極】【回避術・極】【近接格闘術・極】
称号 勇者の素質持ち・剣術を極めし者・回避術を極めし者
各newスキルの効果~
【獄炎の息】
あらゆる物を溶かす高温の炎を最大で1m、口から吐くことができる。
【暗視】
暗い場所でも周りが見える。
【高速移動】
走る速度が速くなる。(調節可能)
【隠密】
気配を感じ取られにくくなることができる。
…うん、増えたね。(振るえ声)
まさかヘルハウンドがこんなにスキルを持っていたなんて驚いた。
それとどうやら突進の威力が変わったのは【身体強化】じゃなく、【高速移動】の効果だったみたい。お陰でスキルが被ることはなく、奪取できた。
あと、もし此処の広場が明るくなかったら俺はヘルハウンドに負けていただろう。なんせ向こうは【暗視】を持っていたのだから。
そんなことを考え、一息ついているとまた魔方陣が光を発した。
(まさか、まだ出て来るのか!?)
光が先ほどと同じように形を形成していく。
次に出てきたのは半分がトカゲ、もう半分は鶏の魔物。いかにも強そうなオーラを放っている。
(キメラか?なんかコカトリスみたいな魔物だな…やるしかないか…)
1時間ぐらい経過した。
俺はコカトリスを倒した後に現れた頭が沢山ある、ヒドラのような魔物からもスキルを奪い、すっかりへとへとになっていた。
この魔方陣から出る魔物は見たこと無いものばかりで皆スキルを持っているみたいだ。
今のステータスを見せるとこんな感じ。
アントガー・ウォルコット 男 15歳
特殊スキル 【スキル奪取】【獄炎の息】【邪眼(石化)】new【自己再生】new【毒魔法強化】new
スキル 【魔力操作lv10】【ステータスオープン】【身体強化lv10】【見切り】【魔力感知lv10】【暗視】【高速移動】【隠密】【状態異常耐性】new【毒魔法lv10】new【威圧lv10】new【心眼】new
所持技術 【剣術・極】【回避術・極】【近接格闘術・極】
称号 勇者の素質持ち・剣術を極めし者・回避術を極めし者
各newスキルの効果~
【邪眼(石化)】
発動中、狙って見た物や人を石化する。一部分の石化も可能。
【自己再生】
自身についた傷をすぐ回復させる。欠損の回復は不可能。
【毒魔法強化】
毒系魔法の威力が増し、扱いが上手くなる。
【状態異常耐性】
毒や麻痺等の状態異常に掛からなくなる。
【毒魔法】
毒魔法を使えるようになる。
【威圧】
発動相手を恐れさせる。
【心眼】
相手の行動を読み取ったり、真実を見抜く力を発動したりすることができるようになる。
コカトリスから、【邪眼(石化)】【状態異常耐性】【毒魔法】、ヒドラからは【自己再生】【毒魔法強化】【威圧】を奪い取った。
ヒドラは珍しく、特殊スキルを二つ持っていた。特に【自己再生】はかなり強そう。
コカトリスから手に入れた【邪眼(石化)】はまあ、ちょっといいかも。
とりあえず疲れたので壁にもたれ掛けて休憩してたとき、魔方陣から光が出たので4回目の魔物が召還されるのかと思いきや、次の魔物になる筈だった光が広場全体を覆いだした。
(っ…眩しいな… これで終わりなのか?)
少し経って目を開けるとそこはさっきまでいた広場ではなく豪華に飾られている広い部屋で、目の前の大きな椅子に女が此方を見ながら座っていた。
いかにも悪役っぽいな…
「やあ、初めまして。あたしは東の魔王ナーディア。」
「…………」
「ああ、分かるよ。驚いて喋れないんだね。」
いや、そんなことない
「ねえねえ帰して貰えるとか思った?確かに外に出れる転移の魔方陣は有るけど坊やは帰さないわよ?だって私が坊やを洗脳して飼ってあげるんだからー!あはははははは!」
うわぁ、こりゃまた典型的な悪役だな…
「冥土の土産にあたしが坊やを洗脳する理由を教えてあげる。」
死亡フラグかな?
「今回は3人も勇者の素質持ちがいるでしょ?だからあたしも危険だと思って早めに一人殺そうとしたの。」
「あたしは強いから勇者が雑魚を沢山連れて来ても大丈夫なんだけど、追加で勇者の素質持ちが二人も来るとなるとちょっとめんどくさいんだよね。」
「だから今日、勇者達がぞろぞろ来たから坊やが戦ったあの子たちを送ろうとしたんだけど、その前に坊やを崖から落とした人が出たんだよ。そのとき都合が良いと思い、坊やを助けて洗脳する作戦に変更したってところかな。勇者が一人減るわ、強いのが仲間になるわとメリットだらけの作戦を思い付くなんてあたし天才!」
はい、馬鹿ですね。 あと、あれから日付変わってなかったのか。
「それにしても坊や強いわね。あの子たちはあたしが昔捕まえた最後のスキル持ち魔物なのよ?強さを確認するために送り込んだだけなのに皆倒しちゃったじゃない。まあ坊やの強さが分かったからいいのだけどー。あは☆」
あの魔物は昔の魔物だったのか。どうりで知らない訳だ。 にしても「あは☆」て…
「さあ話も終わったしそろそろ洗脳しちゃおーっと。 …………あれ?」
「どうかしました?」
「いや、洗脳が発動しないんだよ。」
「あっ、それは俺が奪いましたからね。」
「え?」
「だから俺が奪ったって。ほら。」
そう言って奪った【洗脳支配】を魔王に向けて発動する。
「う…ぐ……あ………………………………」
おー、効果凄いな。スキルを奪ったタイミングで倒れなかったから強いのかと思っていたが、洗脳には耐えれないのか…。あと洗脳されると目が赤くなる仕様ってかっこいい。
「転移魔方陣が何処にあるか教えろ。」
「…………(指を差す)」
「そうか…よし。自害しろ。」
洗脳されると自殺の命令も聞くのか、すぐに魔王は自らの腹に持っていた剣を突き刺し、溶けていった。血は出ない。そういえば魔王に【スキル奪取】を発動したとき、違和感には気付いたようだが俺のせいだとは思わなかったみたいだな。やっぱり馬鹿か。
俺は聖剣を拾うと転移魔方陣に近づいた。
(何処に転移するか分からないから魔王から奪った【転移魔法】で戻るとするか。)
そう考え、【転移魔法】を使おうとしたとき、後ろから誰かに声を掛けられた。
「待っておくれ!」
振り返るとそこには髭を生やしたおじいさんがいた。
魔王から奪ったスキルは次回投稿予定の設定集で載せます。
戦闘はかなりカットしましたので楽しみにしてた方にはすいません。