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天声 -君を想うー  作者: 零
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古巣の温もり

「その後、無事に与四郎を授かったのだったな。そして、その与四郎も八つか。……早いものだ」

「はい」

刃の一座が再び城下を訪れたのは、与四郎が生まれた頃であった。城に通され、側室、扇御前となったふたのはと再会し、事情を聞いた。そういう事情であればと、刃は快くその話を受け入れた。何よりも、ふたのはと植親、そして、北の方の仲がとても良い状態であったことが大きかった。その美しい調和を乱すことはできなかった。

 そうして、四年。全国を周り、再びこの地を訪れた。声をかけようか悩んでいたが、城の方から声がかかり、後日の登城を前にふたのはが遣わされた。扇御前としてではなく、一座の舞手、ふたのはとして、である。古巣に戻り、余計なものを持ちこまず、素のままでという配慮で在ろうと思われた。刃はそれが嬉しかった。

「与四郎は刀は全く使えないのか」

「小刀程度でしたら」

「なるほど。身軽さを生かして戦うなら槍よりは刀、それも短い方が良かろうな」

「はい」

「城の内情はどうだ。危うい気配でもあるのか」

「それを外部へ漏らすは禁忌」

ふたのはは顔を歪めつつもさらりと言った。その様子を見て、刃は、くっと口の端で笑った。今はこうしてふたのはも旅芸人の一座に戻っているように見えるが、側室扇御前の心構えは捨てられないようだ。

「……与四郎をしばらく預けてはもらえまいか。剣術の素質を見たい」

ふたのはは刃の顔をじっと見ていた。刃は目を逸らさずにふたのは、否、扇御前の顔を見た。今はそこに戻っている。

「人質にはなりませぬが」

「……疑い深くなったな。良いことだ。武家に仕えるというのはそうでなくてはいけない」

彼女の強い視線に半ば気おされながらそう言った。会わずにいた間、ふたのはもすっかり別の顔をするようになった。それが、寂しくもあり、頼もしくもあった。それは、武家の側室としてだけではなく、母として強くなったところもあるのだろう。女性は人生に何度か、男より明確に自分を変える時期がある。それを刃は実感していた。

「そんなつもりは最初から無い」

頭は笑いながら言った。

「左様にござりましょう」

ふたのははしれっと返した。そして、笑った。少女のように。それは、間違いなく、刃の見知ったふたのはの顔だ。それを見て、刃もやっと頬を緩めた。

「お前も共に留まれ。皆、ゆっくり話をしたがっている」

そういう彼も久しぶりにゆっくり話したかった。会えなかった時間の分だけ、交わしたい心は深く、大きくなる。

「分かりました」

ふたのはは頷くと、城から共に来たそねを伝言と共に城へ帰した。元々、今回の面談の話が出た時。数日泊まって来てはどうかとも言われていたのだ。城にあっては、どうしても気を張っている時が多い。側室として暮らすようになってしばらくはやはり敵意を向けて来る者もあった。しかし、北の方が率先して扇御前を庇護し、睦まじく接しているうち、その気配も無くなっていった。まして、北の方の望んだ男児を産んだとなれば、誰もが彼女の価値を認めざるを得なかった。そうして、少し落ち着いた頃だからこそ、城を離れても良いと思ったのだろう。

 そうして、その日、ふたのはと与四郎は旅芸人の一座と共に過ごした。久々の再会に一座は沸き、ささやかながら宴も催された。ふたのはも一時、城での顔を忘れ、もとの女軽業師の顔になっていった。

 酒も入り、その日の夜は誰もがゆったりと床に着いた。


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