30/56
帰還
「あの時は、まことに申し訳なく……」
与四郎は刃に深々と頭を下げた。それに対して、刃は静かに首を横に振った。
「凡そのことは見当がつく。理由は、一つではあるまい」
「はい」
「言えないか」
「できるならば」
「許そう、などと言えるほど、お前に何かしてやれたわけではないからな」
「そんな、」
与四郎は驚いて首を横に振った。母の古巣であるという理由だけで置いてもらえた。育ててもらえた。様々な技術を体得できた。恩を並べたら尽きる事がない。
しかし、それでも刃が、哀しそうに笑うのは、母の死の責を感じているからだろう。与四郎が孤児となってしまったのは、自分のせいだと。
一座の中には、既に与四郎を知らない者も数名混ざっていた。だが、大半は与四郎を知っている者達で、そのうち何名かは、与四郎の母、ふたのはを知っている者だ。その者達は、少なからずふたのはの死に責任を感じていた。
「お前もここで稼いでいくか」
「お許しいただければ」
「こちらとしても助かる。それまで、少し皆に顔を見せてやってくれ」
そう言うと、刃は柔らかく微笑んだ。慈悲深い父親の顔そのままで。




