裏に潜む可能性は
スペース・フライト・シップ本社、データ管理棟。
セキュリティ管理ルームの中、数名がパソコンと向き合ってサーバー室の監視をし、また数名はイスを並べて横になり、目の疲れを癒していた。
「管理長、第二サーバー室から微小な空気の揺れを確認。」
パソコンの画面を見ていた一人が、後ろを振り返って言った。
「どのあたりだ?」
すぐさま管理長は立ち上がり、横になっていた管理員は体を起こした。
「三層目、Dサーバーの前です。」
「わかった。メインモニターを地図に切り替え、位置を確認しろ。」
「了解、メインモニターを切り替えます。」
前方の大画面に、サーバー室の地図が映し出され、Dサーバーに赤い印が付けられた。
「全員、各パソコンで作業を中断、カメラの動態検知に切り替えろ。」
管理長は張りつめた表情で部下に命令した。
「一、二は共に異常はありません。」
「三、四もです。」
「一から四層目のカメラは異常なし、か。」
管理長の手元にあるモニターには、五層目、六層目共に異常なしの文字が点滅していた。
彼は腕を組み、眉をひそめた。
「生体感知に切り替え!」
「「了解」」
パソコンの画面上のカメラ映像が、白く曇る。
「反応は確認できません。」
「こちらもです、異常はありません。」
「じゃあ最後、床の感圧確認!」
メインモニターに、過去一か月のサーバー室の床の圧力値変動グラフが映し出される。
「二週間前のメンテナンス以来、圧力の変動はありません。」
管理長はその言葉を聞くと、大きな溜息と共に椅子にぐったりともたれかかった。
半分体を起こしていた管理員たちは、また横になり目を休めた。
「またいつもの誤作動だな。」
周りの管理員たちも、それぞれ途中やりだった作業に戻る。
ただ、一人だけ、周囲を気にしながら端末に向かって文字を打つ者が居た。
[今から三十秒、機器をダウンさせる]
男はその文書を送信するとすぐパソコンに向かい、コードを打ち込んだ。
「セキュリティ機器がダウン、三十秒後に再起動。誤作動による影響と思われます。」
「おう。」
その男の声に生返事をした管理長は、相変わらずぐったりした姿勢でパソコンを眺めていた。
この男は、続けざまにサーバーのネットワークを遮断し、電子ロックを解除して”SS\304\Jim\data\money”のデータを検索し、パスワードを入力、消去した。
僅か五秒の事だった。
すぐに、この男の端末にメッセージが送られてきた。
[削除を確認]
この男は頷き、安堵の息を付いた。
程無くして、管理長の元に電話がかかってきた。
「”こちらデータ管理ルーム、データ管理長。先程、五秒弱のサーバーへのアクセス拒否があった、なにか異常はないか?オーバー。”」
「あー、こちらセキュリティ管理ルーム、セキュリティ管理長。さっき装置の誤作動が起きた。その影響かもしれない。オーバー。」
「”データ管理ルーム了解、オーバー。”」
管理長は電話を置くとすぐにイスを四つ並べ、顔に温めた濡れタオルを被せて仰向けになった。
この男は任務を成し遂げた。
大統領直々の”ジムの金銭データを消せ”の依頼を。
今日という日のために、二年かけてセキュリティクリアランスを獲得し、S.F.S.(スペース・フライト・シップ社)の管理業に就いたのだ。
この男”雇われ工作員”は、ただ金のために動く。それだけだった。