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22話


 ボブが貴族お抱え探索者用のゲートを通る。

 学生の頃はもっと貧相な別の入り口から入っていたが、ほんの少し入場する距離がずれただけにも関わらず見慣れたはずの風景がこれまでとは、まるで違うように見えた。

 胸に感慨のような物を感じ、少し立ち止まって全体をゆっくりと見る。


「むう? ……あれはトミー……か?」


 人の合間にチラリと見知った人物の姿を見かけたような気がして、つい言葉が漏れた。


「……知り合いか?」


 隣から聞こえる芯のある屈強そうな男の声。

 無骨な声だが、声質から感じ取れる年齢はボブとそう変わらないように聞こえる。


「うむ……学生の時によく組んでいたやつ……だ。」

「そうか……挨拶でもしてくると良い。」

「むう……いいのか? あいつはエスデス家に入ったと聞いているのだ……が。」

「かまわん。俺は保存食を買ってくる……終わったら来い。」


 シコルスキー家に入ったボブの先輩となった探索者はそう言葉を残し、一人ドーム内の売店へと歩み出す。

 ボブはシコルスキー、エスデス、エムネンの家は三つ巴と言える対立関係にあると思っており、これまでのように話ができないかもしれないと考えていたが先輩の許可が出たのであれば問題は無いのだろう。

 軽く先輩の背中に目礼をしてからトミーの見えた方へと足を向ける。


 だが近づいても、声をかけるのははばかられた。

 トミーは声をかけるのをためらう程に気迫の籠った目をしていたのだ。


 漏れ出る迫力にダンジョンの入り口に向けて歩みを進めるトミーの邪魔をしてはいけない。そう感じた。足を止めた。そして、ただ前を見て入口へと進むトミーを見送る。

 トミーの姿はすぐにダンジョンへと消えていった。


「……単身だと? ……なにかあった……か。」

「いい気迫の持ち主だな。」


 いつの間にか先輩が隣に戻ってきていた。


「ああいう手合いは、強者に育つことが多い。」

「むぅ……そう……か。」

「だが……早く死ぬヤツも多いがな。」


 そういった先輩の顔を見れば、ダンジョンの入り口に目を向けていた。

 見えなくなったトミーの背中を見ているような、そうではない別の誰かの背中を見ているような、そんな目だった。


「お前は生き残れ。」


 そう言って保存食が入っているであろう革袋を押し付けてくる先輩。


「うむ……俺は死な……ん」

「これからしばらくの間は、お前が追いかけるべき背中を見せてやろう……強くなれ。」


 シコルスキー家は単独での活動を推奨している。

 故にシコルスキー家と契約した探索者は、単独での武功により成果を独り占めすることができ多大な栄誉と金を得る者が多い。

 だが、その反面、命を落とす者もまた多いのだった。


「いくぞ。」

「うむ。」


 シコルスキー家の紋章が刻まれた槍を一度握り直し、そして歩き出した先輩の後を追うのだった。


 ――その男たちの背中を屋台で軽食を食べながら見送った目があった。


「ひゅう。アイツラ気張ってんなぁ。」

「お? どしたジャック。」

「いえね、よく組んでたヤツラが、やる気満々も満々で今しがたダンジョンに入ってったもんで。」

「はっ。最初からそんな気張ってなんていたら、あっという間に破裂しちまうよ。」


 簡易なテーブルで相席していた女が鼻を鳴らしながら答え、ジャックもまたそれに完全に同意と頷く。


「ジャック。アンタは見込みがありそうだからね……アタシと組んだからには分かってんだろうね?」

「あぁ。俺もミデル姉さんの考えには賛成だよ。」


 ニヤっと笑うジャック。

 その顔を見て身を少し屈めて顔を寄せ、耳打ちするように口を開くミデル。


「楽して潜って?」

「楽して稼ぐ。」


 ジャックの返答に満足したのか片方の口角を上げる。


「よーし。それじゃあある程度先に潜ったやつらが敵を片付けて安全に進めるようになるまではダラダラするよー。」

「うぃっす。」


 木皿の麺をズルズルと音を立てて啜り始めるミデル。

 だけれどその目もまた情報を少しでも集めようとしているのか口同様にせわしなく動いていた。


「お?」


 唐突にミデルの目が留まり、その動きにつられてジャックは留まったであろう目線の先に目を向ける。


「なんだぁ? あの金の匂いがプンプンしてくるような恰好は。」

「あ~……ありゃあクリスか。」


 ギラギラとした装備を纏い、自分よりも年上だろう屈強そうな探索者を引き連れたクリスが口を真一文字に結んだままゲートから入ってくるのが見えた。

 まるで他の探索者達に興味などなさそうに貴族然とした雰囲気でずいずいと一直線にダンジョンへと向かってゆく。


 それをみてミデルの口と目が大きく動いた。


「ジャック! ちょうどいい! アレの後につけば絶対楽だよ! さぁ、行くよ!」

「まじかー。って、待ってよ姉さん。」


 食べさしの麺をいつの間にかさらい空にした皿だけを残して動き出したミデルの後を、自分がつついていた麺を口に慌てて流し込むが、名残惜しそうに残った麺に別れをつげ、追いかけるジャックだった。


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