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9話

本日2話目

「私は決めたぞっ! 我が名は、メチヤ・ド・エムネン。エムネン伯爵家の当代である。

 エリー……君を我がエムネン家で雇おうじゃあないか。」

「えええええええええええっ!?」


 私は何が何だか分からずに、誰かに助けを求めたくなり従者の人を見る。


「メチヤ様が、こう仰っているのだ。後はお前が受けるか否かだ。」

「で、でも、急にそんなっ! 私は鞭で、こんな場所で、伯爵様を叩いちゃって! あれ!? なんで私の名前を!?」


 既に私の事を知っていたような伯爵様。

 そんな伯爵様に鞭うった事が怖くて、まっすぐ見ることができない。代わりにフォローの声をかけてくれた従者の人に向けて言葉を返す。


「君は伯爵様の要望に応えて鞭打った。そして如何なる時も苦難に耐える事を誉とするエムネン家の伯爵様が声を漏らしてしまうほどに唸らせた。

 エリー。君は攻めの才能を見せたのだ。私もメチヤ様が声を上げるところなどを目にしたことはないというのに……その才。誇っていいぞ。」

「えぇっ!? あ、あの、すみません! その、私、田舎の生まれでして、メチヤ様、貴族様がどれほど偉い方なのかも知らなくて!」

「そんな事は、これから知ればいいだけの事……それで、お前はどうしたいのだ?」


 従者の人の強い目が私を貫いた。

 その視線で私は気づく。


 これはチャンスなのだ。


 伯爵様に雇われれば高い給金を頂いてダンジョンに潜る事が出来るかもしれない。

 私のスキルは大したことはないから、もらえる給金も少ないかもしれないけれど、それでもダンジョンに潜るチャンスは私が入れるパーティを探すよりもずっとある。

 なによりもこの人達は私のムチを才能と認めてくれている。


 私は震えていた手を抑え、焦る心を押さえつけ、一度息を飲んでから口を開く。


「……私は……ダンジョンに行きたいです。

 雇って頂けたら……ダンジョンに行けますか?」


 従者の人は片方だけ口角をゆっくりと上げ、そして小さく笑った。


「当然だろう? 君は今日、なんの学校を卒業するのだ?」


 私はその言葉を聞き、伯爵様に向き直る。


「お願いします! 私を雇ってください!」


 しっかりと伯爵様を見て、そう告げた。


「うむ。エリーよ。君のこれからに期待しているぞ。」


 メチヤ・ド・エムネン伯爵は、満足そうに紳士の微笑を見せてくれたのだった。



 私はそのまま従者のルークさんに連れ回される形で免許の取得手続きを学校で行うことになった。

 なにやら貴族のお抱えになった者の免許は、一般の免許とは少しだけ違う形になるとの事で、大きな違いは、ダンジョンで獲得した拾得物の買取りがこれまでの買取所では不可能になるらしい。 

 様々な説明を聞き逃さないようにしっかりと聞き、私は学校を卒業し免許を得た。


 メチヤ様はといえば私が契約の了承をしてすぐに屋敷に戻ったそうで、私は無事免許取得後ルークさんと一緒に寮から荷物を引き上げを行う事になり、ルークさんの指示に従って馬車に積み込みをする。

 こうなる前は、まだ退寮までは猶予があったので新居を探しすらいなかったのだけれど、どうやらメチア様には探索者用の屋敷があるらしく、そこに住みこむ事になるのだとか。


 私はお抱え探索者になったとはいえ、ムチを振るう事くらいしかできない身の上。

 探索者だけれども貴族様の使用人のような面もあるだろうから余り住む所には期待しない方が良いのだろうな。

 できれば寮のように荷物を置いたら足を折らないと眠り難いような部屋でなければいいのだけれど……


 そうボンヤリと考えていた私の期待は裏切られた。


「お庭つき……」


 いい方向で。


 芝生と花壇のある

 豪邸だった。


「こ、ここは、メチヤ様のお屋敷ですかっ!? 私てっきり探索者用の寮に向かうのだとばかり!」

「ここが寮だが。」

「ここが寮だがですか!?」


 私の慌てぶりに小さく笑いながらルークさんが説明をしてくれたのだけれど、メチヤ様はこの街で3本の指に入る貴族らしい。


 探索者専門の寮だからメイドはいないらしいけれど食堂はあり、食事は決まった時間内であればいつでも食べていいらしい。

 食堂で料理するのは専門の料理人で、風呂掃除や洗濯なんかも掃除夫がしてくれるとの事。


 自分の身の周りの事を自分でしなくていいだなんて信じられない。

 そんな環境を用意してくれる貴族様が私を雇ってくれるだなんて奇跡だ。


 それもこれも、このキャットオブナインテイルのおかげ。

 私は何があっても、このキャットオブナインテイルを大事にしようと胸に誓い、空に掲げた。


「ほらいくぞ。」

「あ、は、は、は、はい!」


 入ってまたもビックリ。

 玄関を開けると広間。その広間には座り心地の良さそうなソファーが並び、端にはカウンター。カウンターにはお酒の瓶だろう物がずらりと並んでいた。

 ガラスのグラスなどもキラキラと光を反射していて、私はその眩しさに目が眩んだ。


「ふむ……何人かは居るようだが……ほぼ出払っているな。」


 ルークさんが見ている物を見に行くと、名札のような物が20枚程並んでいて、大半が赤色の文字になっている。

 これは寮でも見たことがある。表裏で色違いの名札で、外出かそうでないかが一目でわかるヤツだ。


「紹介は、また別になるだろうが、ここに居るのは皆、君の先輩になる。大抵は気のいい人間が多いから分からない事はその子達に聞いてくれ……いや、アイツに当たると面倒だな……よし、とりあえず部屋に案内しよう。」

「は、はいっ!」


 少し不穏な言葉が聞こえた気がしたけれど、ルークさんがなんとなく良いようにしてくれる気がしたので、ただ黙ってついていく。そして与えられる部屋に案内され驚愕した。


「広い……」

「いや狭いだろう。今日からこの部屋が君の部屋だ。好きに使うといい。」


 ルークさんは狭いと言っているけれど正直田舎の私の部屋よりも随分広い。

 ベッドがあり、棚があり、机に椅子も、机の上には夜を見越してのランタンがあり、窓には目隠しのカーテンまである。


「まるでお姫様の部屋だぁ……」

「ぷっ!」


 私の感激ぶりにルークさんが噴き出し、口元を押さえた。

 でもその噴き出した事すら気にならない程に、私は嬉しくてたまらなかった。


「まぁ、今日は特に急ぐ事もないだろう。色々あって疲れているだろうから、まずは休むと良い。」

「有難うございます!」


 ルークさんがそう言って、私を部屋に残してドアを締めようとしたその時。


「ルークー! エリーはいるかー!」


 大きな呼び声が屋敷に響いた。

 聞き覚えのある声。

 この屋敷にきて私が聞き覚えのある声なんて一人しかいない。


 メチヤ様だ。


 ルークさんに目を向けると、首を捻りつつ、とりあえずついてきなさいと言わんばかりに顔を動かした。

 後に続きながら、少しずつ不安が胸に広がる。


 一体なんだろう? 

 ひょっとして、やっぱり気が変わったとかじゃあないだろうか?


 ルークさんに聞いてみても、まるで心当たりがないと首を横に振る。

 そして私が玄関の広場に辿りついて目にしたものは


「よし! ダンジョンにいこう!」


 探検服に袖を通してリュックを担ぎ、ニコニコと微笑むメチヤ様の姿だった。


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