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天声 -君を想うー  作者: 零
27/56

襲撃

「盗賊だー!」

与四郎たちが訪れていた村に、盗賊の一団が襲い掛かった。

 春の祭りの昼の部が終わり、ささやかな祝いの席を準備しているさなかだった。

「与四郎、早手、村人たちと他の者を村長の家へ。それまでは己れと矢取が引き受ける」

刃は冷静に対処した。一時の縁とはいえ、村人たちを見捨てはしなかった。

「分かった」

若い二人は頷くと走り出した。

「おおーい、村長の家へ逃げろ!」

与四郎は大声で叫びながら村を走り回る。その中で、小さな子供達と遊んでいたあやねが、盗賊の一人に追いかけられているのを見た。

「逃げて!」

あやねは小刀を構え、気丈に盗賊の前に立ちはだかった。相手の男はにやにやと嫌な笑いを見せている。それを見た時、あやねの脳裏に、自分の村が焼け落ちた日の光景がよみがえった。真っ赤に燃える炎。飛び散る血。響き渡る悲鳴。目の前に落ちる、先刻まで人であった、肉塊。

「あ、ああ」

ぽとり、と、小刀が手から滑り落ちた。

(だめだ、だめだ、だめだ)

心の中で繰り返す。

(拾わなければ、戦わなければ、あの子たちが)

ぐっと、唇を噛みしめ、その痛みで正気を取り戻そうとする。それをあざ笑うように顔を歪め、男が手を伸ばした、と、


ぱぁん


 派手な音がして、男の手を石つぶてが弾いた。

「汚い手で触るな」

与四郎が二人の間に駆け込む。

「この、」

男が刀を振りかぶると、一本の矢が男の手を貫いた。

「与四郎!」

矢取の声だった。それを耳で捉えた瞬間、与四郎は男に体当たりした。そして、男の落とした刀を拾った。反射的にそのまま構える。刃に刀の扱いは習ったことがあるが、人に刃を向けたのは初めてだった。


どくん、


 体の奥深くで、血の塊が、覚えのない動きをするのを感じた。

(何だ?)

首を巡らせるが、分からない。

「この、」

盗賊の男は、与四郎から刀を取り返そうと歩み寄った。だが、その目を見た男は、ぎょっとして動けなくなった。

 子供だと思って油断していた。それはある。だが、それを除いても、その時の与四郎の目は、はっきりと殺意を以って男に向けられていた。

(子供のする目じゃねぇ)

そう思っていると、二人の顔の間を、もう一本の矢が通り抜けた。与四郎はそれにもびくともしない。避ける事も、その矢の先を追う事もなく、じっと男を見据えている。

 男は勝ち目がないと判断すると、舌打ちを残して逃げた。

「与四郎!」

矢取が二人に駆け寄った。男が二人から離れたのを見て、弓を下げて走って来たのだ。

「二人とも、無事だな」

そう言って、矢取が二人を見ると、あやねはまだ、自分の身体を抱いて、蹲っている。

「あやね、おい、あやね!」

早手もやってきて、心配そうに何度もあやねを呼んでいる。

「……よしろう……」

あやねから小さな呟きが漏れた。だが、目はまだ地面を見つめている。現実に戻ってきていないのだろう。早手は与四郎を見た。与四郎にもあやねの声は聞こえていた。早手が複雑な顔をして与四郎を見ている。与四郎は小さく息を吐いてあやねの前に立った。

「……あやね」

与四郎がそう呼ぶとあやねは顔を上げる事も無く、与四郎の着物の袖を掴んだ。それは、小さな頃からのあやねの癖だった。今のように昔のことを思い出した時、何か怖いと思う事があった時。そういう時に与四郎の袖を掴む。

「お堂を、借りられますか」

「あ、ああ。良いと思う。今日は皆、村長の家にいると思うから」

矢取はそう言うと、与四郎の肩にぽんと手を置いた。

「頼むぞ」

与四郎は小さく頷いた。矢取は早手を促し、何やら指示をしていた。それを聞きながらも、ちらりと与四郎に向けた目線に気付きながら、与四郎は何も言わずにあやねを促した。


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