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16話

「おぉっ! 蛇がたぎっておるっ! ビクンビクンと一層激しく震えておるわっ! エリー! これはコヤツはもうきそうなのだな!」

「はい。もう限界ギリギリ。かないように堪えてるんです。」


 メチヤは蛇の頭をしっかりと握り、パンパンに膨らみながら激しくビクンビクンと脈打つ胴体部分の滾りを感じながら興奮を覚えたような声を上げた。だが、その様子をエリーは、どこか座ったような冷淡さを感じさせる目で見下しながら淡々と答えまがら、ムチを掴んで中空でパシンと鳴らす。


「おぉ……わかる。わかるぞぉ……とどめ、とどめの一打ちがくるのだな……」


 パンパンに膨らんだ蛇を握り、荒い息を漏らしながら寝そべっているメチヤが興奮を隠さない口調で呟いた。


「ふふっ……ええ、そうです。」

 

 鞭を振り、ヒュンと風を切って答えるエリー。


「よぅし! エリー! さぁかせてくれぇ!」


 ギュっと蛇の頭を右手で握り、首の力でブリッジしながらパンパンに張った蛇の胴を見せつけるようにエリーに差しだすメチヤ。

 エリーはその言葉に従いムチを蛇へと振るう。



 ――かに思えた。



「ど、どうしたんじゃ? エリー? はよう! はようムチを!」


 いつまで経っても訪れないムチの刺激に、たまらず口を開くメチヤ。


「違う……」


 エリーは座ったままの目でじっと震える蛇を眺め、そう呟いた。


「その手を離して。」


 エリーの目の先が、蛇の頭を押さえているメチヤの右手に向いていた。


「じゃが――」

「それじゃあ満足のいく破裂ができないと……蛇が言ってるの。離して。早く。」


 目が座ったまま淡々とそう言ったエリーに対してメチヤは特別に感じる物があった。

 年端もいかない小娘に命令される事など、これまでの人生において全くなかったこと。自分よりも弱く幼い娘から命令された事で、いかんとも形容しがたい思いが心に沸き起こる。


 不思議なのはその命令に対して嫌悪感がまるで無かったということ。

 いや、むしろどこかで機微なよろこび……いや、よろこびに似た感覚を覚えていた。


 エリーの命令の通り手を離せば、すぐにでも蛇は噛みついたり毒液をまき散らすことだろう。あぁ、防御のスキルがあるとはいえ、普通であれば、なんというひどい命令なのだろうか。あまりに無慈悲な命令に頬を紅潮させながら、そっと蛇の頭を握り締めていた右手から力を抜いていく。


 蛇は強く掴まれていた首根っこを解放された事により、胴にあった膨らみが一気に頭にも駆け上り始め、蛇の頭が胴以上の大きさに膨れ上がる。あまりに一気に膨れ上がった事により、蛇は一本の棒のようになり、寝そべりながら胴体を掴んでいるメチヤの手を支点として天に向けて力強くむくむくと起こり立ったよう。


 その蛇とは思えない蛇の勃起を見て、ようやくエリーは満足そうに口の端を上げた。


「苦しかったね……もうかせてあげるから。」


 温かな慈愛にも満ちた目で、エリーは微笑む。

 そして動き出した。


 メチヤは一瞬だけエリーの表情に目を奪われたが、その動き出しに正気を取り戻した。そしてムチの達する前にルークに向けて叫び声を上げる。


「ルークぅっ!」

「はっ!」


 叫びながら向き直ると、欲する物を察していたのかルークが広口の薬瓶をすぐに寝ているメチヤの空いた手元目がけて投げた。

 メチヤがルークの投げた薬瓶を受け止めると同時に、エリーが振るったムチは蛇首根っこを鞭打った。

 

 蛇を鞭打った音が響き渡る。


 蛇は一瞬だけ震え、止まる。

 そしてパンパンに膨らんだまま、メチヤに握られている部分を根本にして棒のような直線のまま、最後の力を振り絞るようにグワっと、その頭をエリーに向けた。


「えっ?」


 どびゅるるるっ! ビュル! ビュルル!


 火山が爆発せんがごとく、大量の毒液を放ち始める蛇。

 最後の最後の力で一矢を報いんとエリーに向けて毒液を放ったのだ。


「くぅっ! っておる! っておるぞぉ! おぉおっ!」


 だが、その毒液は間一髪、蛇の口に薬瓶を被せたメチヤの活躍により全てが薬瓶へと収まっていた。


 びゅるっ! びゅるるるっ! びゅっびゅっ!


「おぉ出る出る。まだ出るわ。よぉ出るのぉ! ははははっ!」


 300mlは入りそうな薬瓶に毒液は収まりきらず、蛇の痙攣の振動で、ビチャっビチャッと地面に毒液が漏れ落ちる。

 そして蛇は毒液の放出の勢いに呼応するように急激に干上がるように萎んでゆく。


 メチヤはどんどん萎んでいく蛇をきちんと拘束し直し、零れた分を補てんするように薬瓶を地面に置き、毒液が零れ落ちないように、しっかりと最後まで蛇から毒液を採取する。


 その一連の様子を見て、エリーはようやくぐるぐる回っていた頭の中が落ち着きを取り戻し始め、自分が誰にどんな口を聞き、そしてその結果どうなりそうだったのかをゆっくりと理解し始めるのだった。



--*--*--



 エスデス家を出てエリーを探しているが見当たらない。


 エリーは今日、エムネン家に行った。

 エムネン家を訪ねるのが最も手っ取り早いが、俺はエスデス家に加わったから対立関係にあるエムネン家の門を叩く事など出来るはずもない。


 おおよそエリーにも小さくとも部屋が与えられる事になるだろうから足りない物を買ったりなどで店を回るんじゃないかと考えて街中を探していたがまったく見当たらない。

 時々見かける同期に声をかけてはエリーを見ていないかを聞いたりしたが有益な情報は一切無かった。


「くそっ!」


 自分の拳を手の平で受ける。

 僅かに走る痛みに思っていたよりも力が入っていたことを知り、少しだけ冷静さが戻ってくる。


 冷静になった事で、水飲み場が目につきガントレットと手袋を外して水を掬って顔にぶつける。

 地下水だろう水は冷たく、だった頭を冷ますのには十分だった。

 もういちど両手で水を掬い顔にぶつけ、そのまま両手で顔を擦りつけて雑念の全てを捨て去る。次に冷たい水で喉を潤して余計な事を考えてしまう頭の内側からも雑念を払う。


「ふぅ。」


 口元を手で拭い、服の端々で手の水や顔の水を拭いとり、一息つく。


 冷静さを取り戻した事で改めて考える。


 現状でエムネン家に入ったエリーは、すぐにソレアの言うように探索者の慰み者になるかと言うと、そうではないはずだ。

 エムネン家の意図はどうであれ、探索者同士が行動を共にし『こいつは探索には役に立たない』と理解する必要がある。そうなるには共にダンジョンに潜るなどの行動をする必要があるはず。

 そして雇われている探索者の序列のような者が確実にあるから、その序列の上の者がエリーの利用方法を理解する必要があるはずだ。


 俺は直接訪ねる事が出来ない為、街中で偶然会うしか会う方法はないが、エリーは明日以降に誰かしらと共にダンジョンに入る可能性が高いのではないだろうか?

 であればダンジョンで待っていれば、むやみやたらに探すよりもずっとエリーに会える可能性は高い。


 そう結論が出た事で、一つ息を吐く。


「よし……とりあえずダンジョンに行ってみるか……」


 ソレアはエリーを探すことも許可してくれたのだから、明日もエリーを探すと伝えれば協力してくれるだろう。

 そう考えてダンジョンに下見に向かった俺が目にしたのは……ぐったりとどこか疲れたように歩く、泣きそうな顔をしたエリーと、そのエリーを間に挟むように歩く満足そうな顔をした男達の姿だった。



勃起とは「力強くむくむくと起こり立つこと」です。それ以外の意図では使っておりませぬ。


もし蛇の毒液採取が変な違う光景に見える人がいたら……きっと疲れているのですよ。

お風呂にでも入って、ゆっくり休むのが良いですよ。

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