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波乱の気配 -02

 都内に2つあるうちの、いわゆるハズレといわれる立地をメインキャンパスにする朔也の学科は、消防士や警察官といった肉体系の公務員の道を目指す学生の多い公立大学だ。


授業は座学に限らず、実務に役立つ身体を動かす授業が多々あり、女子生徒からは大変不評な学科ということもあってか、全体を見ても男子学生を占める割合が9割と男所帯の学科だ。


校門を抜け、木の生い茂る第一棟を横目に図書館棟方面に向かうと、唯一リフォームの追いついていない体育棟が姿を現す。3限目は護身術だ。犯人や暴れる人間を前にした時の対処を実戦形式で学ぶこの授業は、現役の警察官が指導に来ることもあり、厳しくも実際に起きた事例を交えながら、実戦形式で学べることもあり人気の授業だ。


かく言う朔也も男性にしては細身な体躯を活かした、素早い動きを褒められることも多くお気に入りの授業だった。しかし、今日に限っては心持ちがいつもとは違っている。──先日起きた衝撃的な事件の後、不幸なハプニングに連続して見舞われていた。


ある時は、バス停で待つ老婦人から顔を見て叫び声を上げられ職務質問を受け、街中で突然男につかみかかられるー、居酒屋のバイト中に以前見た女のように”ナギ”というものを張り付けた客を前に思わず悲鳴を上げてしまう──。


不運と呼ぶにはあまりにも意志を持ったような不幸と、なぜか突然見えるようになった”ナギ”という怪現象から目を背けながらも、改めて護身術を学ばなくてはと感じていた。歩くたびに引き攣る右足に違和感を感じながらも下駄箱へと向かう。事件から2週間がたち、ようやく縫合された傷跡にはかさぶたができ始めている。


結局、那月堂でミドリらの治療を受けたのみで、病院へは行っていなかったが特段異変は無い。元看護師というのは本当だったのだなと思いながら、かがみこんで外靴を脱いでいると、背後から重みのある物体が覆いかぶさってきた。


「今日も早いな。」


「重い!そういうお前もな。」

反り返る反動で相手を押し戻しつつ振り返ると、自らよりも頭一つ分は視線を上にあげた位置に顔のある人物がにこやかに笑っていた。


「朔也がひとりでウォーミングアップしちゃうから、付き合ってあげようと思ってさ。」


「全然ひとりで問題ないけどな。ヤマトくんはもう夏休み空けたのか?」


「うん、新学期早々お土産をみんなに渡したくて朝5時から起きてたよ。」

欠伸をしながら答える裕介は、シングルマザーの母に代わって10歳の弟と15歳の妹の世話をしている。


「元気なのはいい事なんだけどねえ。いかんせん朝が早すぎるのよ。こっちは仕事終わったのは夜の1時過ぎだってのに。」

愛おしそうに脳裏にその姿を浮かべているその表情は、少し不満げでもある。


「働きすぎて風邪ひくなよ。」

同情を嫌うことは、高校からの付き合いでよく知っている。肩を叩きながら労うと、同じように反対側から肩を叩かれる。


「お言葉を返しますがお前もな。まーた変なのに絡まれたんだって?」

内履きを履いた裕介が更衣室へ向かいながらにやりと笑う。先日、男性に絡まれたことが原因で予定をすっぽかしたばかりだ。



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