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Space.DUST  作者: Sharp♯
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テイク・オフ

/テイク・オフ



 時は、宇宙開発ラッシュの数十年後。


 宇宙船が、富豪たちの間で流行している時代。


 多くの大金持ちが、宇宙に渡り、そこで永住し始めていた。



「こいつもだ、宇宙に持っていこう。」


「わかったわ、これが最後ね。」



 ここは地球。


 一組の四十代半ばの夫婦が、宇宙船に荷物を詰め込んでいた。



「さて、荷造りは終わったぞ。」


「ほかに準備は?」


「これで終わりだ、さぁ、宇宙船に乗って。二人でコロニーへ行こう。」



 宇宙船を指さした。


 形は、ワンボックスカーを大きくしたような物だ。


 ジェットエンジンは、宇宙開発時代のごつごつとしたものではなく、機体に内蔵された小型のエンジンを搭載。


 細い輪状の排気口から漏れる薄紫の光が、この真っ白な機体のフォルムを上手く引き立てていた。



「そうね、ジム。あなたが大統領の弟だって知れ渡ってから、変な人が沢山寄り付いて来るんだもの、静かな宇宙へ行けば少しは楽になるかしら。」



 この国の現政権の実権を握っているのは、この男ジムの、実の兄であった。


 この兄弟は、まだ物心が着く前に両親の都合で生き別れになっていたのだ、そんな真実を二年前、母親の遺言書で初めて知る事になった。


 真実を確かめるべく、兄方に付いた父親を訪ね確信を得たのだが、どこから盗聴、監視されたのか、その噂はあっという間に広まった。


 それからというもの、毎日十数人が家に訪問してくるようになったのだ。


 ジムは、兄の支持を落とさないため丁寧な接客を心がけているが、それも限界があった。



「ああ。金に飢えた奴らは、大統領の兄さんと近い関係の人間から伝って金にありつこうとする。見ているだけでおかしくなりそうだ。」


「あの秘密もあと少しでバレてしまう所だったわ。いつまで隠し通せるのかしらね。」


「だからこそ、宇宙へ行くんだよ。アリエス、行こうか。」


「ええ、行きましょう、ジム。」



 あの秘密。


 ジムの兄が大統領になるまでの数多くの愚行だった。


 宇宙病(宇宙開発時代に初めて観測されたウイルス性の死病)を患った父親が、先が長くないのを案じてか、弟であるジムとその妻アリエスに、裏の世界、真実を伝えたのだった。


 真実を知る者を決して絶やしてはいけない、ジムの聞いた父親の最後の言葉であった。


 マスコミたちも勘付いているのだろうか、兄の愚行を言葉巧みに暴こうとする。


 ごまかす術も、もう底が見え始めていた。



「扉を開けるぞ、手をかざして。」



 二人が機体側面に手をかざすとすぐさま指紋と手相の認証が行われ、わずか二秒ほどで側面から階段が下りてきた。


 アリエスはジムの腕に抱き付き、歩幅を合わせて宇宙船へ入っていく。


 機内は清潔感のある白を基調とした、広々とした部屋だった。


 ソファとテレビ(空間に投影するタイプの物)も置いてある。



「アリエス、君はここで映画でも見ててくれ。」


「え~、一緒に見ましょうよ?」


「管制塔とのコンタクトがいるんだ。楽しみはそれからだ。」


「ええ、わかったわ。」



 ジムは真っ白なリビングからダイニングキッチンを抜け、コックピットに入る。


 ヘッドセットを付け、チャンネルを管制塔へ設定する。



「えーっと・・こちらSS、えー・・・」


「”SS(Space Ship)304番機ですね、ジム様。”」


「そう、それだ。ありがとう。よくわかったな。」


「”いえ、今日のフライトはジム様だけですので。では。空域、計器類共にオールクリア、各機器に異常無し、SS304、フライトを許可します。”」


「ほう、随分早いな。」


「”ジム様が払った多額の航行契約金は、こういう所にも回っているんですよ。”」


「それは良いな。もたもたしないで済む。」


「”快適な旅を提供する、がモットーなのでね。”」


「流石だ。じゃあ行くぞ、テイク・オフ。」


「”それでは、快適な宇宙の旅へ、行ってらっしゃい。”」



 人工知能との短い会話を終え、視線を下ろす。


 操縦桿は無い。ただボタンが並んでいるだけだ。


 ジムは、その中で一番大きい”フライト”のボタンを押した。



[ようこそスペース・フライト・シップへ 我が社はあなたに快適な宇宙への旅を提供します 快適な旅においていくつか注意点・・・・]



 アナウンスを無視し、アリエスのところに戻る。


 ソファでくつろいで待っていたアリエスは、ジムが隣に座ったところで、映画を再生した。



「さぁ、新しい、きれいな世界へ行こうか。」


「楽しみね。」



 アリエスの笑顔に、ジムも微笑んだ。


 二人を乗せた宇宙船は、静かに滑るように進んでいった。


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