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天声 -君を想うー  作者: 零
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迷い

(気のせい、だったのか……?)

黒風は屋形の一室に居た。布団の中から天井を眺め、ぼんやりとしている。ただでさえ、自分の置かれている状況が理解し難かった。それなのに、ここにきて謎の女の出現と来ている。だが、彼女のおかげで、少しばかり政虎との間が柔らかくなったように思えた。微笑一つ。それでも、ここ最近の自分のおかしな挙動を思えば、過ぎた反応と思った。

 思えば、自分がここまでこれたのも、彼女のおかげと言える。黒風がここにいるのは、彼女の慰めになるためなのだから。

 表向きは、だが。

 ここにきて、黒風の胸を信長の顔が過った。

 自分が正式に信長の命を受けた暗殺者であるならば、順調、というべきだろう。まんまと標的の傍にいられるようになったのだから。何の疑いも持たれていない様子なのは運が味方に付いたというところか。

 だが、多くの暗殺者はそうなのかもしれない。暗殺者だと思われずに普通の人間として何食わぬ顔をして城に入る。だからこそ、その目的が達成できる。自分の場合はその技術がどうということはない。単に自分が根っからの刺客でないことが、幸いしたのだろう。

(あるいは、あの男もそれを読んで……?)

その可能性は無いでもない。だが、やはりどうしても、捨て駒である可能性の方が大きい気がした。黒風は布団の中で大きくため息を吐いた。あるいは、自分がそう思いたいのだろうとも思えた。

 やはり、暗殺など性に合わないのだ。それもある。

 政虎本人と出会い、下手に会話を交わしてしまった事もある。会話をしてしまえば、それは自分と交流を持った相手ということになる。まして、政虎には本人が気づいていないとはいえ恩がある。戦場で知らぬ誰かの首を上げるのとは違い過ぎる。黒風には、命令だからと平時に簡単に人の命を取れる神経も、忠誠心も持ち合わせていなかった。やはり、戦場と平時は違うのだと、改めて思った。

 そして今ひとつ。

(あの人……)

黒風のことを気にしていた女。盲目で、言葉も話せない女。彼女は政虎の庇護下にあるからこそ生きている。そうでなければとっくに堕ちるところまで落ちるか、死んでいるだろう。

 彼女は黒風を気にしていたようだが、気にされると気になる。あちこちを転々として、女に無縁だったわけでは無いが、あんな女は知らない。

 生まれた時からああなのだろうか。黒風の兄達はそうだった。瞬啓兄は目が見えず、澄啓兄は耳が聞こえない。生まれた時からずっと二人で、お互いにお互いの足りない部分を補い合って生きている。黒風の脳裏に、懐かしい二人の顔が浮かんだ。

 あの二人も、親の庇護、そして、住職の庇護があってこそ、生きてこられた。哀しい事、辛い事もあった。自分はその場に立ち会えなかったが、それでも生きていた事は幸いだ。再会できた時の喜びは今も忘れない。

(この仕事が終わったら、また寺へ行こう)

黒風は猛烈にあの寺の皆に会いたくなった。この仕事、と想い、ふと、思った。

 どの仕事だろう。

 何が仕事なのだろう。今の自分にとって。

 奇妙な縁によって、今、自分はここに在る。自分をここへ導いた何かは、果たして自分に何をさせたいのだろう。そんなことまで考えた。そこまで考えが及んでしまうと、あとは只人の自分が考えても仕方のないことのようにも思えた。

(眠ってしまおう)

急激に襲ってきた眠気に身を任せ、黒風は久々に深く眠った。


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