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「わぁ! ついたね!」

「……おう。まだ中継拠点だけどな……はぁ。」


 中間拠点の入口の前でスコットさんの馬車が止まると同時にトミーが溜め息をつく。

 なんだかひどく疲れているような、うんざりしているような、そんな溜め息な気がした。

 確かに馬車にただ乗っているのは腰も気分も疲れるから、なんとなく気持ちがわかる。

 何はともあれ私たちの馬車での移動はこれで終わり。スコットさんはここでまたお客さんを拾って村へと戻るからお別れだ。


「スコットさん有難うございました。」

「はっはっは! なぁにいいって事よ。今日は餞別さ。」

「ほら、トミーもお礼言わないと!」

「……ありがとな。」

「おうトミー。あっ、次からは金取るからな? これまでの分の色を付けれるくらいにゃあ、がっぽり稼いで来いよ! あと、トミー。ちゃんとエリーを見といてやれよ? まぁ……それはわざわざ言わなくても大丈夫だろうけどなっ! うわっはっはっは!」

「うるせぇよ。」

「よぉし、なら行け。俺ぁ馬休ませてからもう一仕事だ。」


 トミーがそっぽ向いたので、もう一度スコットさんに頭を下げる。


「おいエリー行くぞ。さっさと拠点入る。」

「ま、待ってよトミー。」


 乗合馬車から降りた人達は、もうすでに衛兵さんが検問している入場列に並んでいた。トミーもすぐに列に並んだので私も後に続く。

 キョロキョロと見回していると、そんなに時間もかからずにトミーの順番が回ってきた。


「よし、次。用件は?」

「リスヒトまでだ。ダンジョンの学校に行く。」

「ダンジョンの学校な。ちゃんと許可書は持ってるのか?」

「あぁ。」


 トミーがスキルを教えてもらった時に渡された『格闘術』と書かれ裏に判子の押された紙を胸ポケットから取り出して門番さんに渡した。

 それを見て、私もきちんと紙を持ってきているか確認したい気持ちになりスカートのポケットを探る。


 ……あれ? ……無い?


「へぇ。格闘術か、いいな。俺は棒術なんだよ。」

「棒術? 初めて聞いた。」

「そうなんだよな……槍でもなく棒術。一応槍も使えるんだが一番うまく使えるのが訓練用の棒っきれなんだよ。ははっ、なんか惜しいだろ? でもまぁそのおかげで、俺はこうして普通の人と話す仕事が多いんだ。もし誰か暴れても怪我くらいで取り押さえる事が出来るからな。」

「なるほどな。」


 逆のポケットも探す。あれ? やっぱり無い。


「お前も格闘術ならこういう系の仕事も向いてるのは間違いない。まぁダンジョンの学校に行くって言うヤツに言うセリフじゃあないが、もし向こうでの暮らしが嫌になったら俺を訪ねてこいよ。上に話しくらいは通してやるからさ。」

「気遣いありがとよ……でも俺は英雄になる。」


 ポカンとした顔をした門兵さん。

 だけれどすぐに破顔して笑い始める。


「く、くくくっ! くははっ!」

「なにかおかしいか?」

「いや、スマン。くくっ! いや、俺にもあったなと思ってさ。少し懐かしくなってな。まぁ頑張れよ。」


 許可書が返ってくるとトミーは乱暴に受け取った。


「くく……旅券を取る時にソレを見せるのを忘れるなよ。ソレを見せれば1回きりだが移動は無料になるからな。じゃあ行って来いよ。英雄さん。」

「フン。」


 あれー!? やっぱり無い! どこにしまったっけ!?

 あ、そうだっ! 大事な物だからスカートの中の隠しポケットに入れたんだったっ!


「次。……ぉう。」

「……ん? って、エリーっ! おまえ! おいっ! 何、ふともも出してんだよ!」

「えっ? あ、あっ!? きゃあ!」


 スカートの中の隠しポケットから取り出そうとしたせいで、かなり捲り上げてしまっていた。慌てて直す。恥ずかしい。


「ご、ご、ごめんなさい。え、っと、はい! えっと! ダンジョンの学校です!」

「ん、おう? あ、おう…………あぁ。オホン! ダンジョンの学校な。うん。さっきの坊主と一緒ならリスヒトへ行くのかな?」

「あ、はい! リスヒトのダンジョンの学校に向かいます。これ、許可書です!」

「はいはい…………ん? ……ムチ?」


 門兵のお兄さんの顔が許可書と私の顔を何度も往復する。


「ムチ?」


 4回ほど往復した後、最後に首を傾げた。

 私のスキルを見た人は大体同じような反応をするから、もう慣れっ子だ。


「はい! 頑張りますっ!」

「……ん。そっか…………まぁ、頑張ってな。うん。」


 許可書を返してくれたので受け取る。

 だけれども、なぜか門兵さんは許可書を摘まんでいる指を離してくれなかった。

 なぜ離してくれないのか疑問に思え許可書を受け取ったまま首を傾げる。


「俺の名前はジョイスって言うんだ。今年19になる。実はな、リスヒトには食事が安くて美味い、隠れ家的ないい店があるんだよ。」

「そうなんですか?」

「あぁ、そこのお勧めはな果物を沢山使った――いったっ!」


 トミーが門兵さんの手に二本指で手刀を打っていた。

 痛さで離したのだろう、許可書が私の手に戻ってくる。


「あぁ悪い。虫がいたもんでな。」

「ちょっとトミー! 初対面の人だよ!? それに兵隊さんだよ! 虫がいたからって、そんな事しちゃダメじゃない!」

「加減はしたさ。虫に血を吸われるよりいいだろう? それに立派な兵隊さんは、こんなことで気を悪くしたりはしないさ。ほら、それより行くぞエリー。うまく行きゃあ今日中にリスヒトに行けるかもしれないからな。急げ。」


 すたすたと歩き出すトミー。


「え? あ、ちょ、ちょっとまってよトミー。」

「いってぇ……」

「あの、幼馴染がすみませんでした。リスヒトで安くて美味しそうなお店、頑張って探してみますね! 有難うございました! もう……待ってったらトミー!」  


 次の旅券を取る場所でも、また許可書を返してもらう時にトミーが話していた人の手を二本指で手刀を打ったので謝る事になった。折角学校の場所やその周辺のお勧めスポットなんかを教えてくれていたのになぁ。

 でもトミーが急いでくれたおかげで、なんとかこの日の内にリスヒトに向かう事が出来そう。


 『門』へ向かうと、移動する人はそんなにいなかった。

 押し合って苦しかった思い出のある瞬間移動だったけれど、今回は全然余裕な感じで移動できそうだ。


「じゃあ出発しまーす! 動かないでくださいねー! 動いて事故にあっても私達に一切の責任はありませんよー。」


 そうだった。こんな感じ。こんな感じで、ちょっと怖いんだった。

 魔法陣から離れたローブの人がそう叫ぶと、一瞬だけ魔法陣が光る。


「到着でーす!」


 もう到着していた。

 この一瞬で起こる事故って……一体どんな事故なんだろう?

 私は、ふと生まれた疑問に頭を捻ってしまう。


「よし。エリー。とりあえず学校に向かうぞ。」

「あ、うん!」


 こうして15歳になった私達は再びリスヒトへと入った。


 ダンジョンのある都市。リスヒト。


「お金持ちになるぞー!」


 夢と希望で胸がいっぱいになった私は、気が付けば右手を掲げて大きな声で宣言していた。

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