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天声 -君を想うー  作者: 零
33/56

約束

 与四郎が戻ると、一座の者は出立の準備をあらかた終えていた。また、別の町へ行こうというのである。

「頭」

与四郎は刃に声をかけた。顔を上げた刃は、与四郎の顔を見て、大体のことを察した。

「出立は明日だ。今夜は皆で酒を飲むつもりだったが……」

そう言って、顎を擦った。

「お前と二人で飲むのも良いな」


 夜の約束を取り付けた与四郎は、早手とあやねを探した。二人は一緒に最期の荷をまとめていた。あやねが荷物を持とうとすると、早手が止めた。そうして、自分が代わり、最後の荷を仕上げていた。

「与四郎」

最初に気付いたのはあやねだった。

「良かった。また、黙っていなくなったのかと思った」

「すまない。もうしないよ」

思いがけず、あやねの方から話を振ってくれた形になった。与四郎は正直、助かったと思った。

「早手も、聞いてくれ」

「聞かなくても分かるさ」

早手は不機嫌そうに言った。

「どうせ、俺の方があやねを幸せにできるから、自分は邪魔だとか思ったんだろ?」

それだけではないが、間違ってはいない。その他の理由は、与四郎の個人的なことだから、二人には関係ないと思った。

 与四郎は小さく頷いた。

「早手があやねを好いていることは知っていたからな」

「な、」

早手が真っ赤になった。見ると、あやねも真っ赤になっている。それを見て、与四郎はふっと笑った。

「お前、」

早手が与四郎に掴みかかった。

「ややこはいつ生まれるんだ?」

与四郎に言われ、二人が驚いた顔をした。

「何で……」

「今、早手があやねを庇っていたし、あやねも時々腹を庇っていただろう。それに、舞も穏やかな動きのものしか選んでなかった。軽業に至っては全く」

「よく、見てるんだな」

「誤解するな。未練があるわけじゃない。でも、あやねは俺にとっては家族のようなものだ。自然と目がいくさ。早手もだ。早手も、俺には家族だ。今までも、これからも。生まれてくる子供も、俺には家族だ」

「与四郎は、」

あやねが縋るような目を向けた。それは、昔好きだった男への目線というよりは、妹が兄に向けるような目だった。それを見て、与四郎は静かに笑って首を横に振った。

「俺はここから別行動だ。野武士の仕事が入ったんだ」

「また、戦に行くの?」

「そうだ」

「何故?」

「生きるために」

「生きるためなら、旅芸人でもいいじゃない」

「そうだな」

「なら、」

「それを、知るために」

あやねは、分からない、という顔をしていた。だが、早手は分かったような顔をしていた。

「また、会えるよな」

早手がそう言って、手を差し出した。

「ああ」

与四郎がその手を握る。二人の手を、あやねが両手で包み込んだ。

「生きてね。絶対、生きてね」

「そうだ。俺たちも生きる。だから、生きよう、与四郎」

三人の脳裏に、幼かったころの自分たちが映った。いつでも一緒で、どんな思いも共有してきた。その頃の思い出。

(温かい)

与四郎は、目頭を熱くするものを、零さないようにぐっと堪えた。


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