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波乱の気配 -03


「絡まれたというか、巻き込まれたというか…。」


「お前変なのに好かれるもんな。お人よし。そんなんじゃいつか刺されるぞ。」


「…だなぁ。」


明るくもわずかに真剣味を帯びた口調で言う裕介に対して、朔也はすぐに言葉を返すことが出来なかった。2週間前の出来事を話せば、きっと世話焼きな彼は心配して被害届を出すように言うだろうが、面倒事は避けたかった。ただでさえ共に暮らす姉の美琴からも、汚れた衣服で帰りついたところを見られ、不審げな視線を向けられているのだ。


着替えを終え、練習場に入ると授業の30分前ということもありまだ先客はいなかった。


「そんで、最近のその不幸体質は何が原因なんだ。」


ウォーミングアップの柔軟ため開脚した足の間から顔をこちらに向けつつ、裕介が再び問う。


「最近物騒だろ?この間ニュースでもやってたけど、通り魔とかさ。なんだっけネットで話題になってる…ほら、文字みたいなのが出て発狂しちゃうのとかさ。」


裕介の言葉にどきりとしながら平静を保った振りをしつつ朔也は何気ない振りをして答える。


「あぁ…フェイク動画だって噂になってたけど、確かに立て続けにニュースになってるな。裕介は信じてるわけ?」


「いや、最初はさどうせネットのやつらが勝手に創ってんだろって思ってたんだけど。」

そこで裕介が神妙な表情で続ける。


「ヤマトがさ、最近中学校で変なものを見たって言うんだよ。あいつの担任、いわゆる体育会系の今どきちょっと珍しいタイプの熱血先生なんだけどさ、あの政治家のニュースを見て以来、どうにも変らしいんだよ。」


「変って?」


「いつも明るいっていうかちょっと暑苦しいくらいだったのに、急に全然喋らなくなっちゃったらしくてさ。しかも人の顔が真っ黒に見えるって言って、体調崩して休職しちゃったんだよ。」


真っ黒な人の顔には心覚えしかない。頭の中で黒く塗りつぶされたような女の顔がよぎる。朔也の異変に気づくことなく裕介は続ける。


「しかもさ、その症状を聞いた他のクラスの先生も、最近おかしいらしくてさ。ただでさえ担任が1人減って大変な中で、仕方ないからローテーションでうちとその先生のクラスを回すらしい。なんか感染してってるみたいで気味悪いよな。」


伝染している───?


自分の体から血の気が引いていくのが明確にわかった。修一は伝染ると言っていただろうか。だとしたら自分と一緒にいる裕介にも影響があるかもしれない。


「朔也…?大丈夫か、顔色やばいぞ。」

裕介に肩を掴まれてはっとする。のぞき込まれた祐介と一瞬あった瞳をぶつけることが恐ろしくなり、思わず目をそらす。


朔也の中で、先日の女との出来事からこの2週間の出来事が脳裏を駆け抜ける。老婦人や怒鳴り声を上げた男の行動が、もし自分から感染したものだったとしたらー。ここ最近の奇妙な出来事の数々が頭の中でひとつの答えとして繋がりつつあった。


「ごめん、ちょっと用事思い出した!」

立ち上がり、背後から呼び止める声を背中に聞きながら、朔也は振り返ることなくその場を立ち去った。



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