666
お集まりの諸君、よくぞ集まってくれた。
吾輩は今、猛烈に感動している。こうして多くの同志達がこの場に集ってくれた事にだ。
さて諸君、賢明なる諸君は、明日が何の日かよく知っていると思う。
そうでなければ、ある者は学校が、ある者は仕事があるにも関わらず、こうして秘密結社の集会に顔を出すこともあるまい?
諸君の組織への忠誠と献身に、吾輩からも敬意を捧げよう。
うむ、そこの君。手を挙げるのが一番早かったな? さぁ答えたまえ。明日は何の日だ?
「土曜日ですか」
違う。
君にはがっかりだ。心底がっかりだ。そこで正座していたまえ。
では次だ、そこの後ろから2番目の列の――そう、君。そう、メガネを掛けたロングヘアーの君。
「水戸ホーリーホック対Vファーレン長崎の大事な一戦です! Ksデンキスタジアムまで遠征に行きます! ゴーゴーVファーレン!」
君はそこで気が済むまでブラジル体操でもしていろ。
全く……我が組織のメンバーも質が落ちたものだ。
いいか諸君、私が若い頃はだな? 10年前の2016年6月6日などは大いに――いや、やめよう。イマドキの若いものは、などと愚痴を言っても始まらない。
……何だね? この期に及んでまだ私に何の日か告げる度胸があるというのかね?
面白い、では最前列の君。そうそう、ギターだかベースだか知らないが、何か楽器を持っているそこの君。
明日、6月6日は何の日かね。
「楽器の日っすね。6歳の6月6日から楽器始めると上達するって言われてるんすよ。自分もその日からギターやってて、毎年6月6日はロックの日っすね」
そうだ、昔から芸事を始めるのは6歳の6月6日から――ってそうじゃない!
いや、惜しいな、微妙にカスッたがそうじゃない。
諸君、吾輩は少なからず失望している。
秘密結社『黒山羊倶楽部』の構成員ともあろう諸君が、明日という大事な日をこれほど軽視しているとは、考えてもいなかった。
思い出すのだ諸君。
さぁ、2016年の6月6日、我々にとっても大きな出来事があっただろう。
ほう? そこの君、そうだ、そこのドジャース帽子を被った君だ。
さぁ志を忘れた同胞たちに知らしめるのだ。2016年6月6日は何があった? 吾輩をはじめ、黒山羊倶楽部にとっても大きな出来事があっただろう。
「はい! 忘れもしません、当時日ハムに在籍していた大谷選手が、日本人最速となる時速163キロの剛速球を――」
次。そこの体格の良い君だ。
「総統、この場で黙祷を捧げてください。偉大な総合格闘家、キンボ・スライスが天に召された日です」
……あー……諸君?
もっとこう、ほら、ね? 何というかその……あるだろう?
ほら、カレンダーを見てみるのだ。
見たな? ちゃんと……いや、そこのね? 水無月とか、Juneという表記はヒントじゃなくてだな?
数字だ。数字を見たまえよ。6がいくつ並んでいる? ……そう、3つ並んでいるな?
そうだ諸君、明日は10年に1度の、6、6、6の日だ。
666。さぁ、この数字を見てなにか思い出さないかね?
……そこでポカンとしない。顔を見合わせない。思い出せ同志達。
はい、そこ。
そこのスマホで調べたであろう君。もうこの際、カンニングは大目に見よう。6が3つ並んで666。さぁこの数字は何だ? ハイそこの君。
そう、君だ。そこのアロハ着てる君。
「えっと、獣ぬ数字……ですか?」
そう! それ!
獣の数字! やっと出た!
あぁ……本当に出てこないかと吾輩心の底から心配したぞ……。
「獣ぬ数字だから、あれさ。明日はみんなでひーじゃー食べるさー。ヤギ倶楽部は、毎年6月6日に、みんなでひーじゃー汁食べる組合だって聞いたよ?」
どこの誰だそんなデマを流したのは。
あのね、組合じゃないの、秘密結社。わかる?
あと黒山羊だから。
黒いの。黒い、ヤギ。わかる?
あと、ひーじゃーはだいぶクセ強いから。吾輩食べられなかったから。
……いや失敬。
諸君!
思い出せ! 諸君も、吾輩も、秘密結社『黒山羊倶楽部』が何をするべきかを!
「うちなーぬ食文化を広める会さー」
そこのアロハ、黙ってなさい。三線を出さない。
ギタリストも負けじと楽器を出すな。2人とも、その物騒な楽器をしまえ。
「みんなでKsデンキスタジアムに行くんですよね!? 青い旋風を巻き起こしに! 今度こそ、1シーズンだけでJ2に戻るなんて事は避けないといけないんです! さぁみんないっしょに応援しましょう! ゴーゴー! Vファーレン!」
誰がブラジル体操を止めていいと言った。
妙に青いシャツ着てると思ったら、それはアレか、Vファーレンのユニフォームか。はるばる長崎からご苦労なことだな。
それはそうとして! 諸君! 思い出せ!
我々黒山羊倶楽部の組織の目的はただひとつ!
来たるべき『審判の日』に、我らの主たる地獄の大魔王、サタンに従い永遠の命を得ることだ!
666、獣の数字はアンチキリストの象徴、その数字が揃う明日こそが、最後の審判の日!
だからこそ! だーかーらーこーそー! こうして吾輩は諸君に招集をかけたのだ!
我らが主、大魔王サタンへの忠誠を誓うため……ってなんだこの臭いは……?
コラぁそこのアロハ! 大勢が集まる場所でひーじゃー汁を出すんじゃない! っていうかどこから出したそのスープは!
「うちなーんちゅなら、みーんな魔法瓶に入れてるさ」
絶対嘘だろ! しまえ! っていうか飲み干してしまえ!
……しょっ……諸君! 吾輩は! 大いに! 失望している!
何のために吾輩がこうして! 記念すべき! 666の日を目前に集会を催したと思っている!
良いか! 最後の審判はもう目前に迫っている! 神などという偶像を信じる愚かな民衆と違い! 吾輩も! 諸君も! 大いなるサタンの手に護られて――
「そもそも最後の審判って何度もあったら最後じゃないよね」
「前の前って何かあったっけ?」
「何かあったかなぁ? 私20年前とかまだ生まれてないし」
お、落ち着きたまえ同志たち!
20年前はほら、ライブドアショックで日本の経済が大混乱に陥っただろう!
アレこそはサタンの御業! あの未曾有の経済的大混乱を思い出すのだ!
「私は……あのショックで莫大な借金を……」
え、あ……え? そうだったの?
「サタンさまを信じていたのに……信じていたのに! どうせ私のお金とカラダが目当てだったのよ!」
いや、ちょっとほら、落ち着いて。
そのー、ほら、カラダはともかくとしてね? お金はそう、お布施的な? ね?
「未だに私はあの時の借金を返し続けてるわ……サタン様が何よ! 私の心とカラダとお金を弄んで!」
いや、言い方……って諸君? あの、吾輩の話はまだ半分も終わっ……あの、席に戻ってー? 戻ってぇー?
……いや、みんな吾輩の話の途中で帰るとか、ヒドくない?
「総統? ひーじゃー食べるねー?」
……君、まだいたのね?
せっかくだし、もらおうかな……。
総統、辞めようかなぁ……。
カレンダーを見て思いついたネタを、昼休み使って一気に書き上げました。
なお勢いだけで校正はしてませんw




