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豆と雲(仮)  作者: 醤油団子犬
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 暑い。

 コンビニってあらゆる意味で便利で有ってほしい。

 仕方がないんだけどね。

 こんな田舎の果てじゃ、 文句の言い様もない。


 お水やらお菓子やらしょうもない重たい物を、 いやいや自分が買っといてしょうもないって事は無いよな、

 なんて自分に突っ込み入れながら、 田舎道をトボトボ歩いていた。



 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 29歳の誕生日を迎えてから、向いの席の課長が煩い。

「彼氏が居なくて悲惨だな。」とか、

「結婚の予定がない女は本当可愛そうだな。」

 色々、 煩わしい。

 構っているつもりなのかもしれないが、こちとらアンタに興味はないです。

 全部、

「そうですねー。(棒)」で返している。

 48歳独身の剥げかかったオヤジに何言われても、突っかかる程の興味もない。

 却って周りの女性社員の評判、自分でガタ落ちさせてるんだもの。

 周りの女性にも耳は付いてるのよ。


 アホくさ。


 淡々と日報に入力し、異常値が無いか確認、

 合間に「そうですねー。(棒)」

 を挟み、午前中の雑事をこなしていく。




「宮前さーん、ランチ行こうよ、明日の確認も兼ねて。」

 お、遊佐君だ。サラッサラした髪と綺麗に整った顔でにっこり笑っている。



 彼はゲイだ。偶然、春先に彼が男の人とすったもんだしている場面に出くわし、知ることになってしまった。

 以来、私は彼の女よけのありがたーーい友人としての地位を獲得している。




 彼が揉めていた翌日、口止めを兼ねてランチをご馳走してくれることに成った。

 会社には内緒、いい友達になろうぜ、なんて確認の後、

「宮前さん、この会社で全然モテないでしょう。」

「え、どーゆーこと??」

 別に美人でもなく若いわけでも無いのでモテる事に別段興味は無かったりするが、訳は気になる。

 遊佐くんがキラキラした目に笑いを浮かべながら説明してくれる所によると、あのヅラ課長が

「宮前は、オレに気があるみたいだ。いやー、参ったな~がはははは。」

 なーんて、若手社員を引き連れての飲み会で聞いてもいないのに何度も何度も宣言しているそうな。

「宮前さんの態度見てりゃ、事実はわかるけどさ、敢て火中の栗を拾う人はいないよね。」

 若手社員への牽制なんだそうだ。誰も手は出すなよという。

「でもね、全然嫌味ばっかり言われて、口説かれたことなんてないよ。」

 嫁の貰い手がないとか、彼氏なんて出来ないとか意地悪ばっかり言ってくるのに。

「プライド高いんだよ?自分から告ったりせずに宮前さんから言って欲しいんじゃないの?

 ほら、好きな子に意地悪するっていう小学生のメンタリティー的な。」

 あの嫌味三昧は告白を促してるアプローチのつもりなんだそうだ。

「分かるわけ無いし、嫌いだよ。」

 遊佐くんはクスクス笑うばかりだった。



 午前中の入力も切りが良い処で丁度終わり、遊佐くんと外にランチに行くことにする。

 課長がジト目で睨んでいるが、全く気にしない。

 ホワイトボードの欄を昼休憩に変え、遊佐くんとパスタを食べに外に出た。







 店は近隣の会社員達で混んでいた。

 結構大きな観葉植物がそこかしこに置いてあるが、管理がいいのか埃なんて纏っていない。

 清潔でここはお気に入りのお店。


 席に案内され、すぐに遊佐くんタラコパスタ、私はトマトの冷製パスタと食後のコーヒーを頼む。

 と、目があった途端遊佐くんが爆笑している。

「どうしたの?」

 声を出さないように苦労しながら目に涙を貯めて肩を揺らしている。

「ああ、今丁度後ろ向いてるからいいかな、左奥見てごらん。」

 言われたように見てみると、課長の薄ら頭が見える。

 いつもコンビニがお弁当屋さんの一番安いお弁当しか食べないのに何故ココにいるんだろう。

 訳がわからなくって遊佐くんを見ると、

「気になったんじゃないの?デートでもするかと邪推してるんだと思う。」


 違うっつーの。

 明日一緒に出かける約束はしている。彼の紹介で、週末ヒマな人間で集って屋外活動するゆるーいサークルに入ったんだ。

 早朝に川に集まって、カヌーとラフティングの会に参加するつもりなのだ。

 川遊びなんて初めてなんで、現地までは彼に連れて行って貰うことと、服装とか保険についての説明を聞こうとしていただけなのに。

 はぁーー、と溜息をつくと遊佐くんの目がお疲れ様って笑ってる。

 あなた、若干楽しんでるでしょ。

「課長、こっちジーーっと見てるよ、さっきから。」

 も、無視無視!

 明日の集合場所や時間、色々話さなくっちゃいけない事沢山あるんだから変な人に構って居られない。

 色々彼からレクチャーを受け、保険で5000円くらいかかる所まで教えてもらった処で、パスタが届いた。


 しばらく食べることに専念する。

 遊佐くんは、クルクルとパスタを巻きつけゆったりと咀嚼している。間違ってもズルズルやらかさない。いつ見ても彼の食事風景は優雅だ。

 私のパスタは、タップリの刻んだ紫蘇と完熟トマトがパスタの淡い黄色に映えている。

 ひんやりした口当たりで柔らかな酸味とオリーブのコクが口に広がる。燻製醤油というのを味付けに使っているので噛みしめるとスモーキーな風味がする。

 極楽~!

 と、味わい噛み締めていると

「ズルズルズルズルーーーーーーーーーーー!」

 蕎麦を食べる時だってこんなに凄い音たてないぞってくらいの音が聞こえてきた。

 遊佐くんがきょとんとしている。

 いや、見ないぞ、絶対そっちは見ない。

 だってあれは間違いなく課長だもん。

 周りの席のOLさんが、眉を顰めたり、クスクス笑っている人も居る。


 遊佐くんは、こういう時も驚きはしても一緒にあざ笑ったりしない。

 ポーカーフェイスのまま、食事を続けている。

 本当に育ちのいい子だなって思う、同い年だけど。


 彼もコーヒーを頼んで、レクチャーの続きを聞く。


 全身タイツみたいなスーツを着るので服装は動きやすければいいみたい。

 専任のインストラクチャーさんを雇うので、初心者でも安心らしい。

 コーヒーも終わって丁度いい時間になったので、会社に戻り歯を磨く。

 ホワイトボードの欄を元に戻して仕事の続きだ。




 はぁ、帰る時間だ。

「明日、土曜だけど午前中だけ出て資料まとめとけ。冊子にして会議用に出せる状態にしとけよ。」

 課長、、、、、。




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