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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕だけをみてくれ 1

作者: ぱむぱむ

なぁ。黒板みえてんのか?

…平気です。


僕の席は一番前の窓際。

先生の質問は無論、黒板との距離ではない。


僕の髪型のことだ。


運動部にも文化部にも、委員会活動にも精を出さない影のように目立たない僕。

だが、友人はいないわけでもなくクラスで浮いた存在でもなかった。とりあえずいてもいなくてもどうでもいいポジション。


…目立つ事を嫌う僕は、極力学校では本当の自分を見せないよう徹底していた。

それが虚しく思う時期もあったが、実際他のクラスメイトのように余計な人間関係に悩まされたりすることもないし、たとえ偽りの自分が傷つけられても特に他人のような傍観ができるのだ。


得るものが少ない分失うものも少ない。

約束された心の平穏が不安症の僕には必要だった。


しかし僕にもどうしようもできないモノがある。


恋愛対象への気持ちが素直に表情に出てしまうことだ


それがクラスメイトであればまだよかった。僕の席は一番前の窓際。ほとんどの人間は振り返りもしなければ目もあうこともないだろう。



恋愛対象は授業中、黒板から前列席まで歩いてくる。


細長くスーツの似合う脚が僕の席の前で立ち止まる。


今では目があうだけでも、体のすべての筋肉が硬直し唇が震えるしまうほどだ。


もう彼は僕の気持ちに気づいてしまっているのだろうかという疑心がより彼への過剰反応を燃え上がらせてしまうのだから仕方がない。


授業中ずっと下を向いているのも、板書が取れず一番前の席なので不自然だ。

これでは埒があかないので


わずかな抵抗として前髪を伸ばすことにした。


僕は社会の時間

原田先生の顔を一度も見ないように授業を受けなければいけない使命感と緊張で何もできない。


笑ってくれ。…結局、彼を意識しすぎて毎回羞恥心で死にそうになりながら授業を乗り切っている。


彼は何気なく前髪の長い僕を気にしたのだろう。


なんだそんなの…平気なわけがあるか。



キーンコーンカーンコーン

終業のチャイムが鳴ったと同時に生徒が騒ぎ出す。


僕はその騒ぎに乗じて、なに食わぬ顔で机に突っ伏す

僕は単に授業がダルかった生徒です、と主張するために。


一気に体から力が抜ける。


知ってるよ。

思春期の過剰な思い込みであることは。

貴方が僕をずっと見つめてるような視線は僕の妄想だ


分かってるはずなのに。

僕は貴方に支配されたがっている。僕をかけがえのないものと特別視していると期待してしまう。

それが一番恥ずかしい。


この感情は本当に好きという気持ちであるのかと考えることすら気持ちの悪いことだ。


友達からつけられたあだ名は万年思春期だ。




気が抜けた僕は目元まで伸びた前髪を見つめ、つまむようにして持ち上げた。


自然と目線が上がり、その先に原田先生がいた。

存在を認識するのに数秒ほどおくれる。


『うわわっ!


慌てて僕は前髪をもどした。


『…菊池は前髪あげたほうがいいんじゃないか?

『!!


反応に困る僕をよそに先生は窓際のボイラーにひょっこり座る


僕の左側と先生が向かいあっている。

くっつきそうで届かないもどかしい距離感


『…


窓の外にみえる中庭の桜の花が満開で綺麗だ。

先生はぴったり写真のように風景に収まりこむ


耐えきれなくなって僕は視線を机に下げた。


『きれいですね


届かない思い出のような鮮明な景色に声も出ない。


『あぁ。…もったいないよな。本当に綺麗なのに


一瞬のことだった。


先生のゴツゴツした大きな手が僕の前髪をどかし

おでこに柔らかいものがあたった。


先生の顔が息遣いが感じられるほど近くにある。



『ようやく、目があったな。





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