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1-1

 一目見ただけで殺されるのは直感した。双頭の犬。それも大きさが尋常ではない。高さは恐らく二メートル半程度、全長は八メートル程度か。体色は夜よりもさらに黒く、赤い目だけが妖しく光っている。どこか体毛が動いているようにも見える。

 犬は僕の目にも止まらぬ速さで前足を動かした。

 そして僕は地響きのような唸り声をあげる犬に、爪で裂かれて殺されたのだった。


 「痛っ」

僕はお腹の痛みで目が覚めた。

お腹は少し痛いがけれどそこまで酷いという痛みでは無い。

ここはどこだろうか?

 辺りを見回すとそこは真っ白な部屋だった。あるのは自分の寝ているベッドと棚と照明程度。あとはまぁ扉がある。他には何も置いてない。何とも殺風景な部屋だ。

そもそもなんでこんな場所にいるんだ?

 僕はこんな場所を知らない。

ん?いや、そうだ。僕は確かでっかい犬に殺された筈だ。

そう思い出すまでにそこまで時間はかからなかった。

 あの時犬に殺されなかったのか?いやそんな筈が無い。

 僕は自問自答を繰り返す。

今でもあの爪の感触は思い出せる。あんな大きな化物の爪だ。僕の体を二つに分割する程度の事は簡単にできるだろう。自分のお腹を見た。そして僕は服を着ている事に気付く。

 これは確か病院で患者さんが着ている服だ。

そうかここは病院か!

 って事は体を二つに裂かれたのに助かった?いやいやそれも違う。服を少しずらしお腹の傷跡の有無を確認する。果たして傷跡は無かった。あのような傷を負って縫い目も残さないように治す事など出来ないだろう。そもそもあんな傷を治せるわけが無い。

それじゃあ夢か? それもおかしい。ならなんでこの場所にいるのか説明がつかない。

 「あー! もう! 全然わからない。取り敢えず僕は生きてるんだな。」

 僕は現状がわからない自分を落ち着かせるために怒鳴る。みっともない。意味も無い。

 しかし今回は珍しく意味があったようでその声に反応したようにカチャという音と共に扉が開き、女の子が入ってきた。



 「あ、目が覚めたみたいね。どこか痛いところある? 」

 それは目が覚めるような美少女だった。歳は自分と同じ十六程度か。目が大きく、しかしそれに対し口はとても小さい。顔は日本人っぽいのだが、髪は輝くような銀色で肩甲骨辺りまでウェーブがかかって流れている。どうやらハーフかクォーターのようだ。身長は百六十センチ程。そして何よりもナース服を着ていた。白く細い脚を惜しげもなく見せている。女の子は1億人見て1億人が美少女と認める程の美少女だった。

 その姿に僕は一瞬見とれてしまった。しかしここまで彼女の体を分析というか観察というか拝むというか…… そう!チラ見してやっと彼女に質問を投げかけられている事を思い出した。彼女はもう自分の目の前にまで来ている。

 「あ、えっと…… 少しお腹が痛いですけど、でも気にするほどじゃないです。」

 「お腹ね……。ん。ちょっとごめんね」

そう彼女は言うと僕の服を少しずらし生で僕のお腹を触ってきた。

 「ひゃっ!」

 「……」

 女の子が僕の顔を少し驚いたような顔で見たが、気にしない風でまた手の方に集中しだした。

なんとも僕は男にあるまじき声を出してしまったらしい。しかし考えても欲しい。美少女がいきなり自分のお腹を触ってくれば、どんな男でも驚くだろう。しかもその手が少し冷たいのだ。これで驚かない男は腐っている。何がとは言わない。

 女の子は手をまるでお医者さんの聴診器の様に様々な場所に当てている。

 ん? これって普通に病院なんじゃないか?

  「大丈夫そうね。どこも異常は無いから明日にはその痛みも治ってるはず。」

彼女はそう言い僕のお腹から手を戻した。

  「あのー。すいません。どうして僕ここにいるんですか? 」

僕はおずおずと聞いた。

  「あーえっと……どこまで覚えてるかな?覚えている限りで良いから教えて。」

  女の子も少し目を泳がせながら質問してきた。ついでに質問に質問で返すななどというような阿保のような事は言わない。僕は質問に質問で返す事の何が悪いんだと常々思っていたのだ。むしろ僕の質問にしっかり答えるためにしている事で、誠意の表れだとさえ思う。決して女の子が可愛いからこんな事を言っているわけではない。

 「確か……夜中にコンビニにアイス買いに言ったら、目の前にでっかい犬がいて……それでその犬に爪で殺されたところまでは覚えています。」

  説明しながらあの時の事を思い出してしまい、恐怖で少し体が震えた。

 「全部覚えているのね……状況から言ってそれで恐らく正解。」

彼女は少し残念がっているようだった。

 「じゃあここって病院で僕死なずに助かったんじゃないんですか?もしかして天国?」

 「え?あ、ここは一応私の診療所よ。それにもちろん天国でも無いわ。ただ死んで無いかって言うと嘘になるかな。」

  彼女は少し戸惑いながらそう答えた。どうも曖昧だ。まるで何かを迷っている様子である。

 「って事は僕は幽霊ってこと?」

 「違う違う! 死んだんだけど、私が生き返らせたってこと。」

 どうやら僕は彼女に命を助けてもらったらしい。私の診療所ってのは私が勤めている病院だと思っていたが、本当に彼女が経営している診療所なのかもしれない。あの傷を治すとは凄い名医だ。

 「僕あの時確実に二つに裂かれた筈だけど……もしかして傷が思っていたより浅かったのかな。あ、でも一度心臓止まったって事はそれでもだいぶ酷かったのか」

 「うん。私が君に気付いたのはあれが走り去った後だったんだけど凄い酷かったよ。体が二つに裂かれちゃって、胃とか腸もお腹から出ちゃってて。しかも首も食い千切られてたし。いやーお爺様からもらった薬が無かったら危なかった!」

 「……」

 いやいやいやいや。危ないとかじゃないよね。致命傷どころか一瞬で死んでるよ。オーバーキルも良いところだし…… 。僕は首を触ってみる。しかし跡は無い。

 「えっと……どうしてそんな傷を負って僕は助かったんですか?」

 純粋に。ただ純粋に疑問に思った事を僕はぶつけてみた。

 「そうだね。あ、そうだ。それじゃまず君の名前教えてもらって良い?」

 「あ、はい。加地裕人かじひろとです。」

 「うん。裕人くんね。私は篠塚明日香しのづかあすか。アスクレピオスの孫です!」

 彼女はまるで誇らしげに笑いながらそう言った。アスクレピオスの孫だから治せたと言いたいのだろうか。しかし僕はそんな言葉を理解できる筈が無かった。

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