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12話

本日2話目




「菌糸も十分に手に入ったようですし……メチヤ様。今日はこれで屋敷へ引き揚げますか?」

「ませんっ!」

「では……別の獲物の所まで向かいますか?」


 ルークさんの問いに答えていたメチヤ様がこちらに向き直る。

 なぜかその目は私の意見を求めているような気がしてならない。

 私は戸惑いながらも何かを言わなきゃいけないという気持ちに駆られ、キャットオブナインテイルを両手でギュっと握って答える。


「わ、私はまだまだ元気ですっ!」

「よし行こうっ!」

「かしこまりました。」


 まるで私が決めたような空気。そしてルークさんが先頭に立って歩きだす。

 メチヤ様はリュックに手をかけニコニコと直立のまま。一度、顔を動かして私にルークさんの後を追うよう促した。急いでルークさんの後を追うと、メチヤ様が私の後に続く。

 

 私も荷物持ちをしたことがあるけれど、メチヤ様は完全に荷物持ちに徹している。


 チラリと後ろを見ると、ニコリと笑顔が返ってくる。

 私も自分でわかる程に硬い笑顔を返してから前を向く。


 防御力の高さは実際に目にしたし、お年を召していても……身体に脂肪は少なかったし、筋肉質だった……きっと前に出て戦っても私よりもずっとずっと強いはず……


 ただ、正直、裸の印象が強すぎて、服を着ていても着ていない気がしてくる。


 頭の中に渦巻く裸のメチヤ様を消し去ろうと、強く目を閉じて頭を振る。


「あうっ」


 ルークさんの背中に頭をぶつけた。


「ごごご、ごめんなさい!」

「いや、いい。だが前には注意をするようにな……私も気をつけてはいるが、もし剣を振っていれば、それを止められない時もあるからな。」

「は、はい。すみません!」


 ここはダンジョンの中。しかも雇い主のメチヤ様と探索者の中でも偉い人っぽいルークさんと一緒。

 気を抜き過ぎにも程がある。


 私は心機一転、心を入れ替える為に、一度キャットオブナインテイルのボディを左手で引っ張り中空でピシリと音を鳴らす。

 鞭の音はなんだか気合が入る気がするのだ。


 一つ息を吐き、落ち着きを取り戻しながらチラリと後ろを見る。

 ニコニコとさっきよりも上機嫌そうなメチヤ様の姿。

 若干裸が思い浮かびそうになるけれど、すぐにキャットオブナインテイルのボディを左手で引っ張り中空でピシリと音を鳴らして、裸のメチヤ様を掻き消す。


「もう大丈夫です。あの、ルークさん。これからどこに向かうのかを教えてもらう事は出来ますか?」

「あぁ、それもそうだな。すまない。とりあえずは学校で規制されている先まで進もうと思う。」

「規制されている先……ということは、3層目に入るんですね……」


 無意識に自分の喉が鳴る。

 学校では2層目までしか許されていなかった。

 3層目からは茸の他に別のモンスターが混じり始め、危険度が跳ね上がると言われていて、学生は入らないよう注意喚起されていたからだ。

 その禁止区域に入るという事に胸が高鳴る。

 ただし胸の高鳴りには不安の方が随分と大きかった。


「なに、そんなに気張る事は無い。3層目に出てくるのはせいぜい蛇だよ。」

「蛇? ですか?」


「あぁ。しかも3層目の蛇は、まだ臆病な蛇が多い。」

「臆病……」


「あぁ、見逃さないように気はつけるが、この蛇の場合、列を組んだ3人目が危ない。」

「3人目……メチヤ様ですか?」


 今の隊列は、ルークさん、私、メチヤ様だ。

 3人目はメチヤ様。


「あぁ。そうなるね。3層目の蛇で気をつけるのは『毒』がある事。そしてこの蛇が『臆病』だということ。なぜ臆病だという事に気をつけるかわかるかい?」

「いえ……すみません。」

「謝る事は無い。これから覚えていけばいいんだ。臆病という事は隠れている事が多いということだ。つまり見つけにくいのだ。これはわかりやすいだろう?」

「はい。」


「では、なぜ3人目が危ないかというと、まず私が蛇に気づかずに通り過ぎるだろう? すると蛇も我々に気が付く。」

「はい。」

「そしてエリーが通り過ぎる頃に、蛇は『攻撃しなきゃ』と慌てる。」

「はい。」

「丁度3人目に蛇の攻撃が当たる。というわけだ。そしてその3人目は鉄壁のメチヤ様。蛇の牙も毒も効く事は無い。だから安心していい。」


「意外と蛇も……のんびりなんですね。ちょっと親近感がわきました。」

「親近感……か。ふふっ、その感想は初めて聞いたな。はっはっは!」


 こうして私は、同期の中で恐らく一番最初に3層目に入る事になった。

 今頃、トミーやボブさん達は、寮でお別れ会でもしてるのかなぁ……



--*--*--



「なぁエリーを見なかったか? なんかどこにも見当たらないんだ。」

「むう……見てない……な。」


 俺は学校に来た貴族の一人と契約を交わす事が出来た。


 明日引越をする事になったのだが、その引っ越し先では洗濯などする人を自分の給料で賄うのであれば置いてもいい言われたので、エリーが住む所が無ければ一緒に連れて行こうと思い、その勧誘をしようと探しているのだが、エリーがいないのだ。


 別に心配してるわけじゃあないし、契約の話も人を置いていい事を契約の条件の一つとして提示したりして時間を食ったわけじゃあない。

 ただ単にそういう気分だっただけだ。


 だが肝心のエリーが見当たらない。

 エリーが入れるパーティが無いか色々声をかけて回っていたということまでは確認できたのだが、もしや良くないヤツに声をかけたんじゃないかと少し気が急かないでもない。なので、見かけたボブにも声をかけてみたのだ。だが収穫は無し。


「そうか。悪いな。」

「いや……なんなら探すのを手伝おう……か?」


 いや、別に、そんなにエリーを心配しているわけじゃあないし、そんな必要はないけれど、ボブが暇を持て余してどうしようもないって言うなら、手伝ってもらわないでもない。


「……まぁ、暇なら。な。」

「うむ……わかっ……た」


 ボブと手分けして探す。

 するとすぐにボブがジャックを連れて戻ってきた。


「ようトミー。お前どこの貴族と契約したんだ?」

「あ? エスデス家だよ。 つーか今急いでるから。」

「まぁ待て待て。エリーちゃんならどこに行ったか俺知ってるから。」

「……」


 少しイラっと来た。


「そっかーエスデス家か~……そっか~。そりゃあいい所と契約できたなぁ~。でも残念だったなぁ~。」

「何がだよ。」


「んん? いや、何だろうな? ボブはどこと契約したんだ?」

「むう……シコルスキー家……だ。」

「そうか。シコルスキー家か。しっかりとした家じゃないか良かったな。ちなみに俺はカストロ家だ。」


 いい加減にイラっと来る。


「おい、ジャック。確かに契約はめでたい事だが俺は急いでるってさっきから言ってんだよ。」

「ひゅう、怖い怖い。じゃあそろそろ教えてやるか。ガッカリすんなよ?」

「いいから言えよ。」


「分かった分かった、じゃあトミー。答え合わせだ。

 この街で有名な貴族の家を三つ上げろと言われたら? どこを上げる?」

「あ? エスデス、シコルスキー、エムネンだろ?」

「そう。そしてその御三家の友好関係は?」

「三つ巴。」


 そう答えた瞬間にジャックが踊り出しくるくるとターンを決め、膝をついて俺に向けて両手を開く。


「そう、三つ巴! そしてなんということか、お前のエリーちゃんはエムネン家に入ったんだよ!」


 心底嬉しそうな笑顔のジャック。

 俺はとりあえず軽く小突いておいた。

 大袈裟に崩れてみせるジャック


「痛いっ! 親父にだって打たれたことないのにっ!」

「うるせぇ! 変な冗談言うからだ!」


 今度は軽く蹴っておく。


「打ったね! 二度も打った!」

「なんなら今度は殴ろうか?」

「おーけー、もうお腹はいっぱいだ。」


 笑いながら立ち上がるジャック。


「いや、でも今言ったのはマジなんだぞ? エムネン家にはクリスが行くと思ってたんだけどな予想外だった。へへっ、クリスに声かけてみろよ。すげぇキレてるから。」


 ジャックの話しぶりから、言っていることが本当なのだと理解した。

 あのエリーが貴族のお抱えに?

 そんなのどう考えても、おかしい。


「くそっ!」

「おいおいトミー。怖い顔してるぞ?」


 エムネン家がエリーを雇うとしたら、その理由なんて一つしかない。


 妾目当てだ


 エリーなら簡単に騙されるだろう。


 俺は拳の震えを止められなかった。



--*--*--



「も、もうイイですかっ!?」

「あぁ、イイぞ!」

「はいっ! もうイキますっ!」


 ルークさんの声に合わせ、パンパンに膨らんだ蛇の胴体に向けてムチを振るう。


 ビュクン! ビュリュリュ! びゅる! びゅるるん!


 鞭打たれた蛇はその牙から毒液を大量に噴射し、その毒液は想像した通り私に向かって飛んできた。


「おぉぅ……」


 そしてやはりメチヤ様が私の間に割って入り、その毒液を顔からベチャベチャと浴びるのだった。



 ダンジョン探索3層目での発見。


 私は蛇もムチで大きくできて、破裂させることができた。

 なにやら大量の毒液の採取が容易になるらしい。


 3層目でも役に立てる事があって良かった。

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