不審な男
ふたのはは城の門前の人波の中に居た。後から追いついてきた矢取がその姿を見つけて声をかける。
「ふたのは殿、詳細が分かるまで身を隠したほうが良いのでは?」
何があったのか分からない以上、ふたのはが狙われる危険は皆無ではない。側室、扇御前の顔を知るものはそれほど多くはないだろうが油断は出来ない。
「それは分かりまするが……しかし……」
ふたのははどうしても城の中が気がかりだった。一座の者も好きだが、植親や北の方を始めとする城の者もふたのはを大事にしてくれていた。放ってはおけない。情報が本当であれば、すでに手遅れかもしれない。だが、何もできないままでいるのは嫌だった。せめて、本当の事が知りたい。そうでなければ、自分のするべきことも分からない。
その、ふたのはの想いが呼んだのか、ふたのはの目が、群衆の中に一人の男を見つけた。特に変わった様子があったわけではない。それが却って奇妙だった。周りの人間は不安そうにしたり、お互いに話をしたりしていつまでもその場を離れそうになかった。しかし、その男は終始無表情で立ち、すっと身を翻して去ろうとしていた。ふたのはの喉がごくりと鳴った。それが、自分の勘の通りに、城での一件に関わるものであるならば、この先は危険が伴う。そうでなければ、そもそも追う意味はない。だが、それは、
(追わねば、分からぬ)
ふたのははその男から目を離さずに矢取に耳打ちした。
「……お願いがあるの」




