常
それからの日々は驚くほど穏やかに過ぎた。
黒風はそれからも時に花を摘み、時に水菓子や、干菓子、城下で仕入れた子供が遊ぶ玩具などを持って行った。小さな土産を渡すと、さやは少女のように喜んだ。何も見えないさやのために、笛や童歌などを聞かせる時もあった。そんな時、さやは何かを探るように、小さく声を出していた。もちろん、形にはならなかったが。
そうして、しばらく過ごしてみると、実際のさやの年は黒風よりもかなり上であることに気付いた。それこそ、親子というような年に思える。もしやと思う事もあった。刃達も死んだと思っているが、万一、と。だが、やはり確信は無い。そもそも何の手がかりもないのだから。それでもいい、と思えたのは、政虎の言葉があったからかもしれなかった。穏やかな時と、仄かな温もりは、過たず黒風の心を癒した。
意識していないつもりでも、やはり、母のいない寂しさがあったのだと、初めて自覚した。母のような人、と過ごす時間は何物にも代えがたかった。何を話すでも無かったが、さやに寄り添うだけで温かい気持ちになれた。その時を失いたくないとすら、思った。果たしてそれが、野武士である自分にとって、良いことなのかはわからないが。
さやがほんのりと笑う。それを見る黒風の眼差しはとても穏やかで優しい。どうかさやもまた、癒されていてほしいと、それだけを願うようになっていた。




